22話
わたしの目的に上王様のお墨付きを頂いたが、それで現状がすぐに変わることはない。
学校生活は女子生徒達に囲まれ、気がつけば隣にレガートがいる状態が続いている。
このままではムーサ・カメーナエが危惧する通り、マリア・フォン・ウェーバーが入学してきてもおちおち近づけないことになってしまうだろう。
だがわたしがマリア・フォン・ウェーバーとお近づきになりたいのはあくまでリズムが彼女の恋人となるのを手助けするため、ならば今の状況を使うことも出来るのではないだろうか?
言うなれば「えっ、リズムくんのお姉さんってあの先輩なの!?」作戦。
わたしが新入生でもすぐ存在を知る校内の有名人であることで、本来なら接点が芽生えない他国の生徒であるリズムへ興味を抱かせやすくすることが出来るはずだ。
存在を認知さえしてもらえば我が自慢の弟だもの、容易くマリア・フォン・ウェーバーと親しくなれるはずだ。
うん、いけそうな気がしてきたぞ。
リズムへの手紙でこの作戦を提案してみよう。
*
分厚い返事が帰ってきた。
とはいえ内容は大したことはなく、わたしの提案した作戦に賛成してくれている。
『姉上が注目されてしまうのは仕方のないことなので、ここは姉上の才覚を全面に示して誰もが憧れ見上げる高嶺の花になってしまいしょう!』
とのことだ。
それとレガートにははっきりとそういうつもりはないと断ってしまえというアドバイスがくどくどと続き、手紙を分厚くさせる原因になっていた。
はっきり言ってるつもりだけど何故か毎回丸め込まれちゃうんだ弟よ……
しかしいっしょに過ごす内にレガートに対して友人としてなら仲良くしていきたいなあ、と思い出している現状。
友人になりたい相手に恋人になれるかも、という気を持たせ続けるのは確かに不誠実である。
よし、「友達でいましょう」とはっきり告げよう。
その内。うん、その内。
レガートのことはそれでいいとして、「えっ、リズムくんのお姉さんってあの先輩なの!?」作戦に賛成してもらえたからにはそれの実行だ。
現在の注目されている状況を維持し続ける必要がある。
そのためには日々の授業だけでなく学校行事でも存在感を示し続けなければならないだろう。
わたしはメモに主な学校行事を書き出してみることにした。
『四月 入学式
六月 論文コンテスト
七月 野外演習
十月 剣術トーナメント
十二月 聖誕祭パーティー
二月 学力試験
三月 卒業式 』
こんなものだろうか。
座学系二つに実習系二つ、そして親睦のパーティーという構成だ。
直近は六月の論文コンテスト、テーマに沿った論文を提出し各学年の優秀者一名が表彰されるというものだ。
テーマは確かもう発表されていたな、えーっと……
『論文コンテストテーマ:ムジカ・オルガノ・コンチェルト一世について』
おっと、これは……得意分野だ。
どうやらムーサ・カメーナエに不正を要求することなく実力でなんとかなりそうだ。
いや、このテーマが選ばれたのが彼女の協力のおかげだったり?
いやいや、そこまで疑うのは精神衛生上良くない。わたしが持っているということにしよう。
早速明日から図書館に言って参考になる書籍を探すとしよう。
*
翌日の終業後、図書館に向かうわたしはやっぱり女子生徒達に囲まれていた。
「えーっと皆さん、図書館では静かになさってくださいますよね?」
はーい!!と元気の良い返事が返ってくる。
大丈夫かなー?
レガートは無言・無表情でわたしの方を向いているが静かに、のポーズもしていた。
これはもしや、自分は静かにできているぞという自慢顔なのか?
状況的にはそう思えなくもないが、無表情すぎて確信は持てない。
ともかく図書館に到着したわたしは、歴史書の区画から名前を知っている著者のムジカ・オルガノ・コンチェルト一世が活躍した時代――革命時代に関する書籍を三冊ほど選び自習用の机に座った。
わたしについてきた女子生徒達で自習席はいっぱいになってしまい、職員さんが驚いていた。
いや、なんかもうすみません……
静かにはしているのでそれで許してください……
わたしが本を読み出すと、女子生徒達は大きく二つに別れた。
隣に座るレガートを筆頭にした、わたしのことをじっと見つめている者。
自分も本を持ってきて、読みながらちらちらとわたしを見つめている者。
想定内だけど気になって集中できない!
やはり図書館で勉強をするのは無理か。
仕方がない、今日のところは選んだ本を借りて読むのは自室に帰ってからにしよう。
そう思って開いていた本を閉じ、ふと前を見るとある本が目に入った。
その本は職員さんが返却済みの本を棚に戻すための台車に乗っていて、それなりに古びていた。
題名は『革命のあとさき』、著者は実際に革命時代を生き王国の初代国王に仕えた人物。
わたしがかねてから読みたいと思いながら叶わなかった一冊だった。
さすが三国の若き騎士が集う騎士学校の図書館、書籍も三国中のものが集まるのか!
思わず私は立ち上がり、その本を手に取るべく台車に向かうと別の方向から伸びる手に気がつく。
わたしの他にもこの本を読みたい生徒がいるのか、お目が高い!
そう思ってその生徒に視線をやると、そこにいたのは。
「げっ……」
セバスティアン王太子だった。
げっとはなんだ、げっとは。




