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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第六章 魔女と公爵令嬢編

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第181話 魔女の都へ①

「勇者が、来る――!」


魔女の王が紡ぐのは忌まわしき伝説

そして”絶望”が再びその姿を現す


第六章 魔女と公爵令嬢編、開幕


挿絵(By みてみん)


 クローネンブルク中央駅のホームは、朝の冷たい空気と鉄の匂いに包まれていた。

 巨大なガラス天井から射し込む光が石畳を反射し、黒い鉄と光石が仄かに輝く光導列車を照らしている。

 制服姿の駅員が慌ただしく行き交い、掲示板には各地へ伸びる路線の名が並んでいた。


「マティルダさん、ディアナさん、お世話になりました」


 俺達はクローネンブルクの駅のホームにて、マティルダ、ディアナ、サリーの三人と別れを告げているところだった。

 ティアが代表して二人に礼を言い、俺たちも頭を下げる。


 今回の王都への滞在期間は約10日。

 連日の夜会にアストラルとの対決など、なかなかに濃い日々を過ごした気がする。

 その裏ではミユキとの関係性の変化に、アリシア、メハシェファーとの出会いなど色々なイベントもあった。


 何だかんだで息つく暇も無かった俺達だが、ゆったりしている時間はない。

 次はフレジェトンタに寄ってウィルブロードまで行かなければならないからだ。


「この度のご活躍、目覚ましいものだったと主人も感嘆の声を挙げておりました。皆さまに御滞在いただけたこと、当家としても誇らしく思います」


 マティルダが丁寧にそう言って頭を下げる。

 隣ではディアナもうんうんと感心したように笑みを浮かべてた。


「ほんとほんと。ヨハンもあなたたちの実力は認めざるを得ないって関心しっぱなしだったよ」


 ツンデレ眼鏡のシュルトがついにデレたようだ。

 素直に面と向かって褒めてくれればいいものをと、俺は苦笑いする。


「いえ、皆様のご支援あってこそでした」


 ティアの言葉は社交辞令ではなく実際その通りだ。

 夜会潜入の協力に加え、衣装まで連日提供してくれている。

 身も蓋もない話をすれば宿代まで浮いたのだ。

 今回スムーズにクエストを終えることができたのはこの二人の家の力が大きかった。


「4人が着た衣装ってことで、お店で宣伝してもいいかしら? Sランク冒険者御用達って触れ込みなら結構お客さん来ると思うのよねー」


 商魂たくましいことを言っているディアナに、ティアは「ご自由に」とやや困惑しながらも許可を出していた。

 さすがに無料(タダ)で衣装を提供してもらっておいて駄目とも言えないし。


「またいつでもいらしてくださいね。フガク君も元気で」


 サリーと俺は握手をかわす。

 それを見て、レオナがミユキを茶化していた。


「ミユキ、何か思うところは?」

「レオナ、さすがにこの程度で何もありませんよ?」

「ほほう。正妻の余裕ってやつ?」

「……否定はしません」


 否定しないんだ。

 まあ俺たちの関係性は元々良好だったし、今回みたいに変なこじれ方をしなければ大体こんな感じだった。

 今も前と接し方がそこまで変わったとも思えないしな。


「ミユキさんも、変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」


 そのままサリーは、ミユキとも握手を交わしている


「い、いえ、私の方こそ! むしろおかげ様で色々と丸くおさまったと言いますか……」


 確かに婚約騒動が無ければ、俺とミユキの仲が進展することも無かっただろう。

 サリーも巻き込まれた側ではあるが、俺としては今となっては感謝してもいいくらいだった。


「そろそろ時間ね。では、私たちは行きます。本当にありがとうございました」


 ティアに(なら)って俺たちは頭を下げる。

 次にいつ会えるかは分からない。

 今回も良い人達に巡り合えたことを、俺も心から嬉しく思えた。


「あなた方の旅の無事を、このクローネンブルクから祈っていますね」

「また遊びにいらっしゃい。衣装の配達も受け付けてるからねー」

「皆さん、気をつけて」


 3人から見送りの言葉をもらい、俺たちは光導列車へと乗り込む。

 さすがに4回目ともなれば慣れたものだ。

 最後に振り返り、駅舎から見える王都の街並を目に焼き付ける。


 ゴルドール帝国に続き、2ヶ国目の首都クローネンブルク。

 雰囲気は違えど、活気と風格のある良い街だった。

 そしてここからまた、俺たちの新しい旅が始まる。

 その先に待ち受けるものが、希望か絶望かを知らぬままに。


―――

 

 俺たちは例によって4人掛けのボックスシートに座り、これからの旅程を改めて確認していくことになった。

 ゴルドールから列車に乗ったときは窓際で景色を楽しむミユキや、ソワソワした様子の俺とレオナだったが、さすがにもうそれはない。

 

