第234話 街道の鬼
次の街メルカディアに続く街道、川沿いの水場にて。
冒険者や旅人たちの悲鳴が木霊する。
点々と灯る焚火と星の光が照らすその場所に、悪夢の鬼が現れた。
辺りに散乱する破壊された馬車の破片と、倒れ伏して痙攣する数名の人間。
死んではいなさそうだが、脚が逆方向に曲がっていたり、馬車に突っ込んだのかぐったりと倒れ込んだりと酷い有様だ。
俺は『神罰の雷』を発動し、鬼の姿をしたミューズに斬りかかる。
合わせて『魔王の瞳』を発動、奴のステータスを確認した。
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▼NAME▼
ミューズ/オーガ
▼SKILL▼
・飢餓の戦鬼 SS
・暴力機構
・筋繊維硬化 A
・ホーリーフィールド A
・ヒーリング A
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「やっぱりミューズか!」
ガギンッ!!
俺の刃を、ミューズは掌で受け止めた。
肉体とは思えないような金属音が響き、俺は驚く。
「見つ……けた……」
くぐもった少女の声で、ミューズが口を真横に引き裂き嗤った。
「!?」
ノルドヴァルトで倒したミューズ/アルケニーよりも、さらに流暢に言葉を話している。
いよいよ人間みたいになってきたなと、俺は背筋に薄ら寒いものが走っていった。
しかも見つけた?
赤光石ではなく、俺を見てそう言ったのか?
「あな……たじゃな……い」
ティアを探しているのか?
こいつは俺をティアのパーティメンバーとして認識しており、人の顔も覚えている。
ゾワリとした悪寒が走る。
人の声を喋っているのに、人でない違和感と嫌悪感を持つ”不気味の谷”現象のようだ。
ミューズは、俺の剣を受け止めたまま拳を振りかぶり、思い切り俺を殴りつける。
咄嗟にかわすと、その拳圧だけで地面に穴が開く。
ゴバァッ!という衝撃音と共に、巻き上げられた土や草が舞い上がる。
「うそだろ……!」
とんでもない膂力。
こんなものが直撃したらただでは済まない。
アルケニーとは違い、今回は完全な攻撃型のミューズのようだ。
俺は背後への跳躍から、再び閃光と共に駆け抜ける。
そして、彼女の首を断つべく再び前へと奔る。
だが。
ゴギッ!
剣で岩を斬り付けるような音がした。
ミューズの首には刃が通らず、わずかにのけ反る程度だ。
恐らくスキル『筋線維硬化』の力だと推測される。
名前の通り筋肉を固め、攻撃にも防御にも扱えるといったところだろうか。
「赤い骸……ちょう……だイ……!」
まるで、覚えたての言葉を楽しむ子どものように。
口元に気味の悪い笑みを称えたまま、ミューズが俺に殴りかかる。
重いだけでなく速い。
俺はそれを刃で受け止めるが、拳の衝撃は殺しきれずそのまま数mも吹き飛ばされた。
「まさにオーガって感じだな……」
俺は倒れないよう体勢を保つが、靴底で踏ん張っても擦り切れそうなほど後ろへずり下がった。
さてどうする?
硬化が常時発動なのか自身で切り替えているのかは分からないが、剣のインパクトの瞬間にはもう固められている。
だがこちらの衝撃が通っていないわけではない。
もう少し試す必要がありそうだ。
「いくぞ……!」
バヂッ!!
稲妻が近くの川面に反射し、一瞬だけ夜が昼に変わった。
俺は激痛に苛まれる中、真っ直ぐにミューズに向けて突進する。
あえて受けさせる。
ズザザザザ……!!!と俺の蹴りを真正面から受けたミューズが地面に痕を残しながらずり下がり、俺の足首を掴もうとする。
が、そうはいかない。
俺は再び稲妻と共に跳躍し、背後を取る。
剣の先がミューズの肌を掠め、奴の青白い皮膚から赤い血が噴出した。
「なるほど……常時発動じゃなさそうだな」
「ガァァアアア!!!!」
怒り狂ったミューズがすぐに振り返り、拳を突き出す。
破城槌のような一撃が、俺の剣での防御ごと弾いて吹き飛ばした。
「ぐっ……!!!」
腕が痺れ、握っていた柄が滑りそうになるが、奥歯を噛み締めてこらえる。
直撃をもらったらかなりまずい。
俺はすぐに奴に肉薄し、手近で雷鳴と共に駆けあがる。
「無……意味……」
腕で剣を受け止められるが、すぐに側頭部に蹴りを叩き込んでやった。
グラリと揺れるミューズ。
髪で隠れた顏には、やはり眼が無かった。
「つ……かまえた……!」
無邪気な少女のように呟きながら、俺の足首を掴む。
「ちっ!」
そのまま釣り竿でも振るうように、俺の身体ごと振り下ろして地面に叩きつけてくる。
「グ……ッ!!」
俺はくぐもった声を漏らしながら、両手で剣を構える。
わざと掴ませた。
こいつの虚をつくために。
俺は両手で銀鈴を逆手に持ち、バヂッ!という音ともに上半身を跳ね上げる。
背中から羽のように閃く雷光。
俺が上半身を折りたたむような勢いで、銀鈴がミューズの首筋に突き刺さる。
「ギヤァァァァァアアアアアアア!!!」
俺は背骨がポッキリへし折れるのでないかという衝撃を受けたが、不意打ちには成功した。
奴は痛みにのたうち俺の手を離す。
「死……ね……!」
だが、奴は首から血を吹き出しながら、地面に落ちていく俺の胸目掛けて拳を叩きつける。
銀鈴で受けるが、剣ごと俺の胸が撃たれる。
「ァアッ!」
俺は口から血を吐く。
だが、インファイトをやる以上このくらいは想定内だ。
俺は仰向けに倒れたまま、再び雷を発動して跳ね上がる。
短期決戦で勝負を決める。
長引けば長引くほど俺には不利だ。
バリィッ!!
