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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第七章 ウィルブロードへの路編

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第226話 苦難の旅路


 いよいよウィルブロード皇国に入国した俺達。

 と言っても、景色自体にはさほど変わりが無い。

 リヒテンハルを出て反対側にはもう街が見えているので、あそこまで行けばまた違うのかもしれないが。


「あれがウィルブロード側の国境の街『セラフィオン』だよ」


 ティアに代わって御者台に座った俺の前方数百メートル先に、『セラフィオン』の街が見えていた。

 赤と茶系の屋根が並んでいたリヒテンハルとは違い、セラフィオンには青と白の屋根や尖塔が見える。

 ロングフェローからウィルブロードへと移った実感がようやく少し湧いてきた。


「ウィルブロードはロングフェローとどういうところが違うの?」

「ふわっとした質問ね。そうね……貴族制はロングフェローほど強くない。国教があるから、聖庁と王室で権威が二分されていた、といった感じかな」


 恒例の、新しい国に入る際の前情報を教えてもらうお時間だ。

 ティアだったりミユキだったりが説明してくれるのがいつものことだが、今回はミユキもいないのでティアに教えてもらう


「エクレア何とか教だっけ?」

「エクレシア・ルクス・ディヴィナリア。ディヴィナリア教だよ」


 国教のディヴィナリア教、それを統括する聖庁からティアは旅に出ている。

 そして王室のシグフリード第一王子がティアの支援者でもあるとのことだ。

 

「権威が二分されて”いた”?」


 何故か過去形だったティア。

 まるで今は違うかのようなもの言いだ。


「まあ今も一応そうなんだけどね。ただ聖庁のトップである”巫女”がいなくて、派閥の対立を煽っていた王室の連中は全員粛清されたから」


 きな臭いことを言い出したティア。

 美しく荘厳なイメージのあるウィルブロードでも、そんな血なまぐさい政争が行われていたと知り、俺は眉をひそめた。


「じゃあ聖庁ってのは今機能してないってこと?」


 そんなことあるか?と思いつつ疑問を口にする。

 国教を管理している事務方の職員がいれば回るのかもしれないが、代表者は必要だろう。

 聖女は200年に1度くらいしか現れないと言われており、巫女がいないときは”巫女代理”が代わりを務めると以前ティアは言っていた。


「巫女代理が……一応」

「へえ、どんな人?」


 やっぱりいるのか。

 言われてみれば先日そんなことを言っていた気がする。

 だがティアは、少し口ごもった。

 あまり良い印象が無いとかだろうか。


「……し」

「え?」


 ボソボソと何か言っていたので思わず聞き返す。

 辺りには国境を通った馬車も多く、石畳を転がる車輪の音でヒソヒソ話はあまり聞こえないのだ。


「だから、私だってば!」

「は……?」


 俺はアホみたいな声を出した。


「私、巫女だったカリン様の養女だから……私が巫女代理になってるの」

「ええっ!!? ティアはウィルブロードの偉い人ってこと?」

「別に偉くないよ。書類上そうなってるだけだし、仕事は全部シゼルさんがやってくれてるし……あ、まあでも一応”特権”も一つだけあるんだけどね……」

「へえ、どんな?」


 まさかこんな旅の終盤、しかも目的地が近くなった時点でそんなことを知るとは。

 ティアはウィルブロードの”巫女代理”。

 聖庁の実質的トップだ。

 そんな彼女が、いくら復讐という目的があるとはいえ、国を出て旅をしていてもいいのだろうか。


「まあそれはいいよ。とにかく、私は一応聖庁側の代表だし、王室側のシグに支援してもらってる。だから権力闘争は今ウィルブロードでは無いってこと」


 なるほど、だから過去形だったのか。

 まあティアには、権力闘争に巻き込まれて内政でごちゃごちゃやっている暇など無いだろう。


 俺ももしかしたら住むことになるかもしれない国だ。

 変なごたごたが無さそうというだけでもありがたい。


「そうなんだ。まあでも安心し」


 ゴッ!!!!

 