 ここからまた長旅なので、ゆったりと腰掛けてやや弛緩した空気が流れていた。


「分かってると思うけど、フレジェトンタへの直行便は無い。まず私たちが向かうのは国境の街『リヒテンハル』。本当ならここからウィルブロードの皇都まで一直線なんだけどね」

「ごめんねティア、僕のために」


 今回は完全にティアの旅のルートからは外れる寄り道だ。

 俺は自分の中に眠る魔王の記憶を明らかにするため、精神に干渉できる魔女メハシェファーの元を訪ねることになる。


「いいよ、私も気になる内容だし。長居はしないけどね」 

 

 ティアは特に気にする素振りもなくそう言ってくれた。

 ただ、今回は俺にもそれなりの主体性が必要だとは思っている。

 魔王の記憶を知ってどうするのか、メハシェファーとの交渉もだ。

 今回、旅の目的は俺のためのものなのだから。


「列車を降りたら馬車でフレジェトンタに向かうけど、それまでに一回旅の準備を整えないと」


というわけで、恒例の俺達の旅のルートはこんな感じだ。


①王都から列車で国境の街リヒテンハルへ

②リヒテンハルから馬車でフレジェトンタへ


挿絵(By みてみん)


「ティアちゃんはメハシェファーさんとお会いしたとき様子がおかしくなりましたが、大丈夫でしょうか?」

「おかしいって?」


 レオナが頭に疑問符を浮かべる。

 俺もチラッと話には聞いたが、実際どんな感じだったのだろうか。

 

「うーん……どう言えばいいかな。妙に心地いいっていうか……私精神干渉系のスキルに多少耐性があると思ってたんだけどな」

「むしろ耐性があるからこそあの程度で済んだのかもしれません。周囲の方々は明らかに動きが停まっていましたし……」

「アタシもヤバいかな」

「気を付けた方がいいかもね」

 

 常時魅了のスキルが発動しているとか、そんな感じだろうか。


「問題はどこまでメハシェファーに事情を話すかよね。一応好意的ではあったけど、信用し過ぎない方がいいと思う」

「素直に話した方がいいのではないでしょうか?」

「僕もそう思う。まあフェルヴァルムのこととかまでは話さなくていいと思うけど、少なくとも僕が魔王のスキルを継承してるから、その記憶を知りたいってことくらいは」


 変に隠すとボロが出たときに話がこじれるかもしれない。

 相手がどんな人物なのかは想像の域を出ないので、俺たちは俺たちなりの誠意を尽くすしかない。


「二人に任せるよ。それともう一つの問題が……」

「エリエゼルさん……ですよね」

「何かヤバそうな言われようだったよね。興味を持たれたら駄目だって」


 これまで幾度となく名前が出て来たエリエゼル=メハシェファー。

 斬り合いが好きとかも言っていたのでどんなお嬢様だと思いつつ、それこそ考え過ぎても仕方ないのではないかと思った。


 向こうも公爵令嬢であり軍属の将校だ。 

 こちらが礼節を忘れなければ無茶はしないような気がするが。


「ま、変に警戒しても仕方ないね。私は正直彼女に悪い印象は無いし、そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」

「そうだね。とにかく、僕らの勝手な都合だけど、用件が済んだらすぐにフレジェトンタを出よう」


 主にエフレムだが、フレジェトンタの連中はリリアナを追って揉めた過去もある。

 変に長居してトラブルに巻き込まれないことが重要だ。


 というわけで、旅の方針をすり合わせた俺たちは、国境のリヒテンハルに到着するまで思い思いに過ごすことになった。


 列車の旅にも慣れてきたので、俺はミユキを誘ってちょっと車内を見て回ることにした。

 食堂車なんかもあるらしく、お茶や軽食が楽しめるらしい。

 

