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お見合いの恋(5)

 あんなに怒らなくてももいいのに。

 そう思いながら、私は今もパンダの姿をしたエディと一緒に椅子に座りながら、ミネラルウォーターを飲む。本当なら能力を多用しているので、甘いものが欲しいところだが、香りが強いものを飲むと、【無関心】の能力も破られやすくなるので我慢だ。


「佐久間、まるで影路ちゃんのお父さんみたいだったね」

「うん。本当に」

 ただ能力の確認を行っていただけなのに、慎みを持てだのなんだと佐久間にガミガミと叱られた。別に着ぐるみのおでこにキスをしたぎぐらいで何も問題はないと思うのだけど、意外に佐久間は古風だ。

 私だって生身の佐久間とかにするなら一応躊躇う。結局それをする前に、佐久間の周りに女の子の人だかりができてしまって、エディと一緒に退散する事になったので分からないけれど。

「まさか、あのタイミングで女の子がキスをするといういう意味が男にとってどうなのかを語りだすとは思わなかったよ。やっぱり佐久間は3次元にしてはとても面白い男だよねー。そういや、できたら僕にもミネラルウォーターをイリュージョンしてくれないかな。後ろのチャックから」

「後ろからコップを入れると、大惨事が起きない?」

「えっ? そうなの? この間、大和のゆるキャラで背中から食べ物を摂取する生き物をみたんだけど。

だからそれが普通なのかなって思ったんだけど」

 ゆるキャラは、生き物なのだろうか。あまり詳しくないのでよく分からないが、そのゆるキャラは色々普通ではないと思う。

「ペットボトルだったら大丈夫だと思う……ただ。首と胴体が別れた着ぐるみは難しいかも」

「ええっ。じゃあ、このパンダはイリュージョンできないのかい? うー、喉渇いたよう!」

 ジタバタとパンダが足を揺らす。

 あまり暴れられると、【無関心】の能力が途切れてしまいそうだ。


 一応私がおでこにキスをした事によって【無関心】の能力をエディに付与する事ができたが、どうも少しでも離れようとするだけで能力が消えてしまいそうなのだ。血を付けた時はかなり離れてもこんな風に感じる事はないので、やはりこれが血と唾液の違いだろうか。それとも着ぐるみにしたのが問題なのか。

 キスの位置を変えるとまた効力が変わるかもしれないが、毎回口づけをするとなると、あまり照れずにできる部分がいい。唇とかは……流石に躊躇われる。佐久間もあれだけ古風なのだ。おでこにキスをするだけでも相当拒否される可能性があった。

 いい案だと思ったけれど中々上手くいかないものだ。まあ、Dクラスなのだから、こんなものかもしれないけれど。

「エディ。今は【無関心】の能力がちゃんと効いていると思うから頭を外しても子供にも見られないから大丈夫」

「本当かい?」

 そう言ってエディーは着ぐるみの頭を外した。

 中からは、タオルを頭に巻いた、金髪の少年が出て来る。高校生ぐらいだろうか? 佐久間と一緒に働いているから同年代ぐらいかと思ったが、意外に若い。

「手も抜くね」

 そう確認をして、私はパンダの手の部分を引っこ抜く。

 それにしてもかなり汗だくだ。あの格好で動くのは、相当暑かったのだろう。

「そして、水」

「ありがとう」

 ベンチの上に用意しておいたもう一杯の水を手渡すと、一気にエディは飲み乾した。本当に喉が渇いていたらしい。


「ぷはぁ。死ぬかと思った。ありがとう」

「どういたしまして」

 死ぬはさすがに言いすぎだが、心の底からの言葉だとは何となくその笑顔を見ると分かる。青空の色をした瞳を無邪気に細ませた。笑うと更に若く見える。

「影路ちゃんの能力って便利だよねぇ」

「そうでもない。強い感情の動きがあると途切れてしまうから」

 それに、使いどころもそれほどない能力だ。

「ふーん。そうなんだ。にしても、あのおじさんの周りにあんまり人が集まらないから、変わった行動を取らないか、確認ができないね。佐久間みたいに、女の子の塊ができれば選びほうだいだし、何か尻尾を出しそうなんだけどなぁ」

 選び放題って……。でもそうなんだろうなぁ。

 さっきも佐久間は、エディが目立たなくなったらさっそく女の子に囲まれていたのだ。Aクラスで、若くて、才能があって……本来なら、知り合いになるはずもなかった人。

 友人になれただけでも奇跡に近いのだ。


「ねえ。やっぱり影路ちゃんも佐久間狙いなわけ?」

「狙いって……狙ってはいない。ただ私は、佐久間を好きになれただけでいいから」

 両想いになりたいだなんて思っていない。なれるなんて思えない。ただ、誰もいない場所で掃除をするしかなかった私に、佐久間は世界はもっと広いのだと教えてくれた。だから彼にお礼をしがてら、彼の隣で、もっと色々見てみたい。ただそれだけ。

「何で、佐久間の周りには女の子が集まるかなぁ。実はフェロモン系の能力者じゃないの? ってたまに思うし」

「エディもモテない?」

 自分でもモテると発言していたし、時折混ざる残念な発言を聞かなければモテると思う。能力もBクラスだし、パンダの恰好をしていなければ佐久間と同じ状態になっていたはずだ。

