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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第六章 魔女と公爵令嬢編 /断章 魔王の記憶編

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第207話 魔王と勇者と聖女の狂詩曲<ラプソディア>④

 もはや、誰にも勇者は止められなかった。


 シェオルに進撃を開始した勇者は、まずは地獄の門へ展開していた魔王軍数千をわずか2時間で壊滅。


 戦士長ドラガン討ち死にの報告が上がった。

 同時に、ステラ側にいた兵の全てがその消息を絶ったことを知る。


 ガシュラ、バルカスら軍部はただちに地獄の門を出た先、シェオル側に軍2万を展開。

 6時間後に全滅の報せが上がる

 それは軍事的定義における”戦闘集団の3割が死傷した状態”を指しての全滅ではない。

 

 文字通り、一人残さず絶命したことを意味する。


 戦況以上に魔王軍の士気低下を重く見た魔王は、魔王城正門前に軍を展開し、勇者を迎え撃つようガシュラに指示。

 だが、驚くべきことに勇者は現れなかった。


「何故だ! 何故勇者は現れない!」


 会議室にバルカスの怒号が木霊し、ガシュラの表情にもわずかながらの焦りが浮かんでいた。

 その場にいる者達の表情も暗い。


 会議室にて神妙な面持ちで座す魔王の顔には、怪訝の色が浮かぶ。

 何を企んでいるのか。


「諜報部隊の報告は何と」


 魔王の問いかけに、ガシュラは首を横に振った。


「勇者を追っていた者は一人と残さず殺されています」

「馬鹿な……勇者と交戦するなと申し伝えたはずだぞ!」


 声を荒げるバルカスに、ガシュラは言葉を返す。


「隠れて居所を探っていた者達も、勇者に全て看破されているようだ」

「おのれ!! すぐに追撃部隊を出せ!」

「落ち着けバルカス。ここで焦っても勇者が出てくるわけではない」

「は……はは!」


 魔王の言葉に、バルカスは牙が覗く口元を引き結んだ。

 バルカスはドラガンの死後、やや焦っているようだった。


 勇者とドラガンの間でどんなやり取りがあったかは分からないが、バルカスとドラガンが仮に刺客を差し向けた首謀者だったとして、次は自分なのではないかと焦っているのかもしれない。

 

