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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
四章
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90話

 調印式はつつがなく執り行われた。

皇帝陛下とルードヴィヒ王の腹の中に色々と隠した笑顔は見ているだけで冷や汗ものだったが……

そんな二人と並んでいられるクレシェンド公、肝は間違いなく座っている。


 続くドラゴン討伐作戦の会議には各国の名将達が集った。

もちろんその中にはわたしのお父様も含まれている。

しかもその立場はドラゴン討伐軍総指揮官である皇帝陛下の副将――皇帝陛下は主戦力として前線に立つため実質的な総指揮官である。

これはもう、大変な名誉だからわたしも舞い上がってしまいそうになった。


「でも大変なんじゃないか?他国の兵に言うこと聞かせるのはさ」


 ムーサ師匠の冷静な指摘はその通りである。

普段争い合っている三国が普通に連合軍を作ればそれはただの烏合の衆。

全員を一致団結させるなど三国の王と将の誰にも、歴史に名を残す英雄にだって不可能である。

そのためお父様には【ムジカの上王】からの権限委任を表す軍旗が与えられ格式が高められているほか、現場での衝突や混乱を防ぐためにそれぞれの国の軍の配置はばらけさせることになったようだ。


「まあ要するに戦いが始まる前の配置とか大まかな方針決めはお父様がするけど、実際戦いが始まったら各国で独自に動く感じですね」


「名将に大軍を存分に指揮させるってのは無理かー」


「無理ですね、部下に言うこと聞かせるようにするには色々苦労がいるんですよ」


 卓上遊戯の駒のようにみんな言うこと聞いてくれたら楽なんだけどね。

とはいえそんな難しい中でも各国の将は戦いの準備を進めている。

ドラゴン討伐軍が成功するように、武運を祈るよりほかないだろう。



 わたしとマリアはここまでの疲れを癒やし、黄金竜ヴォーカルとの戦いと地母神から与えられる最後の試練に備えるため今回は役目を与えられず休養中だ。

アリアで避難中の【オルガノ王朝】の人々とともに束の間の平穏を享受している。

特に今日は、マリアからデートに誘われて野掛け(ピクニック)に出かけていた。


「メロディ先輩、こっちにお花畑がありますよ!」


「本当ね、かわいらしい花……」


 元気よく駆け回るマリアについていくと、素朴な野の花が咲き乱れる場所に辿り着いた。

野に咲く花はわたしが庭園などで見慣れている園芸品種に比べると地味だが、小さく素朴なあり方には愛らしさを感じて、たまにはこういう花を見るのも悪くない。

そう思って花畑を眺めていると、なんだかお腹が空いてきた。


「……ここで昼食にしましょうか」


「はい、お弁当はサンドイッチですよ。わたしもちょっとだけ作るのお手伝いしました」


 サンドイッチ、数代前の帝国内務大臣エンシェント・サンドイッチ伯爵にちなんだ名前で呼ばれるその料理はパンで具材を挟んだ簡単な料理である。

おそらく【古代超帝国オーケストラ】の時代から存在したであろうと言われているこの料理は長らく単純に「パンとなになに」といった風に呼ばれていたが、エンシェント・サンドイッチ伯爵が激務の間執務机で簡素なこの料理だけを仕事をこなしながら食べているという報道をきっかけに大流行、いつの間にか大陸中で彼の名前を冠して呼ばれるようになった。


「じゃあ頂くわね……うん、おいしい!」


「本当ですか?良かった、わたしもいただきます」


 二人で談笑しながら、サンドイッチをぱくぱくといただく。

うん、こんなに手軽に食べれておいしいのだからかの伯爵もとても助かったのだろう。

食べ終わって一息つくと、マリアがどこか遠い目をしていた。

何か不安なことでもあるのか……いや、あるに決まっているだろう。

わたしは出来るだけ明るい声で、彼女に問いかける。


「マリア、()()()()()()()()()()()()、不安なのね?」


 マリアは一瞬固まって、それから困ったように笑いながら答えた。


「不安というか……ちょっと想像もつかないって感じでしょうか。わたし、神様になっちゃうわけですし」


「そうね……でももうこの世界からいなくなっちゃうらしい【ノーマルエンド】と違って、【トゥルーエンド】ではこれからもずっといっしょにいられるんだから、力を合わせて少しずつ慣れていきましょう」


「力を合わせて、出来ますかね?神様と人間でも……」


 確かに神様という別の存在になってしまったら、わたし達と同じ感覚ではいられなくなるのだろう。

でもそのくらいなんだ、わたしとマリアは「いっしょにいたい」という想いで繋がっている。

どうにかそれをマリアにも伝えられないものか……そうだ!


「マリア、ちょっと左手を貸して」


「え、こうですか?」


 わたしは近くに咲いていた白い花を摘む。

昔ハミィと野掛け(ピクニック)に行ったとき確かこの花をつかってアレを作ってもらったはず……

ここをぐるっとして、左手の薬指にはめて……出来た!


「これは……指輪?」


「ええ。もうほとんど残っていない古い習慣なんだけど、お互いに左手の薬指に指輪をはめあって、誓いを結ぶ儀式があるんだって。これで約束しましょう、どんなになっても二人いっしょだって」


 マリアは左手をじっと見つめて、それからわたしの分の花の指輪を作ってくれた。

それはわたしが作ったものよりも、ずっときれいに出来ていた。


「約束します……えへへ、メロディ先輩はやっぱりすごいですね、なんでも上手くいくような気持ちになっちゃいます」


「それは良かった。今日デートに誘ってくれたおかげね」


 わたし達は笑いあった。

花の指輪は押し花にして、大事に持っておくことにしよう。

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