33話
「あんないい雰囲気になってたのになぁ!!」
二月、わたしは自習室で頭を抱えていた。
それは進級のかかった学力試験に向けて必死に勉強をしているから……ではない。
というか学力試験はもう終わったし、余裕で合格点をもらった。
では何に対して頭を抱えているのかというと、聖誕祭パーティーでいい雰囲気になっていたレガートのことである。
レガートは見事に全科目再試験という結果を叩き出していた。
普通ならば問答無用で留年のところだが、公国のほぼ最高位の貴族である彼女を留年させるのは政治的に問題があるので特例での再試験らしかった。
真っ青な顔でわたしにこれを教えてくれた座学担当の教官達に成績優秀でレガートとも親しい君になんとか手伝って欲しい、と頼まれてリタも含めた三人で試験勉強に挑もうとしているのが現状である。
「まあなんとかなるよ、気負わずがんばろう?」
「それはわたしがあなたに言うことじゃないかしら!?」
そんな状況にもかかわらずレガート本人に緊張感は見られなかったので思わず大声でツッコんでしまう。
だがいちいちツッコんでいる場合ではない、本人に緊張感がなくとも友達の危機である。
教官達が用意してくれた問題集――おそらく再試験の出題範囲そのままのもの、を開き試験勉強を始めねば。
「とりあえず、あなたがどこまでわかっていてどこからわかっていないのか確認しないとね。まずあなたのノートを見せてもらえるかしら?」
「ノートなんて取ってないよ」
……?
今信じられない発言が聞こえた気がするのだが?
「えーっと、今なんて?」
「授業中はメロディの顔を見るのに忙しいからノートなんて取ってないよ」
いや、なんて?
「メロディ、気を確かに!帰ってきて!!」
リタが肩を揺さぶってくれたお陰で正気に戻れた。
完全にわたしの理解を越えた授業態度に固まってしまっていたようだ。
しかし、これは予想以上に良くない状況だ。どこからわかっていないのかといえば最初からわかっていなかったということなのだから。
「再試験まで一週間しかないのよ?これもう無理じゃない……?」
わたしは再び頭を抱えた。
「た、確かに厳しいけど、諦めずにやれることをやっていこうよ!」
リタの励ましが虚しく自習室に響く。
いやでも、鍛錬の時間と就寝時間を削って試験勉強にあてても残り一週間だよ?
絶望的な状況に暗い顔のわたしとリタだったが、レガートはなんてこともないように口を開く。
「このくらいの量だけならそんなに悩むことないよ」
そう言いながらレガートは問題集をぱらぱらとめくった。
「とりあえず数学からやるね。問題集の範囲の公式を教えて?」
そんな軽く言われても……と思ったが一応やる気にはなってくれたようなので教科書の例題を使いつつ彼女に公式を教えた。
そして実際にそれを使って問題集も解いてもらう。
「できた」
随分あっさりとそう言うので、諦めて適当に書いたのではと半信半疑になりながら採点をする。
するとなんということでしょう、満点とはいかないものの、ほぼ合格間違い無しの解答がそこにあった。
「嘘……!?これが全科目再試験くらった人の解答!?」
「言ったでしょ、なんとかなるって」
「レガート、やらないだけでやれば出来る子なんだ……」
リタが感心するように言ったが、それやっても出来ないより問題がないか?とわたしは訝しむ。
とはいえなんとかなりそうなのはいいことだ。
わたし達は気合を入れ直してレガートの再試験に向けた勉強会を続けるのだった。
*
メロディ達が進級に向けて努力をしている頃。
各国の若者たちも【オラトリオ騎士学校】入学に向けた準備をしていた。
その中には今後のメロディの運命に大きく関わる『攻略キャラ』達のほとんどが顔を並べている。
【トライアド帝国】
リズム・ドミナント・テンション――メロディの弟にして、彼女が目指す『未来』。
ブルース・ストレイン――メロディの婚約者にして、最も攻略難易度が低い『攻略キャラ』。
レゾナンス・マイナー・トライアド――メロディの父親と対立する帝国宰相の息子。
【ピアノ公国】
クレシェンド・ピアノ・コンチェルト――若き公王にして、レガートの婚約者。
ノイズ・マイナー・セブンスコード――地母神の啓示で帝国を去った【識った者】。
ロック・モード――メロディにとって実は最も興味深い相手。
【クラシック王国】
ヨハン・ブラームス――『攻略キャラ』で誰よりも『主人公』に近い少年。
そしてメロディと世界の運命にとって最も重要な『主人公』。
マリア・フォン・ウェーバー、彼女も入学準備を無事終えようとしている。
メロディの物語は新たな局面に入ろうとしているのだ――
*
「レガート……結果は、どうだった……?」
わたしとリタは緊張した面持ちで職員室から出てきたレガートを迎えた。
少し離れたところで取り巻きの女子生徒達も固唾をのんで見守ってくれている。
レガートは左手で書類を掲げ、右手の親指を――立てた。
「再試験合格。進級できるって」
「や、やったわね!!おめでとう!」
「これで肩の荷が下りたね……教官達の」
女子生徒達も拍手を送ってくれた。
良かった……これで落ち着いてマリア・フォン・ウェーバーを迎える準備が出来る!




