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青藍の勇者  作者: 無眠
第2部 アルティメット・エボルヴ
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第59話 永遠に終わらないで

 大きな地響きと黒い煙を発生させながら汽車は止まる。ゾロゾロと中から大勢の人が現れ、もみくちゃになりながらもミントとライチは離まいとお互い手を繋ぎ、密集した空間から抜け出す。


「なんとか抜け出すことができましたね。ミント様」


「そうだね。人が沢山いて大変だったよ」


 そんな言葉を掛け合いながら駅を出ると、目の前の美しい光景に目を奪われる。古風な街並み、立ち並ぶ民家。そして奥に見えるのは高さ100メートルは超えるであろう高く大きな塔だった。


「イプシロン地区のベリットシティ。私たちが生まれるずっと前、東にある小さな島国ロッテンカク王国の旅人達が遭難し、ここにたどり着きました。バラッドの商人たちは彼らを手厚くもてなし、その恩として旅人たちは自分たちの文化を商人に教え、この地は繁栄していきました。この街は、バラッドとロッテンカクの交流の証なのです」


 そう説明するライチはどこか自慢げだった。奥にある塔、手前にある城、古風な建物を見渡してライチはミントの手を取る。


「しっかり握ってください」


 お互いの手を握りしめ、人混みの中に入っていく。急いでいた。この日のために、ミントのために考え抜いた。今日を精一杯楽しみたい。胸が高鳴ると同時に脚も速くなる。息を吐きながら走っていると、疲れたミントが話しかける。


「そんなに急いでどうしたの?」


 確かに。なぜそんなに急いでいるのだろう。ライチは脚を止める。


 ミントを喜ばせたい一心で駆け出したが、こんなに急いでも自分の目論見は逃げないはずだ。冷静になるとライチは汗ばんだ指を絡める。


「なんでもないですよ。ゆっくり歩きましょう。この街の景色を明日も忘れないために」









 ──────


 30分も歩き続けた。決して近くはない距離でも苦痛には感じなかった。


 30分の間、ミントと色んなことを話したから。


 愚痴が大半を占めた。その愚痴をずっと話してたのはライチだった。屋敷でのこと、学校でのこと。思い出してつい口調が荒くなってしまっても、ミントは微笑を崩さず聞いてくれた。


 この人はいつだって、なんでも受け入れてくれる。嬉しく感じた。でも同時に、申し訳なくも感じた。


 甘えてしまっていいのだろうか。迷惑ではないのか?そんな疑念が渦巻く。


 ......いや、こんなことを考えるのはミントに失礼だ。邪念を払うために首を振る。今は楽しみたい。大切な人と大事な思い出を作りたい。そう心に決めた。


 ようやく目的の天空の塔にたどり着いた。名所なだけあってか人はやはり多い。50メートルは超えるであろうその巨体をふたりは見上げ、口を揃えて「大きい」と至極当たり前の感想を漏らす。


「昔の人はどうやってこんな高いの建てたんだろうね」


 とミントが聞けば


「ロッテンカクの大工たちが、命綱なしで1週間で作り上げたみたいですが、すごいですよね。1週間でこの高さのものを作り上げるなんて」


 とライチが返答する。


 周辺に目をやると、塔の近くにアイスを売ってる壮年の男性を見かけた。


「少し待っててくださいね」


 ライチはミントから手を離し、アイス屋の元へ向かう。


 アイス屋に着くと、店主がにこやかな表情で「いらっしゃい」と声をかける。


「お嬢ちゃんデートかい?」


 店主は馴れ馴れしくライチに問いかける。少し顔を赤らめながら、その質問に返答する。


「まあ、そんなところです」


「素っ気ないねぇ。まあいいや。それで、食いてえのはなんだい」


「えっと、メロン味のアイスクリームとミント味のアイスクリームをひとつずつください」


「はいよ。今日は金払わなくていいからな!」


 店長はそう言うとアイスを作り始める。3分ほどで出来上がり、渡されたアイスクリームを受け取ると、ライチはミントの元へ戻る。


「お待たせしました」


「おかえり。その手に持ってるのはなに?」


「アイスクリームです。この水色のアイスがミント様ので緑色のアイスクリームが私のです」


 そう言うとライチはミント味のアイスクリームを人の方のミントに渡す。


「僕がミントだからミント味のアイスクリームなの?」


 冗談めかしてミントはたずねる。ミントがこういう冗談を言うのを意外に思った。いつもは天然ゆえの意識してないボケをかまして周りを笑わせることならあったが、ミントが率先してこういう言葉を言うのは、ライチ目線では初めてのことだった。


「関係ないですよ」


 そう言ってライチはクスリと笑う。


 ふたりでベンチ座り、一緒にアイスを食べる。


「おいしいね」


 ミントはそう言ってくれたが、ライチはそうは感じなかった。不味いわけではない。むしろ美味しい。だけどミントのアイスの食べ方が下手で、どこか可愛くて、そこに集中できないだけだった。ナイフとフォークの使い方もおぼつかないしアイスも上手く食べられない。まるで小さな子供のようで愛おしかった。


 ふと空を見上げる。ああ、今日が晴れでほんとに良かった。ライチは安堵した。雨だった場合のプランも組んでいたが、やはり想定通りに物事が進むと気分が良い。


「雲ひとつもない空ですね」


「そうだね」


 ああ、心が暖かくなる。ライチの心臓が大きくはねる。


「空が青いと気分が良くなるよね」


 ミントが口を開く。鼻が高い、整った顔立ちに目を奪われる。


「どうしてだとおもいますか?」


「どうして?」


「私にもわかりません」


「なにそれ」


 互いに顔を見合せ、ふたりは笑い合う。他愛のない無駄な会話だ。でもそんな生産性のない会話でも、ミントと話せばそれは大切な思い出になる。思い出の数が多ければ多いほど、その人が愛おしくなってくる。


 だんだん気づいてきた。いや、気づいていたがずっと知らないふりをしてきた。


 自分はこの人のことが好きだと言うことを。

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