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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第五章 ロングフェロー王都編

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第169話 暗躍の茶会②


 翌日の午後、俺とミユキは二人でロレンツことエンディミオン伯爵の茶会を訪れた。

 赤レンガの外観からは重厚さを感じたが、内部の調度はむしろ温かみがあり、清潔感のある白と金を基調とした意匠で統一されている。


 通された広間は天井が高く、窓辺から射し込む陽光がステンドグラスを透かして床に色鮮やかな模様を描き出していた。


 長机には銀のポットや繊細なカップが並び、甘い果実の香りが漂っている。

 なお、茶会というからてっきり俺達だけだと思ったら、それなりの人数の賓客が集まっている。


 招かれた客たちは煌びやかな衣装に身を包み、声を潜めつつも笑みを浮かべて談笑しているが、その視線の多くは主催者である伯爵ロレンツに注がれていた。


 ただ、壁際に並ぶ給仕や警備兵の数がやや心許なく、カフカ邸のきらびやかな賑わいと比べれば簡素さが際立っていた。


 ここに送ってくれたサリーの話では、エンディミオン伯爵がこうした会を催すことは非常に稀で、どこかから話が漏れて引っ込みがつかなくなったのではないかとのことだった。


 それは当たらずしも遠からずといった具合に、ロレンツが屋敷の広間に到着した俺達に少し疲れたような笑顔で挨拶をしてくれる。


「やあ、よく来てくれたね。ただすまない、私も予想外にこんな会になってしまったよ」

「ふ、伯爵の茶会をこんな冒険者のためだけに行うなんてありえないことだ。これで格好もつくだろう」


 その後ろではダリオがしてやったり顏で言っているので、どうやら主人のために盛大な茶会にした元凶は彼のようだ。

 

「お招きありがとうございます。すみません、ティアとレオナは別件で出ているので、今回は僕らだけ参加させてもらいました」

「君達も忙しい身だろうし、致し方ないさ。こちらにおいで、向こうで話をしよう」


 ロレンツは社交界でも人気者のようで、俺達の元へ歩いてくるときにも色々な客から話しかけられていた。

 特に女性人気がすごいようで、あちらこちらから黄色い声や、うっとりするような視線が向けられているのを感じる。


 俺達はその視線を避けるように、ロレンツから別室へと案内された。

 そこは色とりどりの花が咲く庭園の見える奥の庭で、白い椅子とテーブルに席が用意されている。

 机の上には紅茶の入ったティーポットと、アフタヌーンティースタンドにいくつかの軽食や菓子などが載せられている。

 俺はミユキをエスコートしつつ、その席についた。


「ロレンツさんすごい人気ですね」


 ミユキの言葉に、ロレンツは照れたように笑った。

 主催者がここまで人だかりになることはこれまで無かったので、なかなかのものだと感心する。


「いやあ、ありがたい話ではあるが、正直私の何がそんなにいいのやら困惑しているよ」


 苦笑いをしているロレンツ。

 まあイケメンで伯爵という地位もあり、おまけに大病院の経営者。

 加えてこの人当たりの良い性格ならそりゃ人は寄ってくるだろう。


「それより、君たちは冒険者を始めて長いのかい?」


 ロレンツは気を取り直してといった様子で、俺たちに話を振ってくる。


「僕は2ヶ月くらいで、ミユキさんは……」

「私は10年以上になります」


 ミユキは傭兵をしていた期間があるので、どこからが冒険者なのかは曖昧なようだ。

 ギルドカードを取得してからはそれくらい経つとのこと。


「2ヶ月とはたまげたな。それでノルドヴァルトの事件解決や、恐ろしい魔獣を何体も討伐するなんて大躍進じゃないか」


 ミユキの経歴もさることながら、ロレンツは俺の短期間での冒険者ランク上昇にも驚いているようだった。

 

「無我夢中で気がついたらこうなっていました」

「その若さで大したものだ。クリシュマルド殿、貴女も女性で冒険者とは苦労も多いんじゃないかい?」


 嫌みなくそう聞いてくるロレンツ。

 ミユキも特に他意無くいくつかの質問に答えていた。

 こうして、俺たちはロレンツご所望の冒険譚というやつをいくつか語って聞かせた。


 俺が語れることはそう多くないため、直近のノルドヴァルトの件や、頭のおかしい暗殺者ルキに狙われた話など、インパクトが大きめの話をする。

 ロレンツは話を聞きながら、満足げに頷いていた。


 一方で、ミユキの話は俺も興味深く聞くことができた。

 ティアと二人で初めてミューズを倒したときの話や、ティアとの出会いのエピソードなんかは案外これまで話題に上がらなかったのでつい聞き入ってしまう。


「なるほどね。実に素晴らしい話だ。ところで……」


 来た、と俺は思った。

 当然俺たちは、今日ここに世間話をしに来たわけではない。

 実は俺とミユキは今朝、王城にてゼクスからの調査報告を聞いたうえでここに来ている。


 ティアからも方針をきっちり説明されており、どのような話が行われるかもある程度分かったうえでだ。

 それは何か。


「……実は君達に折り入って相談があるんだ」

「相談……って何でしょう?」


 俺はティアの顔を思い浮かべながら、表情に貼りつけた笑顔を崩さない。

 ロレンツの後ろでは、ダリオが周囲を警戒する素振りを見せながらも意識をこちらに向けているのが分かる。


「実は、君たちのスポンサーになれないかと思ってね」


 ロレンツの言葉は、俺たちの想像していたものだった。

 貴族は優秀な私兵を幾人も抱えておきたいものだというのは、ここに来るまでの間にゼクスから聞いている。


 何の意図も無く、本当にただお茶会をするためだけに人を呼ぶなどありえないと。

 俺とミユキはチラリと視線をかわし、用意してきた断りの文句を告げる。


「ありがたい申し出ですが、僕たちはウィルブロードのシグフリード第一王子から支援を賜っています。そういったお話はお断りするよう言われていまして……」

「出資者はいくらいても困ることはないだろう。何も君たちを囲おうという話じゃないんだ」


 意外にもロレンツは引き下がらなかった。

 多くの場合、他国の王族の息がかかった冒険者は嫌がられるらしい。


 それはいくら出資をしたところで、影響力を十全に発揮できず、しかも肝心なときに自らの手元に置いておけない可能性が高いからだ。

 だが、ロレンツの目的はそうではないのだろうか。


「君たちが活躍してくれるだけで、私の病院の名前も大陸に知れ渡るだろうからね。もちろんそういった打算はあるが、君たちを私兵として囲う意図はない。それだけだよ」


 ロレンツはにこやかにそう言った。

 確かに悪い話ではない。

 出資の見返りをほとんど要求されていないようなものだ。

 だが、俺たちは首を縦には振らない。

 俺達は、そんな話をするためにここに来たわけではないからだ。


「……ロレンツさん、実は私たちもあなたに一つお伺いしたいことがありまして」


 ミユキが、神妙な面持ちでそう切り出す。


「うん? 何かな」


 ロレンツは紅茶に口をつけながら、何事も無さそうな様子でそう返す。



「――ゼファー=アストラルという名前の人物と会ったことがありませんか?」



 ロレンツの肩がわずかに震え、手にしていたカップの縁が小さく音を立てた。

 紅茶の表面に浮かんでいた色鮮やかな光が、一瞬波紋に揺れて歪む。


 だがすぐに彼はそれを取り繕うように微笑み、何事もなかったかのようにこちらを見返してきた。

 まるで初めから動揺など存在しなかったとでも言うかのように――。


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