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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
四章
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78話

「お姉様、やっと戻ってきた!」


「姉上、上王陛下から何かありましたか……?」


「……ただいま、リズム、ハミィ。大事な話だったからゆっくり話すわね」


 あれから、マリアは【メロディトゥルーエンド】を目指すことを受け入れた。

そうすることが大陸の、この世界に暮らす人々にとって最良だからと口にして。

彼女の心を弄んでいたわたしを許した。


「というわけで、明日の朝に首都【トリニティ】を目指して出発するわ。あなた達にも近いうちに帝国に戻るよう命令が来ると思う」


 許されて、やるべきことも決まって、早く気持ちを切り替えなければならないのにどうしても晴れない心を抱えたままリズムとハミィに今後のことを説明する。

黄金竜ヴォーカルと眷属のワイバーン達が目の前で巣を建造するのを大聖堂の結界の中で見ているしかない今より、皇帝陛下のおられる帝国に戻ったほうが二人は安心だろう。


「帝国には帰れるんだ、ならわたし達は大丈夫だけど……」


「俺も姉上についていくことは出来ませんか!?」


 リズムが沈痛な面持ちで尋ねる。

まだ【リズムシナリオ】に入れなかったことを自分のせいだと気にしているのだ。


「気持ちはうれしいけれど、それは無理よリズム。わたし達の護衛には上王陛下直属の聖堂騎士団の方がつくことになっているから、あなたでは足手まといになる」


「それは……」


 悔しそうな表情をしながらもリズムは頷いてくれた。

マリアに負けたばかりのリズムにこんな言い方はしたくなかったけれど、いつドラゴン達と遭遇するかわからない旅、わたしだって弟を巻き込みたくないのだ。


「安心して、目的は戦うことじゃなくて三国に使者として赴くことなんだから」


「はい……どうか、無理をなさらずに」


「わたし達、信じてちゃんと待ってるから帰ってきてくださいね、お姉様」


「ええ、勿論よ」



 その晩、女子生徒にあてがわれた避難所の一角。

わたしはハミィと寄り添って眠れぬ夜を過ごしていた。

明日に備えてしっかりと体調を整えておかなければならないのに、どうしても眠れない。

そしてそれは、ハミィも同じようだった。


「ねえ、お姉様。起きてる……?」


 小声で尋ねるハミィに、わたしも小声で答える。


「起きてるわ、なんだか落ち着かなくて。ハミィはやっぱりこれからのことが不安?」


「不安もあるけど、お姉様がいつもと違ったから」


 少し間を置いて、わたしの近くに寄ってからハミィは続ける。


「お姉様ってやるべきことがあるときはどんなことがあってもそれ以外は一旦置いて突き進む感じでしょう?なのに今日はなんだか、まだ勢いがついていない感じだったからどうしたのかなって」


「それは……」


 わたしってハミィからそういう風に見えていたのか。

でもそう言われると、確かにわたしはやるべきことを見失っている。

試練を乗り越えることが何より先決なこの状況で、別のこと――マリアにどう思われるかを気にしてしまっている。


「ハミィ……利用するだけの相手の気持ちを考えてしまうのって、どうしたらやめられるんでしょうね」


「それって、お姉様が?」


「ええ。そんな相手のこと気にしていたら、とてもやっていけないのに……」


「お姉様にはそういう割り切り、似合わないでしょ?」


 へっ?

似合わないって言われても、やらなきゃいけないことでしょこれは。

意外な感想にぽかんとしてしまうわたしを見て、ハミィはくすくすと笑う。


「そもそもお姉様って、他人に情を抱くような人間性の持ち主じゃないでしょう?」


「酷くない?わたしそこまで冷血じゃないわよ?」


「そうでもないよ、お姉様は『他人』と『身内』をしっかりとわける人」


 「他人」と「身内」……「敵」と「味方」とまで言えば、「敵」に情を抱く性格ではない自覚はある。


「そしてね、お姉様は『身内』のためなら『他人』を踏みにじることをためらわない人……だからさ、その気持ちを考えてしまう人ってのはお姉様にとってもう『身内』なんじゃない?」


「『身内』……そう、かもね」


 打算があったとはいえ、マリアとは学校生活のうち多くの時間を共に過ごしてきた。

いつの間にかわたしはマリアを「身内」――大切なものの中に入れていたのだ。


「でもそれってただの利用する相手を気にかけてしまうより問題じゃない?敵と味方を混同するなんて……」


「普通はね、でもお姉様は侯爵令嬢、世代最強の剣の腕の持ち主、学校一モテるメロディ様だよ?敵を無理矢理味方にしちゃうくらいやっちゃってもいいんじゃない」


 おいおいおいおい。

何を言い出すんだわたしのかわいい妹は。


「くくく……ふはは……」


 わたしは思わず大声で笑ってしまいそうになるのをなんとかこらえる。

そうか、やっちゃってもいいか。

いや、そのくらいやってみせなきゃメロディ・ドミナント・テンションの名がすたる。


「ありがとう、ハミィ。あなたのおかげで気分がすっきりしたわ」


「えへへ、どういたしまふぃへっ?」


「それはそれとして姉に対して好き勝手言い過ぎよ」


 ほっぺたひっぱりの刑である。

でも本当に、ハミィのおかげですっきりした。

勝手に罪悪感で潰れれそうになるなんて、無様ったらないものな。

マリアを騙した償いはこれから考える。

わたしはただわたしのやりたいように大切なマリアとともに行くのだ。



 いい空気を吸い出したメロディ。

しかし彼女はまだまだ理解できていないのだ。

自分の中でマリアがどう「大切」なのかまるで自覚していないメロディと違って、マリアはもうメロディを「好き」だとちゃんと自覚している。

絶妙に噛み合わない二人の試練に挑む旅。

もどかしい二人の恋路に世界の命運がかかっている……!

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