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OIS-009「街角デート」



 いつもと同じはずの、日曜日。

 その日は朝から、緊張の中にいた。


(髪の毛は跳ねてないな、よし)


 こんなに身支度を気にしたのは、いつ以来だろうか?

 むしろ、人生初かもしれない。


「なんでもない……普通のはずだ……うん」


 佑美のことは、いつも学校でもからかわれているのだ。

 今さら、そう……今さらだ。


 じゃあ全くの他人で、何も気にしないか?と言われると嘘になるのが難しいところ。


「まだ早いかな? ひとまず、出るか」


 ほぼ1人暮らしだと、本当に独り言が多くなる。

 変なことを言わないように気を付けないと……。


 そんなことを考えながら玄関を開けると、目の前にいると思っていなかった人物がいた。


「よ、よう。早いな」


「おはよっ」


 誰であろう、今日出かけるはずの相手、佑美だ。

 数回見たことはあるけど、普段着ないだろう服装だった。

 気のせいか、髪もいつもよりツヤツヤしてる気がする。


「朝飯どうする? 向こうの喫茶店にでも寄るか?」


「う、うん。そうしよっ」


 なぜか緊張した様子の佑美に、こちらまで浮ついてしまう。

 ふわふわした気持ちのまま、小さい頃にしていたように手を差し出してる自分に気が付いた。

 幸いというべきか、佑美は既に前を歩こうと進み始めていたので見えていなかったようだ。


(この歳じゃ、な)


 拒否されてしまった時がなんだか怖くて、手を引っ込めて横を歩く。

 目的地である商店街までは、20分少々といったところだ。


「そういえば、丸1日向こうにいたら、こっちだとほとんど一か月。夏休みとかにずっといたら、1年たっちゃうのかな?」


「それはまずいな……佑美、気が付いてるかわからないけど、確かに髪の毛も良く伸びてる」


 歩きながらの雑談にしては、やや重い気もする話だった。

 隣を歩く佑美の髪は、今言ったように、確実に長くなっている。

 まだ今のところ、伸びるの早いよねぐらいに収まってるとは思うが……。


「俺たちが大人なら、変化も少ないだろうけど……佑美だけ1年先輩みたいな体になってくるかもしれない」


「私だけ先にそうなるのは、嫌だな。ちょっと気を付けるね」


 そんなことを話してる間に、商店街が見えて来た。

 近くには、いわゆる大型の商業施設があり、この商店街も少し寂しいところがある。

 逆に、商店街らしさをということで普通じゃないお店がちょこちょこあるのが特徴だ。


 俺にはよくわからないけど、昔ながらの純喫茶ってのが売りらしい店に2人で入る。

 高さのあるカウンターと椅子っていうのも、なんだか面白い店だ。

 ここのマスターと両親たちは知り合いらしく、相手も俺たちのことを知っている。


「久しぶり。ホットとアイスどっちがいい」


「ホットの多めで。あっ、パン食べ放題なの? やったぜ」


「私もホットで。お隣の試作品ですか?」


 お店の中央で、テーブルに乗った様々なパンが目に入った。

 そこには、食べ残しはないように、とだけある。

 普段見かけないパンばかりなのは、佑美の言うように隣のパン屋さんのものだからなのだろう。


 昔から、一緒に企画を考えたりしてるそうである。


「人気のパンは作り続けるとして、新しさを探すのは職人の性とか言ってたなあ」


「まだマスターも若いじゃないですか。それに、いつもブレンド試してるんでしょう?」


 完璧なブレンド、完全な一杯なんてのものは存在しない、とはマスターのいつものセリフだ。

 性別や年齢、体調その他で一番おいしく感じる珈琲は変わる、という考え。

 だから、今日のブレンドという名前のメニューは他より少し安かったりする。


「せっかく試しても、飲んでもらえないのは悲しいからねえ。それより、お祝いした方がいいの?」


「? なんのです?」


 まったく心当たりがない話だった。

 誕生日は2人とも先だし、何か賞を貰うようなことをした覚えもない。

 パンを選びにいった佑美を見ても、いつもとは違う気合の入ってる服装ってだけで……あ。


「残念ながら……今日はちょっと気合入ってるだけです」


「そうかい? そうは見えなかったけど……まあいいか。はい、どうぞ」


 大きなマグカップに注がれた珈琲。

 まずは湯気のように出る香りを楽しみ……そっと一口。

 気持ちも、どこかすっきりしてくる気がした。


「んー、クルミのいい香り。食べる?」


「貰おうかな。そういえばマスター、ああいう木のオブジェみたいなのは買ってくるの?」


「ああ、アレ? 古民家なんかから出てくるのを買ったのもあるし、ほら、すぐそこの店で買ったのもあるよ。ああいうテカリのある奴は、昔の家ならよくあったんだよねえ」


 俺はマスターの話を聞きながら、異世界との物のやり取りに思いをはせていた。

 こっちと、あっち。両方の良いとこ取りなんてのは、なかなか厳しいだろうなという予感も交えつつ。


 ちょっと前に、流木をアクアリウムに使うっていう話も見た覚えがある。

 これなら、俺みたいな高校生でも、やれるかな?


 落ち着く時間を過ごし、2人で喫茶店を出る。

 まだ開いてないお店も多いし、なんだか早起きは得って感じだ。


「あ、もう開いてる。さっそく寄って行こうか」


「うん。入ったことなかったよね、ここ」


 目的の店は、まだ朝早いというのに既に明かりがついている。

 それも蛍光灯ではなく、ランプというこだわり。

 アンティークな感じで、雰囲気が出ている。


 扉を開くと、そこは異世界の様だった。


「うわあ……」


「すごいな」


 外からもわかったけれど、主に西洋だろうアンティーク小物や、木製の家具というよりもうオブジェ。

 それに、パワーストーンというのが似合う石たちが並んでいる。


「いらっしゃい。手ごろなのもあるから、見て回ってごらん」


「ありがとうございます。あ、ほんとだ。100円だって。こっちは……3万!? すげえ」


「色々あるんだねー」


 店長か店員だろう人は、年齢のわからないおばs……お姉さんだった。

 喫茶店のマスターの話からすると、結構前からあるみたいだから2代目とかかな?


 女の子が好きそうだなあというコーナーもあり、意外とお客さん来るんじゃないだろうか?


「勉強になるなあ……佑美?」


「え? ううん。私、これにしようかな」


 そういって手に取ったのは、小さな色付き石英がはまったネックレスだった。

 値段は……うん、問題ない。


「これはもっておくよ。他にもいいのあるかもしれないから、見て来いよ」


「うん! そうするね!」


 こういう時は、やっぱり女の子だなと感じる。

 そうして店の奥まで佑美がいったところで、店長?とアイコンタクト。


「ちょうどにしとくわ」


「ありがとうございます」


 お札を数枚手渡し、ささっと包装してもらった。


 戻って来た佑美がどういう受け取り方をしてくれたかは、内緒だ。



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