 無論証拠も無いが、メルの調査では刺客の一人、リザードマンの男はドラガンと同郷だったという報せが上がっている。


 確証は無いためバルカスやドラガンを追求することはできなかったが、バルカスは魔王だけでなくガシュラやメルからも疑惑の目を向けられていた。


「魔王様……私の星見では、多くの魔族の遺体が見えました。もしかすると……」

「……なるほど」

「ど、どういうことですかな?」


 メルの言葉に、バルカスが訝しむ。

 ガシュラは、ギリリと奥歯を噛んで拳を血が滲むほど握りしめた。


「……魔族を、殺して回る気だということだッ……!」


 そこからの魔王軍、いや魔族はまさに悪夢と呼ぶべき現実に晒されることになる。

 勇者はシェオル各地においてゲリラ戦を展開。

 勇者を追った部隊は(ことごとく)く壊滅した。


 各地の村や町には大人も子供も関係なく死体が転がり、ようやく部隊が追いついたころには既に勇者の姿が無いということが続いた。


「なんだ……何をしようと言うのだ、勇者は……」


 魔王もこれには焦った。

 虐殺ではあるが、必要以上の苦しみを与えることも無い。

 恐らく、殺戮の時間はほんの一瞬だ。


 そうでなくてはわずか1ヶ月で半数の魔族を殺すことなどできはしないだろう。

 それは死にゆくものへの哀れみなのか、ただの効率なのか、もはや誰にも分からなかった。


 ただ通り過ぎ、そこにある生命の全てを殺し尽くす勇者の姿は、まさに恒星の光がその輝きで夜空の星々をかき消すような動きだった。


 自分が出向くことも考えたが、それでは向こうの思うつぼだとガシュラとメルに必死に留められた。

 また、出向こうにも勇者の行動は早すぎて、追いつくころには次の場所へ向かっている。

 軍が展開する足よりも遥かに速く、勇者は通り道にいる魔族全てを鏖殺(おうさつ)したのだ。


「近隣の村から城への避難は進めておりますが……このままでは」


 ガシュラは魔王城正門前に兵を展開し続けている。

 シェオルにおける魔族の人口はおよそ250万人。

 この1ヶ月、いつ休んでいるのかもわからぬほどの速度で進撃する勇者が殺した魔族の数は、既に120万人を超えていた。


 街ごとに数千、数万が一夜どころか数時間で消えた。

 後には、剣で斬られて血を流す、冷たい死体だけが並んでいた


「何故だ! 勇者は魔族全てを皆殺しにするつもりなのか!?」


 バルカスの焦る声に、魔王もいよいよ覚悟を決めた。

 魔族を皆殺しにするというのは、まさに正鵠(せいこく)を射ていると思ったのだ。

 この魔王城で、勇者と戦うときが来るだろうと。


「バルカス。聖女を殺した刺客、貴様が放った者ではあるまいな」


 ガシュラはこの後に及んで腹の探り合いも無いと、バルカスを見据える。

 バルカスはピクリと驚きを見せたが、すぐに緑色の顔を真っ赤にして叫んだ。


「ふ、ふざけるな! こんな時に何を言っておるのだ!」


 それが真実であれ嘘であれ、ガシュラにはどうでもいいことのようだった。

 ガシュラはそうかと一言だけ呟き、背中の大剣に触れ、魔王を見つめた。


「偉大なる我が王。このガシュラ、勇者を討伐して参ります。ご許可をいただきたい」


 それは、死を覚悟した戦士の顔だった。

 魔王はガシュラ武運長久を祈り深く頷く。


「許す。この私の前に、数多の同胞の命を奪った憎き勇者の首を持って参れ」

「御意」


 言葉少なく、ガシュラは部屋を出て行こうとする。

 バルカスとのすれ違い様、ガシュラはバルカスの肩を掴んだ。


「貴様に全軍の指揮権を預ける。俺が死ねば、もはや逃げ場はない。俺たちは、勇者の逆鱗に触れたのだ」

「ぬぅ……し、承知した。武運を祈るぞガシュラよ……」


 バルカスは、忌々し気な表情で頷いた。

 バルカスが首謀者かどうかなど、もう関係無いのだ。


 勇者は交渉に応じない。

 魔王の首を取って自らの命乞いをすることすらできないだろう。

 それが分かったから、ガシュラはバルカスに軍の指揮権を預け、自らは死地へと赴く。


 もはや皆が生き残る術は、勇者を殺すしかないのだと。

 その背中に、魔王は声をかけた。


「ガシュラ、我が宝刀よ。死ぬなよ」

「……ご命令とあらば」


 だが魔王は、ガシュラが恐らく二度と戻らぬことを悟った。

 ただ少しでも勇者を消耗させる。

 それだけのために、ガシュラは命を投げうって城を出るのだ。


 メルの表情は曇り、バルカスはダラダラと汗を流して次は自分の番ではないのかという恐怖に必死に抗っているようだった。


「魔王様……」


 メルは魔王の傍に寄り添い、その手にそっと触れた。


「バルカス、避難民の収容を急げ。決して軍の警戒は解くなよ」

「はっ……! 必ずや」


 バルカスも覚悟を決めたような表情で、深く頷いた。

 もはやこの場にいる誰もが、勇者との決戦は避けられないことを知っていた。



 ――そして、さらに1ヶ月の時が流れた。


 魔王城『テネブリス・フォートレス』の前には、広大な荒野が広がっている。

 そこに展開されているのは、魔王軍の残り全軍5万だ。

 使役する魔獣を入れれば10万ほどの軍勢。


 やはり、ガシュラは戻らなかった。

 もはや勇者が来るのを待つだけの状態だ。


 ここ以外の地に、恐らくもう魔族の生き残りはいない。

 追撃した兵は全て死に、その道中で上がった報告では生命の気配が無かったと聞く。


「……これほどとはな、勇者」


 魔王は、城の中から軍が展開する荒野を見渡せる場所に立つ。

 リザードマンも、オークも、オーガも、ゴブリンも、あらゆる種族の兵たちが、ヒリヒリとした緊張感の中魔獣に跨り”その時”を待っていた。

 武者震いする歩兵たちは皆武器を手に、自分たちが魔族の最後の砦だと言う事実を噛み締める。


 逃げ出す者は誰もいなかった。

 逃げ場など無いと、誰もが知っていたからだ。


「我が同胞たちよ!! 我らは今、岐路に立たされている!!」


 兵たちは魔王の檄を背に、ただ眼前を見据える。

 戦場の遥か奥にいる、”それ”を見ている。


「我らが生きるか、我らが滅ぶかだ! だが、私は信じている! 貴様達こそが我らの未来を切り開く剣であり、我らが子々孫々の繁栄を導く”勇者”であると!!」


 魔王の声は戦場の端に至るまでよく通り、誰もが聞き入った。


 その遥か向こうにいる”彼女”にも届いている。

 そしてきっと、先に逝ったアウラの元にも。


「我が同胞よ! ただ前を見よ! 貴様達の背中には、この魔導王ネメシスがいる!! 貴様達が一人残さず、先に逝った(ともがら)に誇るべき英雄であると、私は知っている!」


 オオォォォォォォオオオオオオオ―――!!!!!!


 シェオルの赤い空が、怒号に揺れる。

 その地響きのような声はやがて一つに束ねられ、きっと星をも砕くと信じて。

 


 そして、その全軍の遥か向こうに、一人の女が立った。



 背中あたりでバッサリと切り落とされた黒髪。

 銀の刺繍が施された黒い外套をはためかせ、腰には6本の剣を携えている。


 彼女は”破滅の恒星”。


 ただ遠くに在りて大地を灼く、絶望の天体。

 冷徹な、まるで機械のように感情の無い赤い瞳は、遠くから”魔王を見ていた”。


 魔王もまた、その視線を受け止めた。

 遥か彼方の異界から、彼女は来たのだ。

 ただこの地獄(シェオル)に破壊をまき散らすために。


 荒野に吹き荒ぶ風に、咥え煙草の紫煙を(くゆ)らせて、ゆっくりと両手で剣を抜く。


 そう。


 彼女こそ災厄――



「敵は勇者! 我らの誇りと矜持を示せ! 出陣!!!」



 ――魔族を殺す者、勇者シルビア=オズワルド。



 復讐に駆られた最悪の勇者が今、20万の軍勢を前に静かに大地を蹴って駆けだした。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

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