足元で爆ぜた雷光が、俺の足首を掴んでいたミューズの腕を離させる。
そして俺は、”雷霆”を解き放った。
「ぐっ……」
皮膚が剥がれ落ちそうな痛みの中、俺の身体が弾けるように跳ねる。
「ッッ!?」
ミューズは驚きを見せる。
表情が鮮明にあることにも不気味さを覚えつつも、俺は周囲に向けて稲妻を放った。
放電された光の檻の中を、俺は駆け抜ける。
「『神罰の迅雷』……!!!」
そしてあらゆる方向から敵を斬り刻む、白雷の処刑場を形成。
ミューズは咄嗟に腕で自らの顔や喉を庇う仕草を見せた。
ズシャシャッ! ギンッ!!
肌を硬化させ鈍い音が木霊するが、全身を覆うのは間に合わなかったようだ。
銀鈴の刃が四方八方から襲いかかり、ミューズの身体を刻んでいく。
「いけぇえええ!!!!」
俺は痛みをこらえるように叫ぶ。
もはや意識を飛ばさないようにすることに意識を向けなければならなかった。
そして俺は大地に舞い戻る。
真っ赤に染まった青白い肉体でそこに佇むミューズを見据えた。
「ハァ……ハァ……!」
疲労と痛みで息が上がる。
だが、さすがに全弾直撃とはいかなかったからか、倒しきれなかった。
ミューズはフラフラとしながらも、こちらに殺意と敵意を見せている。
「許さ……ない……」
ミューズの呟きにも、俺はもう焦りすら感じていなかった。
俺は向こうに轟轟と流れる川を見る。
”迅雷”が駄目なら、次の手だ。
「ウァアアアアアアアア!!!!!!!」
ミューズが咆哮と共に一歩を踏み出す。
ドンッ!と大地が沈み、俺目掛けて鉄槌のごとき拳が繰り出される。
俺はそこに向かい、真正面へと疾走。
そしてミューズの女性のような胸に蹴りを入れる。
ビキッ!
「うぐっ……!」
拳がかすり、骨が軋む音がしたが、構わない。
さらに、雷鳴と共に、俺は加速する。
雷の尾を引きながら、ミューズを吹き飛ばす。
「ガウァァァァァ!!!!」
ミューズが抵抗するかのように俺の脚を殴りつける。
骨にヒビくらいは入っただろうか。
だが、まだ行く。
俺はもう一撃、一瞬の『神罰の|雷霆』を発動した。
「吹き飛べぇぇえええええええ!!!!!!」
ズガァァアアアアアアアアアアアアアンンンッッッ!!!!
雷速での突進に、ミューズは地面を黒く抉り取りながら吹き飛んでいく。
辺りの巨岩を砕きながら、奴は幅広い川の濁流の中へ突っ込んでいった。
暗闇の空に水柱をあげて、周囲には水しぶきがパラパラと降り注いだ。
「ハァ……ハァ……よし」
俺はミューズが濁流に呑まれて上がってこないのを確認する。
凄まじい力だったが、どうにか撃退できたようだ。
俺は振り返り、自分たちの馬車を見る。
そこでは、心配そうにティアがこちらを見ていた。
俺は安心させてやろうと拳を掲げた瞬間。
「……あれ?」
ドサリと、身体が地面に倒れていくのを感じた。
身体に力が入らない。
俺はウィルブロードでの旅2日目にして、ツェリナのとき同様に限界を迎えたらしい。
馬車を飛び降りてこちらに走ってくるティアを見ながら、さて、どう言い繕おうかと自嘲しながら考え始めるのだった。
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