「3次元は興味ないからどうでもいいんだよねぇ。学校ではそれほどモテた記憶ないし」

「えっと、エディは今は高校生?」

「まさか。もう卒業したよ」

 おっと。私が勝手に若く見積もりすぎていたのか。だとすると、エディは大学生なのか――。

「アメリカで飛び級して、博士号も取得済み。ブイッ!」

「頭良いんだ」

 子供っぽくピースをエディはした。

 モテた記憶がないというのも、飛び級をしたならば、1人だけ子供だったのだろうし、それが理由かもしれない。


「そう。僕は頭がいいのさ。でも春になると、普通に進学すればよかったなと思う事もあるよ」

「えっと。エディは大和からアメリカに?」

「いいや。僕は生まれも育ちもアメリカ人さ。スシも好きだけど、ハンバーガーはソウルフードだよ。今はアニメの為に大和に来ているけどね」

 ハンバーガーがソウルフードって……チラッと腹あたりに目をやってから私は再び観察対象者の男の方へ視線を戻す。

 まあ、いいか。

 ちょっと気になる部分もあったが、エディは元々Dクラスのような事を言っていたのだ。色々聞かれたくはない過去もあるだろうと思い流す事にした。私も子供のころの話は、あまり佐久間にもしたくはない。Dクラスの小学校時代の話というのは、それほど面白い話でもないのだから。

「おっと。メールが届いたみたいだね。ん? 影路ちゃん宛だねぇ。知り合いかい?」

「私?」

 エディに言われてパソコンを覗き込むと、確かに件名が私の名前になっている。

 

「……なんで、私へのメールがここに?」

 私とエディはここで出会ったばかりだ。だからエディの所に私へのメールが届くのがそもそもおかしい。

「さあ。この会場で僕らが話しているところを見て、僕と似たような能力者が送ってきたか、それとも僕と影路ちゃんがここで出会って仲良くなることを予知した人がそのまま予知能力で送ってきたかの2択だね」

 私はこの会場に来てから、【無関心】の能力を使い続けている。若干エディの着ぐるみ姿に驚いて、一瞬途切れたりもしたが、それだけだ。だからたぶん、エディと私が一緒にいることを認識している人は、エディ自身と佐久間しかいないのではないだろうか。

 とはいえ、佐久間だったら緊急時にメールなんてせずに携帯電話を鳴らす気がする。

 でも、さっき喧嘩をしてしまったから電話をかけにくかったりするのだろうか。

「ウイルスはついてないみたいだね。ちょっと、開いてみるよ」

「うん」

 パソコンのウイルスなどは、よく分からないのでエディに言われるまま私は頷いた。


「私の王冠へ。手伝ってあげようか? 怪盗Dより――だって。このアドレスに覚えあるかい?」

「アドレスなんて覚えていないけど……でも、なんとなく分かった」

 携帯電話のアドレスはいちいち覚えてはいない。でもそもそもこのアドレスは私の携帯電話には入っていないだろう。

 ただし私のことを認知している怪盗なんて、一人しかいないので、誰なのか想像もついた。多分相手は、佐久間と私が出会うきっかけを作った、予知能力を持っているだろう怪盗だ。

 ただあの怪盗には不明な点が多々あるので、本当に予知能力の持ち主だとも言えない。

「何か返信する?」

「やめておく」

 王冠を守りきった後にもらった手紙以来のやり取りだが、楽しく会話をするような間柄でもない。あの手紙に対して、私は結局何も返事をしないという選択をした。

 怪盗は佐久間と同じように私の能力を評価してくれたが、既に私は佐久間を手助けしようと決めている。それにいくら義賊と世間で言われている怪盗でも、犯罪は犯罪。神様から貰ったこの能力をその手伝いには使えない。

「何か要求をされても困るから」

 お金と犯罪者からの手助けは借りてはいけないと、親からも言われているのだ。親不孝な真似はできない。

「そっか。わざわざ送ってきたくらいだし、何か知ってそうなんだけどなぁ」

 

 確かに、わざわざメールをくれるという事は、何かを知っているのだろう。

 そしてエディは言外に、このままでは調査が進まないと言っている。いや、裏の意味はなくただの感想かもしれないけど。でも確かにその通りなのだ。このままだと、なんの収穫もないまま、今回のお見合いパーティーが終わりそうな勢いである。

「少し気持ち悪いかもしれないけど」

「へ? 何?」

 私は鞄から、カッターを取り出すと親指に走らせた。ピリッとした痛みと共に、血がぷっくりと浮く。

 その親指をエディの額に押し付けた。ふと、姉がこの能力の使い方は内緒にしなさいと言っていたのを思い出したけれど、佐久間の友人なのだから大丈夫だという事にしておく。

「この血を落とさない限り、強い動揺や、殺意、害意を外に出さなければ、私が離れてもエディの存在感を薄められるから」

「えっ? 離れるって、影路ちゃんはどうするんだい?」

「少しあの男の人と話してみる。何か分かるかもしれないから。エディは、何かあったら、佐久間に連絡をお願い」

 待っていても情報が転がってこないならば、こちらから出向くしかない。本当に【手当て】の能力ではなかった場合危険が伴う可能性はあるが、その能力を偽っているなら、そう簡単に使ってくることもないと思う。

 私は自分から話しかける為に立ち上がった。

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