60話
「えー……こんなすれ違いある?」
「こっちが言いたいよ!君の物語の最上の未来って言ってるんだから、【メロディトゥルーエンド】に決まってるだろ!?」
「まあまあカメーナエ卿、少し落ち着いて……」
「落ち着けるか!!リズムくんもおかしいとは思わなかったのか!?」
「姉上の言うことを疑うなんてありえないので全く」
「こっ、このシスコン!!」
ムーサ師匠は盛大に頭を抱え込んだ。
ぶっちゃけわたしもまさかの勘違いにかなり動揺している。
ここまでムーサ師匠と協力してやって来たが、これからどうなってしまうんだ?
「とりあえず、【メロディトゥルーエンド】までの流れは適当にしか把握してないので確認してもいいでしょうか?」
わたしはおずおずと挙手をしてムーサ師匠に尋ねる。
ムーサ師匠は一度大きくため息をついてからそれに答えた。
「ああ……そうだな、一旦落ち着きたいところだしそうしてくれ」
「あっ、俺は適当どころか全く把握してないので教えてください」
「そういえばリズムには関係ないと思って伝えてなかったわね、説明するからちょっと待ってね……」
【道標】の『シナリオ』のページを開き、【メロディシナリオ】を確認する。
そこに記されていたことによると、この未来では【竜王戦役】が三国による争乱という形ではなく、地母神とその眷属である【ドラゴン】が人類に与える試練という形で行われるらしい。
その中で【聖女】マリア・フォン・ウェーバーは各国の元首の信頼を勝ち得ながら成長してゆき、最終的には地母神を討ち倒し新たな地母神となるようだ。
「なんか普通に戦争起きるより被害甚大になると思うんですが」
リズムがムーサ師匠の方を振り向きながらツッコむ。
あの黄金竜ヴォーカルが封印から完全に解き放たれ、同等の存在があと四体も現れ人類に襲いかかってくるのである。【騎士】ならともかく【平民】は逃げることすら叶わないだろう。
しかしこの【メロディシナリオ】、意味がわからないことがどんどん起きるのだ。
「最後まで確認しろ、【メロディトゥルーエンド】だと新たな地母神になったマリア・フォン・ウェーバーがその力で被害全てをなかったことにするから問題ないんだよ」
「そんな無茶な……」
「まあ神様なんだからなんでもありなんでしょうけど無茶よね……」
とにかく新たな地母神となったマリアの力で被害はゼロとなり、今後戦争も起きなくなるのが【メロディトゥルーエンド】のようだ。
しかしそうなられるとわたしは困る。
今後戦争が起きなくなるということは――帝国の悲願である大陸統一が果たされないということである。
我がドミナント・テンション家は皇帝陛下からお父様への厚い信頼によって繁栄を享受している、そんな皇帝陛下の悲願を妨げ、信頼を裏切るようなことはあってはならない。
主君からの信頼を失った臣下には滅亡あるのみなのだから。
わたしはそっとムーサ師匠の顔色を伺う。
少し落ち着いたのか、もう怒りの色は見えないものの余裕は見えない。
うん、これは……【リズムトゥルーエンド】に予定変更しませんか?なんて相談は絶対に受け入れてくれそうにないな!
ならばムーサ師匠との協力関係を打ち切るというのはどうだろうか?
【リズムトゥルーエンド】に進むために必要な情報はもう確認し終わっているからこれから【道標】が見えなくなってももう問題ないわけであるし。
……いや、駄目だ。
相手は【魔法使い】である。
その実力は歴代の【剣帝】には劣っていたというものの、普通の【騎士】よりも上回っている。
わたし達が反抗すればあらゆる手を使って言うことを聞くようにさせられる。
ムーサ師匠がそういうことを出来る人間であることはこれまでの付き合いでわかっている。
さて、これはどうするべきか……
「それともう一つ質問いいですか?」
悩むわたしの思考をリズムの声が一旦止める。
「もちろんいいけれど、なにかしら?」
「カメーナエ卿がさっき言ってた【メロディポイント】ってなんですか?」
「ああ、そのことね。わたしの【個別シナリオ】は特別で、いくつか特殊な条件を満たすことで【メロディポイント】を集めないと【キャラフラグ】が貯まっていても進むことが出来ないの」
【メロディポイント】を集める方法は三つある。
一つ、【宝剣ストラディバリウス】をわたしに譲ること。
二つ、野外演習で夜間マリアとわたしの二人っきりで世界の今後について話すこと。
三つ、武闘場跡地で【黄金竜の鱗】を入手すること。
これらすべてを満たすと聖誕祭パーティーでダンスコンテストを抜け出しわたしと庭園で踊るという選択肢が現れ、それを選べば【メロディシナリオ】に入るのだ。
「……なるほど、じゃあ姉上その未来を目指しましょう」
「うん?思ったより話が早いじゃないかリズムくん」
「いや、カメーナエ卿はそうさせる気しかないんでしょう?」
そう言いながらリズムはわたしの方へ視線で合図を送った。
……なるほど、そういうことか!
「わたし達だって、負けるとわかっている戦いに進むほど馬鹿じゃありませんからね」
わたしはリズムの意見に追従した。
それを見たムーサ師匠は少し考えたあと、満足そうな笑みを浮かべた。
「なんだ、わかってるならいいんだよ。よしよし、じゃあ今日の作戦会議はこの辺にしよう。二人共、ゆっくりおやすみ」
ムーサ師匠がそう言って指をぱちんと鳴らすと世界が歪みだす。
魔法でわたしとリズムをそれぞれの部屋へと送り返したのだ。
ベッドの上にとすんと着地して、わたしは一息ついた。
「そうだねリズム、【メロディポイント】を全部集めて条件を満たしても、ダンスコンテストに出場さえしてしまえば【リズムシナリオ】に入ることが出来る!」
そう、ムーサ師匠の言うことに従ったふりをして、土壇場で裏切れば問題なし。
さすがリズム、冷静で的確な判断よ!




