50話
準決勝戦第二試合、マリアとジャズ・ラグタイム三年生の試合は普通にマリアの勝利に終わった。
わたしも選手控室に戻らずマリアの戦いぶりを見させてもらったが、【魔弾】の特異性に目が行きがちだがにも関わらず彼女は基礎に一切手を抜いていない。
歓迎パーティーで【魔弾】を跳ね返して隙を作れたのはそれが正真正銘初めてのことだったからで、これからは普通に対応して来るだろう。
うん、これからマリアと決勝戦を行えないのが実に残念だ。
「あの子が戦ってるの見るときメロディ楽しそうだよね……」
「姉上は剣が最優先ですからね。父上や皇帝陛下に対しても結構あんな感じですよ」
いっしょに観戦していたレガートが不満気に言う。
そしてリズムは何故か自慢気に普段のわたしの話をしていた。ちょっと恥ずかしいな。
「そういえばメロディ様、先程の試合が終わったあとロック・モードくんのことを少し気にしているようでしたけれど、何か言われたりしたんですか?」
親衛隊代表のエリーゼからの質問にレガート達がぴくりと反応する。
「何があったんですか姉上!?」
「また失礼なこと言ったりしたんですかあの野郎!?」
「だったらわたしが公妃予定の権限で……」
「何も言われてないから落ち着きなさい。ただ……」
わたしに敗北したあとのロック・モードは骨が何本か折れていたらしく保健室に運ばれて行ったが、その目はぎらりとした戦意を残したまま、心は全く折れていなかった。
まるでもう一回やらせろと言っているようで、それを見たわたしの感想は。
「ああいう闘志に満ちた男子、嫌いじゃないのよね」
「嫌いじゃない!?」
レガート、リズム、オクターヴ、ついでにエリーゼの声が重なる。
その声がかなり大きくて少し驚く。いやだって、レガートって大声出せたんだ……
「想定外……あいつ絶対シメる……」
「お願いします、レガート先輩!親衛隊でもないやつの抜け駆けなんて許せません!!」
「どうするリズム、これは作戦会議が必要か?」
「ああ、オクターヴ。この危機はなんとしてでも排除しなきゃな」
会話がかなり不穏!
彼らを窘めようとしたところで進行役の教官から通知があった。
「決勝戦の前に休憩を挟む。生徒は一旦武闘場から退出するように!」
その通知に少しざわめきが起こる。
決勝戦の前に休憩が入るのは去年もそうだったことだが、武闘場から出ろとまで言われるのは異例だからだ。
これは間もなく起こる『事件』による被害を最小限に抑えるためムーサ師匠が仕組んだことだ。
わたしが率先して従うことはこの避難を手助けになるだろう。
そう思って不穏な会話をしている四人とずっとマリアに見惚れていたブルースを引き連れわたしは武闘場を後にした。
*
「メロディ先輩、見つけました!」
武闘場から少し離れた広場で休憩をしていると、マリアとその応援――リタ、ヨハン少年、ヨハンナ少女もわたし達のところにやって来た。
「さっきのわたしの試合見てくれましたか?わたしはメロディ先輩の試合見ましたよ……あ、ブルースくん、ここ座ってもいいですか?」
そう言いながらマリアは座っているわたしとブルースの間にあるちょっとした空間を手で示した。
ちなみに反対側はレガートが座っていて、リズムとオクターヴはちょっと離れたところで何かを話し合っている。
「もちろん、どうぞ」
頬を染めて嬉しそうにするブルースには悪いが、彼に【キャラフラグ】を稼がれると困るのでマリアにわたしから話しかけて注意を惹かせてもらう。
「もちろん見ていたわよ。【魔弾】だけに頼らず基礎もしっかり磨いているの、素晴らしいと思うわ」
「えへへ、ありがとうございます。メロディ先輩も【無明剣】を避けたところ、かっこよかったですよ」
あれは勘も大きいんだけどね。カッコつけたいから黙っておくけれど。
「マリアとメロディ、歓迎パーティーのリベンジか二連勝か、決勝戦は盛り上がりそうだね」
「マリアお嬢様、絶対に勝ってくださいね!」
リタ達も会話に加わり、辺りが少し賑やかになってきた。
武闘場の方を確認してみると、教官や職員達が出てきて話し合っているところのようだ。
もう全員武闘場の外に出たということだろうか?そう疑問を抱いたちょうどその時だった。
「きゃっ!」
マリアが懐を押さえる。
「どうしたんです、マリアお嬢様!?」
ヨハンナ少女が心配そうに駆け寄ると、マリアは懐からある物を取り出した。
それは野外演習で手に入れた【アリコーンの涙】で、ほんのりと光を放ちながら震えていた。
「これが急に震えだしたからびっくりしちゃったの。なんなんだろう……」
マリアは手のひらに【アリコーンの涙】を置き、不思議そうに軽く撫でる。
これは……『事件』が起きる!
*
『【ドラゴン】
【地母神ヴィルトゥオーソ】が生み出した人類を律する生命体。
黄金竜ヴォーカル
黒竜王ギター
青竜王ベース
赤竜王ドラム
白竜王キーボード
の五体が存在し、目覚めのときを待っている。』
*
それは地下から武闘場を吹き飛ばして現れた。
その体は校内最大の第一校舎よりも大きく、全身が黄金に輝いていた。
巨大でありながら細身の体型、コウモリのような背中の翼、それはまさしく伝承の中にある竜の姿。
あらかじめ現れることを知っていたのでちょっと余裕のあったわたしは思わず呟いた。
「カッコいい!」