 それは突然、本当に何の前触れもなく現れた。

 呑気にティアと喋っていた俺は、いきなり側頭部に頭が首からもげるのではないかという衝撃を受けて御者台から転げ落ちる。


「フガク!!!」


 俺は何者かに顔を殴られたか蹴られたかして、地面を転がったのだとようやく気付いた。

 口の中を切り、地面に転がった所為で血と土の味がする。

 俺は口元を拭いながら、衝撃が来た方向を見る。

 そこには。


「フガクゥゥゥゥ……! ひっさしぶりだなあァァア……!」

「お前……」


 首元で切り落とされた赤い髪に、獣のような目つき。

 筋肉に覆われた身体は俺より二回りほど大きく、手には鋭く尖った五爪が禍々しい黒鉄のガントレットがギラついている。

 犬歯を見せて狂気の笑みを貼りつけたその男を見て、俺は全身の血が冷たくなっていくのを感じた。


「ルキ……!?」


 ルキアン=ダラス。

 先日、神域の谷にて俺と殺し合った、『トロイメライ』の暗殺者だった。

 絶対生きているとは思っていたが、まさかこんなところで再会する羽目になるとは思わなかった。


「大丈夫……!?」


 ティアが咄嗟に御者台に乗り、手綱を握りながら俺に声をかけてくる。

 頭が少し揺れたが、まあ大丈夫だ。

 それよりも……。


「何の用だ」

「おいおいおいおいツレないこと言うなよフガクゥ! さぁ、殺し合おうぜ」


 まじかよ。

 俺は馬車を挟んでルキと対峙する。

 こいつはそもそもティアの暗殺を目的とする暗殺者じゃないのか?

 

 最初からその辺は怪しかったが、もはや目的が完全にすり替わっている。

 しかも状況が状況だ。

 俺はフェルヴァルムから受けた傷がまるで癒えていない中、ティアとレオナを守りながらこいつと戦わなければならない。

 

 俺の頬にだらりと汗が流れた。

 

「……お前と戦ってる暇なんか僕には無い」

「カッハッ!! テメェの都合なんざ聞いちゃいねえ!!!」


 ルキは大柄な体からは異様なほどの敏捷性で跳躍する。

 鈍く陽光を反射する悪魔のような爪を振り上げ、叩きつけるように振り下ろした。


「―――『鉄葬拳(てっそうけん)<地獄落とし>』ッッッ!!!!」


 大地を抉り、地盤を巻き上げる威力。

 こいつは本当に人間なのか?

 しかも……前回より速くなっている……!


「キャァアアアアア!!!!」

「な、なんだっ!?」


 こんな衆人環視の中、明らかにヤバそうな奴が暴れ出したので周囲は軽いパニックだ。

 商人の馬車は逃げるようにその場を去り、旅行中の人や旅人たちは悲鳴を上げている。


 こいつは馬鹿なのか?

 こんなところで大騒ぎをしたって、すぐに国境警備の兵が飛んでくるだけだ。


「くそっ……! ティア! 先に行って!」


 やるしかない。

 こいつは話が通じるような奴じゃないし、放っておくとどこまでも追いかけてきそうだ。

 俺は銀鈴を抜き、ティアに叫びかけた。


「……っ……分かった、セラフィオンで待ってる!」


 ティアは一瞬戸惑ったが、馬車内に眠るレオナをチラリと一瞥し、すぐに手綱を振るう。

 逃げていく他の馬車に紛れ、セラフィオンの街まで駆け抜けて行った。


「そうこなくっちゃなァッ!!」

「ルキ、お前何で僕に執着する。僕より強くてお前を楽しませられそうな奴なんて、いくらでもいるだろ」


 アルカンフェルとかヴァルター、エリエゼルなど、俺が出会った中でも超人じみた連中は他にもいた。

 何でわざわざゴルドールから国境を二つも越えて遥々来たんだ。


「ああそうだな。だが……お前より狂った戦い方する奴ぁ、オレは他に知らねェなぁ!!」

 

 再びルキが一足飛びに俺の眼前に現れる。

 バヂッ!

 瞬間、俺は『神罰の雷(プルガトリオ)』を発動。

 身体に走る衝撃に、全身が軋む。


 ……いけるか? いや、行く!


 俺もまた腰を深く落とす。


 そして俺たちは向かい合い、開いた五指を互いに下から上に振り上げた。


「『鉄葬拳(てっそうけん)絶脈斬(ぜつみゃくざん)>』ッッッ!!!」


「『神罰の雷(プルガトリオ)絶雷斬(ぜつらいざん)>』ッッッ!!!」

 

 バギッ!という刃と爪が交錯する音が響き渡った。

 ルキの爪が俺の肩の肉を抉り、すれ違い様俺はルキの脇腹を裂いて行く。

 俺達の視線は互いへの殺意で交錯し、再び二人の間に間合いを作った。

 

 まさか絶雷斬の着想の元になった本人にブチ込むことになるとは。

 俺は無性におかしくなって笑えてきた。


「相手してやるからさっさと来いよストーカー。今度は起き上がれないようにしてやる!」


 俺は体に走る痛みを悟られないよう、ルキを見据えて告げる。

 そしてルキは、口を引き裂くように笑った。


「お前のそういうとこが好きだぜフガクゥッッ!!!」


 こんなアホの相手をしている暇はない。

 『神罰の(プルガトリオ・)雷霆(ケラウノス)』は使えないが、俺は俺の全力をかけてこいつを潰す。

 俺とティアのウィルブロード入国後の一歩目は、血と鉄の匂いの中で始まった。 


お読みいただき、ありがとうございます。

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