64話
「これ、俺が触ってみてもいいですか?」
リズムが手を挙げて、誰よりも早く立候補をする。
うん、こういうのは押しの強さでなんとかしていこう!
「それって……わたしについてきてくれるってことだよね?」
マリアはリズムの瞳を見つめながら尋ねる。
「上王様から聞いたの、『試練』は大変なものになるから覚悟をしておけって。ここでついてくるってことは多分あなたも『試練』に巻き込まれるってことだよ?」
どうやらリズムの心配をしてくれているらしい。
いや、それだけではない。ここにいる全員を見回して、引き返してもいいと伝えているのだ。
一気に緊張した空気が走る。
ヨハン少年とヨハンナ少女はともかく、わたしに引っ付いてきただけの親衛隊などはマリアの試練に巻き込まれる覚悟などしていなくて当たり前。
レガートとクレシェンド公などは既に無関係でいるつもりなのか雑談をしている。
……いや、もう少し緊張感を持ってほしい。
話を戻そう。
マリアはわたし達についてこなくてもいいと言ってくれているが、おめおめと引き下がるわけにいかないのがわたしとリズムだ。
なに、これから起こることなんて【道標】で予習済み。
覚悟くらいとっくの昔に決めてここまでがんばってきたのだ。
さあ、言ってやれリズム!
「そのくらい覚悟の上だよ。いっしょに『試練』に挑むのが俺じゃなかったら困るくらいだ」
リズムは堂々とそう宣言した。
あまりの迷いのなさ、そして受け取り様によっては好意を伝えているようにも取れる宣言にマリアだけでなくこの場のみんなが息を飲んだ。
「リズム、お前それ、本気なのか!?」
オクターヴがいつになく取り乱した風にリズムを問いただす。
ちょっと想定外の反応だが、親友を心配してのことだろうか?
リズムはオクターヴの方を振り向いて、やはり堂々とそれに答える。
「ああ、本気だよ。マリアの隣りにいるのは俺じゃないと困る」
今度こそもう好意を伝えているとしか思えない発言である。
オクターヴは驚愕した表情で言葉を失い、ヨハン少年とヨハンナ少女は顔を見合せて頬を染めている。
レガートとクレシェンド公、親衛隊はもう完全に野次馬になることに決めたようできゃあきゃあ騒いでいる。
リタが怪訝そうにリズムの顔を見つめ、ブルースがおろおろとリズムとマリアの顔を見比べる中、マリアは意を決したように口を開く。
「うん、ありがとうリズム。じゃあみんな、わたし達二人で行ってくるね!」
そしてにこりと微笑んだ。
……よし、これはいいぞ!もう【リズムシナリオ】一直線じゃないか!?
わたしと同じ様に考えたのだろう、ヨハン少年とヨハンナ少女はリズムに駆け寄り、マリアを頼むと背中を叩いている。
「まさかこんな形でライバルが一気に減るなんてね」
レガートも満足げである。
本気でマリアどころかリズムまでライバル視してたのか……
「じゃあせーので右手で触ってみよう」
「うん、せーの……」
そうやって二人が飾り付きの文字に触れたその瞬間。
激しい光があたりを包み込んだ。
「わっ!」
「きゃっ!」
その場にいる誰もが目を開けていられなくなり、しばらく時が流れる。
ようやく目を開けられるようになったとき、そこに二人の姿はもうなくなっていた。
「これは、上手くいったんでしょうか?」
「そう信じて待ちましょう」
オクターヴの問いかけに答えつつ、わたしはこの後のことを考える。
【宝剣ストラディバリウス】を譲ってもらうまでの流れである。
この剣は【ドラゴン】が持つ魔法の護りを無視してその命を奪うことが出来る特別な剣。
ほいほい頂戴!なんて言える代物ではないのだ。
今マリアが頼れる相手の中で一番剣術が強いのはわたしだからそこをアピールして預かるのがせいぜいだろう。
だがいっしょに宝剣についての説明を聞いたリズムが上手く手伝ってくれるだろうしなんとかがんばろう……
そう考えていた矢先、わたしはある異変に気がついた。
なんか上が妙に明るくないか?
恐る恐る見上げてみると、そこには光り輝く魔法陣があった。
うん、嫌な予感!
「みんな、上!気をつけて!!」
とっさにそう叫ぶと、みんなも上を見上げ魔法陣の存在に気がつく。
魔法陣はちょうどわたしの真上にあったので近くにいたオクターヴとブルースを引っ張りつつ退避、部屋の隅によって何が起こるか様子を伺う。
数秒の間、みんなで魔法陣を見つめているとその光が急に強くなる。
そして――
「わああああああああああああ!?」
そこからリズムとマリアが落ちてきた。
騎士にとって天井程度の高さからの落下など大したことはない、二人ともうまく着地した、が。
その顔はもっと高いところから落ちてきたかのように真っ青だった。
というか帰ってくるの早すぎでは?
「えーっと、二人とも随分早かったけど無事?」
とりあえずそう尋ねてみると、二人はきょとんとした顔をする。
「早かったって、ほとんど丸一日大冒険だったんですよ!?最上階についたと思ったらいきなり雲の上まで引っ張り上げられて!」
「無茶振りの連続でした……みんなはずっとここで待ってたんですか?そんなわけ……」
そこまで言ったところで、二人は時刻が夕方――飾り付きの文字に触れたときからほとんど経っていないことに気がついたようだ。
これは地母神の力で二人は時間の流れの違う場所に連れて行かれていた、ということなのか?
神様のすることとはいえとんでもない行いだが。
「とにかく二人がちゃんと帰ってきた良かったわ、『宝剣と導き』はちゃんともらえたのかしら?」
まあ詳しい事情は二人を休ませてから確認することにして、ここは【宝剣ストラディバリウス】を……
「そうだ!メロディ先輩、この宝剣を受け取ってください!!」
「へっ」
メロディが瞳を輝かせながら【宝剣ストラディバリウス】を差し出してきた。
そしてリズムは目を泳がせつつも手でどうぞ、という仕草をする。
あれ、なんか話が早すぎないか?どういう説明をされたんだ?
「地母神様からこの【宝剣ストラディバリウス】をメロディ先輩に託すように言われたんです!」
えっ……
なにその展開、聞いてない……




