OIS-029「夏の日差しを通り過ぎ」
学校という日常が、また始まる。
久しぶりの制服に、袖を通すもその暑さばかりが身に染みるのだ。
「向こうの方が涼しかったかなあ……」
「海は遠いんだろ? 少し北側なのかもな」
そうして2人でだべりながらの登校中、1つのことに気が付いた。
今年は、佑美とばかりであまり級友たちと遊んでないな、と。
ついつい、異世界用の調べ物や、それに関しての行動をしてしまっていた。
付き合いが悪い、そう思われてるかも……いや。
「佑美、その……さ。付き合い始めたから2人であちこち行ってたってことにしていいか?」
「なんで?」
シンプルな否定の言葉に、思わず顔をあげて……彼女の表情に固まった。
心底不思議そうで、訳が分からないという感じだった。
「実際そうじゃない? 隠してても、多分言われると思うし……」
「あ、ああ。そういうことか……」
一瞬、付き合ってるというのは俺の妄想なのかと思ったが、そうじゃなかった。
事実そうなんだから、別に話を合わせなくても大丈夫、ということだったのだ。
そう思うと、急に体が軽くなった気がする。
学校について、いつものように席について近くの級友とだべる。
みんな、黒くなったり、だるそうだったり、と夏休みの結果が目に見える。
「よう、海振り」
「結構焼けたなあ?」
海で出会った級友は、真っ黒だった。
数日すれば、皮も捲れてひどい模様になっていそうだ。
さすがに新学期初日だけあって、みんなまだ休み気分が抜けていないように見える。
(ま、最初は半日だしな)
部活動も、来週から再開のはず。
まだ片足は夏休みって感じだけど……休み明けのテストは、すぐそこだ。
「そっちも、結構変わったな? こう、大人びた」
「そうか? 自分じゃ、わからんな」
「あれだろ、佑美ちゃんと何かあったんだろ」
ぎくっとした。
隠すことじゃないと、事前に確かめ合っていてもこれだ。
まあな、なんて適当に答えていたら、教室の隅で歓声。
思わずそちらに顔を向ければ、佑美が級友に捕まっていた。
正確には、一方的に佑美が問い詰められているって感じで……ああ。
「休みの前は、そうでもなかったのに……踏ん切りがついたのか?」
「ちょっと違うけど、まあ、そんな感じ」
事前に考えてはいたけど、実際に口にすると妙に気恥ずかしくなってくるものである。
先生が来るまでわいわいとした時間は続き、そしてあっという間に放課後が来る。
先生たちも、どこかまだ本調子じゃないようで宿題の提出、それに関するあれこれといった内容だ。
例外があるとしたら、俺が佑美のためにと調べたついでの、社会科系の科目ぐらいだ。
よくある問題集以外に、調べ物をしてこいという宿題。
さあ帰るかというところで、たまたまその先生に捕まったのだ。
もしかしたら、気にして訪ねてきたのかもしれないけれども。
「少し、時間いいか?」
「はい、大丈夫ですよ。何か書き忘れありました?」
せっかく宿題をやったつもりなのに、抜けがあってはつまらない。
そう思って聞いてみたのだけど、そうではない様子。
「いや、軽く見ただけだけど、良く調べてある。何気ない街でも、意外に歴史があったりして面白かっただろう」
「ほんと、そうですよね。最初は、そんなつもりはなかったんですけど熱が入りました」
実際には、異世界でも使える技術がなんかないかと、色々調べた結果なのだけど、まあそれはそれ。
どうやら先生は、自分が考古学とか、民族研究というのかそういう方面に進みたいのかと心配しているようだ。
先生自身、一回そっち方面にいったけど駄目で教員になったってどっかで聞いたことあるな。
「食べていけるイメージないですからね。あくまで興味があったからということで」
「それはそれで先生は悲しいが、まあ事実だ……。見学とかしたい場所あったら、声をかけてくれ。昔のツテが使えるかもしれん」
「それはありがたいです。やっぱり、高校生がいきなり行ってもちょっと……」
いきなり学生がきて、土蔵見せてください!なんて言ってもね。
先生の紹介なら、勉強のためにと見せてくれるかも。
「そうだな。ああ、2人で来るなら先にそう言ってくれよ?」
「え? 先生まで知ってるんですか?」
思ってる以上に、佑美との話が広まってるらしい。
指導室に呼ばれるようなことはするなよ、と一言残され、先生を見送る。
「指導室……気を付けよう」
「あ、たっくんいた!」
ある意味で、気を引き締め直してというところで衝撃。
振り返るまでもなく、佑美が突撃してきたのだった。
「急にどうした? こんな場所……で……」
それでも振り返った俺が見た物は、なんだか怒った様子の佑美に、廊下の先にいる見覚えのある顔。
こっちを指さして、きゃーなんて騒いでる。
「その……私の事、幼馴染だから惰性でとかじゃないよね?」
「一体何を……ああ、そういうことか」
恐らく、級友との会話で、不安になったんだろう。
とはいえ、さすがにこんな場所で出来ることは限られている。
級友に見せつけるのもなんなので、少し先の人気のない側の階段に引っ張っていき……。
「これでいいかな、佑美」
「そこまでしてとは言ってない……」
何をしたか? ついてきた形の女子が揃って驚いているってことで察してもらおうか。
せっかくの午後だし、買い物だってしたい。
真っ赤な佑美の手を引いて、女子たちに軽く挨拶もして、そのまま商店街へ。
「学校じゃ、ああいうの禁止」
「不安がってたのは佑美じゃないか。まあ、俺も家とかのほうがいいけど……」
結局、恥ずかしそうに時折呻く佑美と一緒に、買い物を済ませる俺がいた。
「季節はあっという間だ。冬に備えて、向こうで出来ること、考えていこうぜ」
「あっ! うんっ!」
元気を取り戻した佑美が、一番きれいだなと思った俺だけど、そこまでは口にしないのだった。




