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OIS-010「目に見える絆を君に」



 俺の幼馴染が、異世界で聖女をやっているらしいと知ってから半月。

 4月が終わる……となれば、何があるかわかるだろう。

 そう、ゴールデンウィークだ。


「言っておくけど、休みだからってずっと向こうってのは無しだぞ」


「ええ!? 駄目!?」


 向こうで体を動かす機会が増えたのか、最近食べる量が増えた気がする佑美。

 日焼けもしてるから、そのあたりにも気を使って欲しい気もする。

 と、簡単にわかる変化としてはこれぐらいだが……。


「この前、佑美自身が言ってただろ? 佑美の人生だから、俺が強く言えることじゃないかもしれないけど……何か月分も向こうにいられたら困る。それに、向こうに行けば行くだけ、情が湧く。こっちと違って向こうじゃ選ばれた存在だ。入りびたくなるのはわかる。でも、娘はどこに行ったか知らないか?って聞かれて欲しいのか?」


「うっ……それを言われると……」


 少し強く言い過ぎたかなとも思うけど、嘘ではないし、間違いなく近い将来この選択が訪れる。

 何より、向こうが100%安全だとは誰も保証してくれないのだから。


 急に親が帰ってくる分には、出かけてるんじゃないか?ってごまかすことは出来る。

 それでも、この部屋に戻ってくるんだからタイミングが難しい。


「今まで通り、夜だけがいいと思う。上手く時間が調整できればいいんだが」


「こっちで1日経つと、向こうでも1日。だけど向こうで過ごす1日は、こっちで1時間なのは変わらないんだよね……不思議だけど」


 話を聞く限りでは、まさに魔法、あるいは神様の力といったところだろうか?

 巻き戻しというか、過去への移動が無いだけ普通……か?


「なるほどな。今のうちに、扉を出す場所を変えよう。向こうで、たまにやってくる相談役、みたいにしてもらっていない間は別世界を旅してるみたいにしよう」


「たまにやってきては口を出す子供って、邪魔に思われないかな?」


 佑美の心配はもっともだった。

 ただ、既にそのステージは突破していると言っていい。


「まだ佑美が、聖女と呼ばれたりしていなけりゃ、な。畑は順調なんだろう? だったら、逆に常にはいないほうが説得力が増すさ」


「そっか。じゃあこれからも、実験をして問題なければどうぞ村に使ってくださいってのでいいのよね?」


「病気も、今のところは大丈夫みたいだからな。本当に、何事も無くてよかった」


 これに関しては、心の底からそう思っている。

 風土病にはすぐに発症するのもあれば、そうでないのもあると、図書室で読んだ本にもあった。

 そう考えると、まだ油断は出来ないのだけど、ポイントは佑美自身の魔法にあった。


「癒しの魔法でも、必要が無い感じだから、健康体ってわかるようになったしねー!」


「いざとなったら、マッサージ店かエステでもやるか……いや、こっちでどれだけ魔法が使えるままか、わからないな」


 つい先日、料理中に指を切った俺を、あっさりと佑美は治療した。

 真剣な表情で、そっと俺の手を握って何事かを呟く姿は、正直……可愛かったと思う。

 その結果、分かったことは2つある。


 1つは、こちらの世界でも今のところは異世界同様に魔法が使えること。

 もう1つは、佑美の魔法には種類があることだ。

 相手の回復速度を向上させる物と、周囲からの力で治すものと、だ。


 こういう時にありがちなのが、魔力が地球にも存在したとかそういう話。

 今のところ、佑美もその魔力そのものははっきり見えないらしい。

 だから、こっちではいつ魔法が使えなくなるかが怖いのだ。


「例の特産品の収穫がもうすぐらしいから、準備もしておかないとな」


「うん。でも私が何かやることあるのかな? 手伝う?」


「たぶん、直接はないだろうな。けが人が出るかもぐらいじゃないか? 出来れば商人がやってくるタイミングで、周辺の情報を仕入れたいな。鉱山だとか、そういうの。この前見たお店みたいに、何か持ち帰られたらいいかもしれない」


 気が付けば、俺も異世界からの持ち帰り、そして持ち込みにあまりうるさく言わなくなっていたのを感じる。

 もちろん、ラベル付きのものとか、ゴミになるようなものは注意している。

 だから、詰め替えが出来ない物はもっていけない。治療用品や消毒液とかな。


 本音は……何かをきっかけにして、佑美と話す時間を増やしたい、ってとこかもしれない。

 やることがたくさんある佑美は、輝いている。

 噂じゃ、学校でも話題にする男が少しいるって話だ。


「佑美、本当に気をつけろよ。向こうじゃ、法律がないんだ」


「う、うん……そんな怖い顔しないでよ」


 自分で思ってる以上に、気にしてたらしい。

 佑美曰く、怖い顔になっているらしい顔を両手でもみほぐし、反省。

 怖がらせるつもりじゃ、ないのだ。


「村の治安はいいみたいだけど、それだって上手く行っていれば、だと思う。何かあれば、魔女裁判みたいになるかもしれないし、村の外になればまったく別世界だと思った方がいい。佑美が思ってる以上に、他の国や昔は、女性が本当に大変な立場だったらしいからさ」


 俺も、調べたぐらいでしかわからないから、どこまでわかってるかは怪しい。

 けれど、少なくとも襲われたからと敵をとってくれる警察組織のようなものはほぼ無いことは、わかっている。


「だからじゃないけど、これ」


「え? あっ、そういえばあの時、私はこれ買ってない!」


 なかなか渡す機会がなかったもの、それは雑貨屋で買った佑美が選んだアクセサリだ。

 せっかく包んでもらったのに、今日の今日まで渡せなかったのは我ながらヘタレすぎる。


「佑美の、異世界記念に」


「えー、何それ。変なの! いいわ、つけてよ」


 色付きの石英がメインのネックレスを、誘われるままに佑美に付けるべく後ろに回る。

 気にしているのかいないのか、聞くのが怖い……佑美の髪をあげた首裏、うなじ。

 少しドキッとする気持ちを抑えて、ささっとつける。


「ねえ」


「似合ってる。シンプルだけど、いい感じだな」


 俺も、こういう時どうするかぐらいはわかっている。

 しっかりと褒めると、笑顔になった佑美がいた。


 と、ここで鳴る時計。

 いつものように、佑美が出かける時間だ。


「いってきます」


「ああ、いってらっしゃい」


 そして今日も、佑美は異世界に飛ぶ。


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