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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
四章
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86話

 【クラシック王国】首都【マイスタージンガー】から南西、【ピアノ公国】首都【カンタータ】への道のりは距離もさることながら険しい自然に阻まれている。

王国の領内を移動しているうちは運河を舟で渡ることも出来たため楽だった。

しかし公国との国境線――険しい山脈へと入った途端、まともな道がなくなるのだ。

わたし達騎士でもうんざりするような山道と痩せた土地、【ムジカ大陸】の最果て、それが【ピアノ公国】だ。


「こんな場所によく住めるわね公国人……!」


「豊かな土地を全部帝国が取っちゃったからじゃないですか?」


 つい出たぼやきをマリアにばっさり切り捨てられてしまった。

ごめんね、我が帝国が最強で!


「まあそれは置いといて……あなたのお父様、どうやって情報を仕入れているのか知らないけど公国の思惑を王国首都にありながら把握しているなんて流石ね」


「えへへ、わたしの前だとあんな感じですけどね」


 わたしは【道標】を確認する。

会談の翌日、わたし達の元を訪れたウェーバー伯爵が示唆した公国摂政フォルテ・シンフォニア伯爵が白竜王キーボードの討伐を依頼してくるという展開。

それは正しく【道標】に記述されている通りの未来だった。


「今は【マイスタージンガー】にいますけど、お父様はシンフォニア伯爵と戦場でも外交でも直接やりあったことがありますから。お互いにある程度手の内はわかってるんでしょうね」


「なるほどね……あなたの前ではあんな感じなのに」


 ともかく次が最後の交渉、そして最初のドラゴンとの戦いである。

わたし達は言葉通り山あり谷ありの【カンタータ】への道中を急いだ。



 そして到着した【カンタータ】。

道中目にした建物は露骨に粗末なものばかりだったが、流石首都、所々節約してるんだな……と伺わせる場所はあるもののそれなりに立派な建物が並ぶ。

軍事国家だけあって検問はとても厳重だったが、無事正式な使者と認められ王宮に入ることは出来た。

そしてわたし達の饗応役といって一人の女性が高貴な装いで現れる。


「【聖女】殿、ご訪問ありがとうございます。わたしレガート・カデンツァがささやかではありますがおもてなしを務めさせて頂きます」


「えっと、よろしくお願いしますレガート……さん?」


「はい。では皆様、まずはこちらのお飲み物を……」


 レガートの合図で侍女達が全員分の飲み物を運んでくる。

その後侍女達はレガートからなにか指示を受け取ってから去っていき、マリアとわたし、護衛の騎士達、レガートと彼女の側近だと思われる騎士が残された。

ひとときの静寂。

それを破ったのはもちろん本性を表したレガートだった。


「メロディ!!なんでか説明して!!!!」


 表情筋は全く働いていないが、不機嫌丸出しである。

説明しろとだけ言われても何の説明だと言いたいところだが、レガートのことだから大体はわかる。


「あー、とりあえずあなたに何も言わずに出発したことは謝るわ」


「そうだよ!そこにも怒ってるけどもう一声!」


「一言でいうと、わたしはマリアのパートナーとしていっしょに試練を受けることになったのよ」


 隣でマリアがこくこくと頷く。

いや、それだけでなくわたしに腕を絡めて寄り添い誇らしげに宣言した。


「はい!好きだって伝えて、パートナーになってもらいました!」


 【道標】絡みのことは説明できないから、それを飛ばすと大体そういうことになるか。

だが当然こういう言い方をするとレガートが黙っていないわけで。


「……メロディ、本当?」


 ぷるぷると震えながら、レガートはわたしに尋ねる。


「まあ、そんな感じで……本当」


 レガートがあんぐりと口を開けた。

わたしも初めて見る、レガートの表情筋が仕事をしている光景だった。

それはもう、背景に雷が落ちているかのような衝撃だったのだろう。


「急展開……油断した……姉射んとすればまず弟を射よ……」


 ぼそぼそと意味がわからないことをつぶやき出した。

魂が抜けたような、とは正にこのことか。


「レガート、その、大丈夫……?」


 ちょっと心配になってきたのでレガートの前で手をふるふると振って様子をうかがう。

どうしよう、今レガートはわたし達をもてなすという仕事があるのに正気を失わせてしまっては彼女に迷惑をかけてしまう。

幸いなことにレガートははっと正気を取り戻しいつもの無表情に戻った。

しかし不機嫌さは更に増してしまったようである。


「ずるい……」


 じっとりとした声色でレガートはつぶやく。


「わたしの方が先に仲良くなったのに……いっぱいアピールしたのに……」


「うん、そうだけど……そこは仕方ないと飲み込んでもらうしかないというか……」


 アピールされてもちゃんとそういうのじゃないと断りを入れてきたからわたしは悪くない、はず。

レガートはしばらくわたしを見つめてから、諦めたように大きく溜め息をつく。

そしてくいっと、顔をマリアの方に向き直した。


「マリア」


「はい!なんでしょうかレガート先輩!?」


 流石のマリアもちょっと気まずそうに返事をする。


「次代の神だか知らないけど、メロディを困らせたら許さないからね」


「き、気をつけます!!」


「ふん……」


 そうしてレガートは全てを受け入れた……わけではなく。

わたしは会談の準備が出来たと呼ばれるまで彼女からねちねちと恨み言を聞かされる羽目になった。

今更だけど、モテるのも大変だ……

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