 一応ティアとレオナにも声をかけてみたが、二人は行かないとのことだ。

 リヒテンハルまではまだ16時間以上もある。

 ティアたちは、俺達に二人の時間を作ってくれたのかもしれないと思った。


 俺とミユキは食堂車に行き、窓に向かって設置されたベンチシートに二人で座った。

 給仕に注文したコーヒーを飲むと、全身を仄かに温められていく。


 この世界に来てコーヒーを飲むのは初めてだが、浅煎りであっさりとした味わいの、アメリカンに近いものだった。

 前世と同じく色々な種類の豆があるのかもしれないが、元の世界にあったものがこちらの世界でも見かけると少し安心できる。


 俺たちは心地よい沈黙の中、二人で外を何気なく眺めている。


「長閑な光景ですね」


 王都を出た光導列車は、どこまでも続く草原の上を走っている。

 途中放牧されている牛の姿や、農作業を行う人々の姿も見受けられた。

 国境まで荒地が続いていたゴルドールのときとは違い、ロングフェローの方が豊かな大地が広がっている。


「昨日までバタバタしてたもんね。夜会はもうしばらくいいや」

「ですね。私も向こう10年分くらいドレスを着た気がします」

「あ、でもミユキさんのドレス姿はちょくちょく見たいな」

「ふふ、機会があればぜひ。私もフガクくんの女装をぜひもう一度……」

「いやそれは勘弁」

「ええっ! 可愛かったですよ……?」


 ミユキとの何気ない時間、他愛のない会話。

 こんな時間がずっと続けばいいのにと思う。

 もちろん、それが淡い幻想だということも、俺にはよく分かっている。


「降りたら久しぶりの馬車旅ですね。フガクくんももう慣れたものでは?」

「どうかなー。腰をやられるんだよね……。荷馬車にマットレスを敷いてみたら快適かな」

「いいかもです。でもウィルブロードに入る際はまた列車なので、処分しないといけませんね」

「それはもったいないか」


 彼女とこんな風に特に意味の無い雑談を交わすのも、実は案外久しぶりじゃないだろうか。

 雑談自体はちょくちょくはあるが、暇つぶしを二人でするというのは、意外にもそう多くない。


「……あの、フガクくん。私たち、恋人ですよね?」

「え? あ、うん。そうだと思ってるけど……」


 え、何突然。

 俺は一瞬ドキリとなった。

 ミユキは窓の外を流れる景色を眺めながら、おずおずと語り出した。


「私……その、恥ずかしながらこの年まで男性とお付き合いしたことがなく……何をすればいいのかがわかりません。フガクくんは、女性とお付き合いされたことはありますか?」


 なんだそんなこと。

 心配しなくても、自慢じゃないが俺だって最後に女子と付き合ったのなんて学生の時以来だ。


 とはいえ、経験ゼロではないので若干答えづらいなと思った。

 変に傷つけたりしないように答えなければ。


「えーっと……無くはないけど、でも前世で10年とか前の話だよ」

「な、なるほど……では恋人の何たるかをお教えいただければ、努力します」


 生真面目なミユキらしく、恋人とは何かみたいなことを考えてくれていたのだと思うと、彼女が可愛く思えてきた。


「いやそこまで思いつめなくても今まで通りでいいんじゃない? ほら、これまでも仲良くやってきたし、これからも……」

「今まで通りで……いいんですか? 私は……恋人としての関係に進みたいと思っています……」


 ミユキはこちらを向いていた。

 唇を引き結んで、頬を赤らめ、何かを決意したような表情で。

 恋人として、これまでよりももっと先へ。

 意識し始めると、俺も顔が熱くなってくる。

 これまで通りでは、駄目なのかもしれない。


「フガクくんは私にしてほしいことはありますか?」

「えー……」

 

 面と向かってそう言われると色々と意識してしまう。

 そりゃ彼女にもっと触れたり、もっとイチャイチャしたり、ぶっちゃけエロいこともしたい。

 ただ、そういうのって口に出して言っていいものなのだろうか、よく分からない。


「そ、そういうミユキさんは何か無いの?」


 妄想が変な方向に行きそうだったので、俺はミユキにあえて訊いてみる。

 今までそういう話をしてこなかっただけに、彼女の恋愛観みたいなものも気になるところではあるし。


「そうですね……デートをしたいです。恋人らしい、楽しいデートを」

「なるほど……」


 まあ帝都でデートしているわけだが、あれは恋人同士としてではないのでノーカンだ。

 思いのほか可愛らしい答えに、俺は心が癒されていくのを感じた。

 そんなことならいくらでもしますとも。


「じゃあウィルブロードに着いたら、デートしよう」

「ほ、本当ですか!」


 ミユキの表情が花が咲くように綻んだ。

 ウィルブロードまでは旅も続くし、腰を据えてデートというわけにもいかないだろう。

 しかも土地勘も全くない土地だ。


「うん約束。首都がどんなところか知らないけど、ティアに良さそうなお店を聞いてみよう」

「はいっ! ぜひっ! 楽しみにしていますね」


 というわけで、俺達の間にデートの約束が生まれた。

 ウィルブロードにみんなで辿り着いたら、その時はミユキと二人で1日中楽しもう。

 朗らかなミユキの笑顔を見ていると、俺もその日が一日も早く来ることが待ち遠しい。


 だが、この時の俺はまだ知る由も無かった。


 この後俺たちの旅に待ち受ける、残酷な運命を―――。 


本日より新章開幕です。

物語の大きな転換点となる中盤戦のスタートです。ぜひお楽しみください!


モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

評価は下の「★★★★★」から行えますので、よろしくお願いたします。

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