17話
【クラシック王国】王太子と決闘したと思ったら、今度は【ピアノ公国】公王の許嫁とそういう雰囲気になりかけている件について。
いや落ち着こう。
今日は女子生徒達にちやほやされすぎてちょっとそういう方向に意識が行っちゃいがちなだけだ。
婚約者がいるかどうか聞かれたくらいでそう考えるのは自意識過剰というやつだ。
「婚約者ね、いるわよ。一つ年下の皇帝陛下の覚え目出度い伯爵家の跡取り息子よ」
「……そいつのこと好きなの?」
あれー?ぐいぐい来るなー??
いやいや、まだわからない。恋愛話にとても興味があるだけだろう。
「好きというわけではないかしら、わたしの立場となると当たり前だけど政略結婚だから……」
「わたしも。お揃いだね」
それはそうでしょうね、【騎士】の結婚は九分九厘政略結婚だから!
【オラトリオ騎士学校】に入学する年頃ならもう相手が決まっているのも普通だし。
……そう、普通。
わたしとレガート、互いに婚約者がいる身で同性同士だが……
【ムジカ大陸】の【騎士】の常識ではわたし達が恋愛しちゃっても普通なのである!
結婚相手はあくまでも政治的なパートナー、恋愛的なパートナーを別に作ることがしばしば黙認されている【騎士】社会、正式な結婚式を挙げる前の学生時代に婚約者以外と恋愛するくらいは子供の遊びとみなされるのだ。
そして遊びである以上、子供を作ることが出来ない同性同士での恋愛はむしろ万が一が起きなくて気が楽!という扱いである。
遊びに本気になって正式な婚約者を蔑ろにする馬鹿なんて滅多にいないしね。
というわけでそういう雰囲気になっちゃっても実は問題ないのだが、それはそれとしてわたしは恋愛に興味がない。
しかも来年入学してくるマリア・フォン・ウェーバーとどう付き合うかで国と家と自分の将来がかかっている立場である。
レガートに対して必要以上の時間を割く余裕はないのである。
ここは上手くかわさなければ。
「レガートは許嫁との関係はどうなの?【ピアノ公国】三公家は親しく付き合いがあると聞くけれど」
「クレシェンド……公とは仲良し。世間で言われるよりしっかりした人だから」
おや、自分で聞いておいてなんだが意外な返答。
【ピアノ公国】公王クレシェンド・ピアノ・コンチェルトといえば摂政のフォルテ・シンフォニア伯爵に何もかも任せきりの凡庸な人物というのが世間一般の評価だ。
しかし考えてみればまだわたしの一つ年下の十五歳、政治を摂政に任せているのは当然で能力は未知数となるべきところが摂政のフォルテ・シンフォニア伯爵が有能なあまり不当に低い評価を受けてしまっているといったところだろうか。
わたしは【浮いている板】でクレシェンド公のプロフィールを確認する。
『クレシェンド・ピアノ・コンチェルト 攻略キャラ 所属:【ピアノ公国】-
【ピアノ公国】公王。
凡庸と評判の若き君主。主人公と同学年。
何事にも覇気がなく、授業もサボりがち。
しかしある一件から主人公は彼の素顔を知ることになる。
自軍ユニットとしての性能は範囲内全員の能力値を下げるデバフタイプ。』
どうやらわざと世間に能力を隠しているらしい。
隠さなければならないような不穏の種が【ピアノ公国】にあるのだろうか?これは覚えておこう。
それはそれとして今は話の流れをノイズ・マイナー・セブンスコードの方に持っていかなければ。
「それは羨ましいですね。わたしも見習って婚約者、ブルースと親しくなれるように努力してみますわ」
よし、これでそういう流れからは話を反らせただろう。
「彼よりわたしと親しくなろうよ」
力技で話を戻してきた!
「し、親しくと言われてもわたしはあなたのことを何も知らないからいきなり言われても、ね?」
「何も知らないわたしを助けてくれたあなたとならいきなり言うわたしともぴったり」
わー自らの行いが返ってきてる!
何も知らない相手じゃなくて一方的に知ってる上に下心もあったんだけどね!言えないけど!
「とにかく、仲良くなるならこつこつゆっくりとね!?」
「ゆっくり仲良くなってくれるんだ、うれしい」
あ、言質取られた。
まずい、将来はストレイン伯爵家に嫁ぎ経営に関わることを期待されている身としては落第レベルの交渉力が露呈しかけている!
内心冷や汗を流しているとレガートは見間違えかと思うほどほんの少しだけ、口角を上げてからこう言った。
「それじゃあメロディがしたかった話もして」
会話の主導権をわたしにくれた。
ここから巻き返せるか!?




