65話
「メロディ・ドミナント・テンション、彼女はもはやただの登場人物の一人ではなくこの世界の運命を左右する者の一人……新たな道を切り開く可能性すら彼女は秘めている。だから彼女にこの【宝剣ストラディバリウス】と改めて送るこの言葉を」
「あなたを神座にて待つ」
*
「といったわけでして……」
食堂で夕食を取りながらリズムとマリアが詳しいことを説明してくれた。
これはどう解釈するべきなのだろうか。
新たな道、まさか【道標】に載っていない新しい結末が生えてくるとか?
そんなことをうんうん考えていると、レガートがわたしを見つめながら口を開いた。
「これ……メロディも地母神の後継者候補に選ばれたってことなの?」
「えっ」
思わず間の抜けた声が漏れてしまう。
いやでも確かに「あなたを神座にて待つ」という言葉はそう解釈することも出来る。
そうなると……えっ、わたしも実家と縁切り!?
「それは違うみたいです」
その心配はマリアがあっさりと否定してくれた。
「地母神様によると、『試練は彼女と共に挑むことになるでしょうから』だって」
そうなのかー、【聖女】に選ばれたわけじゃないなら一安心……
って待て、試練を共に挑むって地母神も【メロディシナリオ】推してる!?
「とりあえず宝剣のことは教会の方にも報告しようと思います。だからメロディ先輩、リズム、これからいっしょに行ってくれますか?」
わたしの焦りを知らないマリアはぐいっと身を乗り出し、きっと受け入れてもらえるだろうと信じきった瞳で頼んでくる。
でも確かに神様の声を聞いて重要アイテムまで貰ったことを秘密にはしておけないだろう。
わたしは焦りが出来るだけ表に出ないように注意を払い、マリアの言葉に頷いた。
*
【オルガノ大聖堂】、礼拝堂。
あれからわたし、リズム、マリアの三人はまず学校に今日の出来事を報告し、その後大慌てでやって来た神官達に率いられてここにやって来た。
【聖女】の認定がついこの前あったばかりのところにまた新たな地母神からの啓示、教会は大混乱のようで会う人の顔全てに疲れが浮かんでいた。
「みんな大変そうね……」
「この前来たときよりももっとみなさんの生気抜けちゃってます……」
責任者が来るまでここで待っていろと指示されたわたし達は一旦緊張をほぐして雑談中だ。
これから責任者――おそらくかなり高位の神官に今日の出来事を報告しなければならないのだからちょっとくらい息を抜いておかないと保たないだろうからね。
とりあえず礼拝堂入り口の扉が開くまでは肩の力を抜いて……
「マリアくん、リズムくん、メロディくん!よく来てくれたな!」
ムーサ師匠が魔法で突然現れた。
責任者ってムーサ師匠なの!?
……そういえば【オルガノ王朝】内でほぼ【ムジカの上王】に次ぐ地位にあるのが【魔法使い】だった。
特殊な知り合い方してそれなりに長くやって来たから感覚が麻痺してたな。
「【魔法使い】さん!よかった、あなたとなら落ち着いて話せます!」
マリアもそのあたり麻痺しているのかムーサ師匠が出てきたことで安心しているようだ。
一方リズムは緊張感を増している。
おそらく裏切りを計画していることが悟られた可能性を危惧しているのだろう。
だがまだ悟られたと決まったわけではないのでここはしらばっくれるとしよう。
「そうね、学校でおなじみのカメーナエ卿なら安心だわ。さあ、二人とも今日のことを報告しましょう」
「ああ、あたしがいい感じに計らうから任せておきな」
にこにこ笑うムーサ師匠には、とりあえずのところ敵意は感じられなかった。
リズムとマリアが報告をしている間も、上機嫌で話を聞いていた。
そして話が最後の話題、わたしに【宝剣ストラディバリウス】が託されたことになったとき。
「えっ、マジで?」
めちゃくちゃ素っぽい反応で喜んでいた。
さらにこっちを見てにやにやしだす始末。
わたしはもう苦笑いするしかなかったが、それで許してくれるはずもなく。
「うんうん、地母神のお言葉だ、よく心に刻んでメロディくんと共に試練に挑むといい!」
強く念を押されてしまった。
わたし達の事情を全く知らないマリアはもちろんそれに強く頷くのだった。
まずい、このままだと本当にまずい……!
*
状況がまずくとも学校生活は容赦なく進んでいく。
わたしにはレガートとクレシェンド公の手伝いもしつつ自分の論文を仕上げるという仕事もあるのだ。
幸いブルースがリズムのほぼ告白発言にショックを受けながらもハミィの論文の手伝いはちゃんとやってくれたのでそちらは心配しなくてもよかったし、マリアの論文の手伝いはリズムがきちんとやってくれた。
というわけでなんやかんやできちんと論文を仕上げたわたしは三年連続表彰という偉業を無事達成したのであった。
しかし腰に佩いた【宝剣ストラディバリウス】、ひいてはどんどん流れが【リズムシナリオ】から【メロディシナリオ】に行っていることを思うと、声援を浴びても気分は落ち込むばかりであった。




