幕間 廃村の危機
ーソルト(テポート村長)sideー
最早この村もこれまでか……。
今年も収穫は少なく、少ない食料は更に税として納めないといけずもっと減る。収穫の5割が税なので、他の国、いやライアード国の他領よりも税は少ないが、それでもこの村全員が食べていくには、厳しい。
「村長、どうしますか?このままでは、皆飢えて死んでしまいます。子供は既に何人か亡くなってます。」
「商人が来ても買う金も、もうないしな……。村長どうしましょう。」
村人がそう村長に問うが答えられない。簡単に解決できる問題ではないのだ。
実はこの村では既に食い扶持を減らすため、畑を耕せなくなった老人達は、率先して村を出て行った。最後の手段として、子供達を奴隷として商人へ売り、その金で食料を買えばこの冬を越す事は出来るだろう。ただ、子供達がいなくなれば村の将来はない。様々な葛藤が村長の頭の中をよぎる。
そんなある日、行商人が村を訪れた。不定期だが、よく来てくれて信用できる商人だ。名前をレイダーと言う。歳は30代半ばくらい。中肉中背で少し豪華な服を着ている。
「お久しぶりです、村長様。」
「レイダー殿、よく来てくれた。」
「今回は少し多めに食料が手に入ったのでお持ちしましたよ。」
「そ、そうか。いつも助かる。レイダー殿、少し相談なんだが、その食料を全て譲ってもらいたいのだ。」
「それはもちろん構いませんが。相談とは?」
「うむ……。食料は欲しいんだが、払える金がないんじゃ……。」
「え?それって……。」
「その代わりに村の子供達をレイダー殿に引き取って欲しいのだが……。」
「いや、それって子供達を奴隷に落とすということですよね?それに、子供がいなくなってはこの村が……。」
「わかっている、このままでは廃村になることもな、だが子供達はこのまま村にいれば死ぬだろう。奴隷に落ちても生きられる可能性があるならと思ってな。」
「そ、そうですか……。わかりました。私も商人の端くれ、村長様の要求にお応えし、子供達を買い取り、食料をお渡ししましょう。」
「レイダー殿、ありがとう……。」
こうして、テポート村から子供達はいなくなったが、この1ヶ月後に全員が戻って来ようとは、この時は誰も思ってもみなかった。
ーレイダー sideー
テポート村を出て2週間後
フィンシオン辺境伯領~テルグン市~レイダー商店内
なんとも、後味が悪い。商人になったのは困った人を助けたかったはずなのに。困った人を救わずに窮地に追い込むなんて……。
自分が情けない。とりあえず子供達は買い取る形を取ったが、まだ奴隷契約自体はしていない。気が進まないのだ。
しかし、テポート村も来年まで持たないかもしれないな。辺境伯がどんな人か知らないが、何か手を打ってくれないものか。
「レイダー様、テポート村からお客様がいらっしゃってますが、如何いたしますか?」
ん?テポート村から?どうしたんだろう?食料はあるだけ渡したのに……。とりあえず会ってみるか。
「お通ししてくれ。」
商店の奥にある応接で待つ。暫くして、店員に連れられて、入ってきたのはテポート村の村長だった。
「レイダー殿、お時間を頂戴し申し訳ない。」
「ソルト村長⁉︎どうされたのですか?こんな遠い所まで。」
「実はですね。子供達を買い戻そうと思いまして、参りました。」
村長の言っている意味がわからない。先日食料の為に止むを得ず、子供を売ったのに?気が変わったのか?
「村長様、それは一体どういうことでしょう?確かにまだ子供達は皆ここにいますが。お金が出来たのですか?」
「いや、お金という訳ではないが、まずこれを食べてもらえるだろうか。」
そう言って、村長は鞄から蒸したポテトとフライドポテトを取り出す。
「この食べ物は?……!う、美味い。しかもこの振りかけられているのは、塩ですか?村長様、どうやって手に入れたのですか?」
「じ!実は、先日辺境伯様が私共の村で宿泊される事になったのですが、その際に辺境伯様の御子息のシン様が、村にこのポテト畑を作られたのです。更には大量の塩も一緒にご提供くださいました。そして、これらを売る許可も頂き、こうしてレイダー殿の元に来たという訳です。」
「辺境伯様の御子息が?信じられん!御子息はまだ5歳だったはずでは?」
「ええ、その通りです。ですが魔法の力が凄まじく、一瞬にして畑や塩を創られたのですよ。」
そんな魔法聞いた事がない。村長が嘘を言っているとは思えないが……。だか確かにこのポテトという食べ物がある事は事実だ。
「このポテトという食べ物を売って、子供達を買い取りたいという事でよいですか?」
「はい、馬車で持って来ました。塩も少し持って来ています。」
塩まで売ってくれるのか!少しとは言えかなりの金額で取引できる。
「わかりました、ではこのポテトと塩の代わりに子供達をお返しします。」
寧ろ自分が望んでいたことだ、多少損してでも子供達は返そう。
と思っていたが馬車を見て驚愕する。大量のポテトに甕5つ満杯に入った塩が、置いてあった。しかも、かなり白く高級な塩だ。塩だけでも子供達の買い取り分はある。
「村長様……。これ全部ですか?」
「はい、今回持って来れたのはこれで全部です。あくまで畑の一部で収穫したもので、まだまだポテトはあります。塩もこの10倍以上はあります。」
な、何だって?これで一部?塩がこの10倍?それを辺境伯の御子息が提供しただって?そんな馬鹿な⁉︎
小さな村を救う為にしては多過ぎる。何を考えているんだ?
「足りないようでしたら、またお持ちしますが……。」
「村長様、これだけあれば十分ですよ。寧ろ塩だけで、子供達はお返しできますよ。」
「そうですか。安心しました。では、この荷物は、全てレイダー様にお渡しいたします。」
「わかりました。では、子供達は塩と交換ということで、ポテトは金貨30枚でいかがでしょうか?」
「いえ、ポテトも差し上げます。その代わりですが、このポテトを販売していただき、次回から買い取っていただければ助かります。」
「い、いいんですか⁉︎それは、こちらに取っても、嬉しい話ですが。」
「はい、村に子供達が帰ってくれば、それだけでいいのです。それに、元々シン様から頂いたものです。儲けようなどと思ってはバチが当たると言うものですよ。」
「そうですか。では、村長様のご要望通りにいたしましょう。しかしシン様と言う方は凄い方なのですね。一度お会いしてみたいですよ。」
「はい、シン様は大変素晴らしい方です。辺境伯様もまだお若いですから、フィンシオン辺境伯領は、今後良い方向に進展していく事間違いないでしょう。」
「それは、楽しみですね。今のうちにシアルグラスに店でも構えましょうか。」
そんな軽口を村長としながら子供達を引き渡し、見送った。村長と会う前のモヤモヤしていた気持ちは、もうない。それにしても、シン様か……。自分ではどうしようもなかった事を、5歳にして1日で解決してしまわれるとは……。将来が楽しみですね。
この領で商売をしていればその内お会いできるでしょう。
ーー
この日を境にフィンシオン辺境伯領では、徐々にではあるが、食料不足と言う言葉から縁遠くなる。また、ライアードの他領だけでなく、他国からも移民が増えるのだが……。




