876話 特別船室
やってきました北の島。転移した先は倉庫が少しあるだけの寒村だったはずだが、少し変化があった。
港が拡張されて、少し立派になっていたのだ。さらに、商店などが大きくなっている。港に停泊しているのは、当然のごとく巨大な船だった。
プレイヤーが製造した船の停泊地として、少しずつ発展していくような要素があるのかもしれない。
「ユート、きたか」
「ルイン。店はいいのか?」
「うむ。儂も早耳猫の一員として、多少は働かんとな」
「がははは! ルインは話が分かるいいやつだぞ!」
船大工の親方が、ルインの肩をバンバンと叩きながらガハハと笑っている。ドワーフ同士、仲良くなったらしい。同種族なら好感度に補正が入るのかもね。
「出航まで1時間ほどあるが、もう船に乗るか?」
「え? 乗船可能なの?」
「うむ。一部の施設は稼働しておらんが、部屋には問題なく入れるぞ」
「おー、じゃあ、そうしよっかな」
「フム!」
「グゲー!」
ルフレたちも目を輝かせているな。今のパーティメンバーは、ルフレ、ペルカ、アイネ、ファウ、メルム、河童である。海が得意そうな面子だな。アイネ、ファウ、メルムは飛べるし、落ちるってことはないだろう。
船への乗船はタラップか転移を選ぶことができた。転移先は、前方デッキ、後方デッキ、自室、各階のラウンジ、食堂って感じだ。まあ、全員が普通に乗り込んだら、メッチャ混雑するだろうしね。
今はまだ人が少ないので、自分の足を使って乗船することにした。
豪華客船用のドデカタラップをみんなで上る。
「フムムー!」
「ペペーン!」
「グゲ!」
ルフレ、ペルカ、河童の水中3人衆は船も好きなのか、ずっとハイテンションである。スキップしながらタラップ上ると危ないよ? まあ、こいつらなら落ちたとしても問題ないだろうが。
タラップを上り切ってデッキへと降り立つと、想像よりも広かった。豪華客船って程じゃないが、以前乗った車載可能なフェリーよりは大きいんじゃなかろうか?
「フマー!」
「ヤヤーー!」
船縁から海を覗き込むルフレたちだけではなく、アイネとファウも大喜びでデッキの上を飛び回り始めた。これだけ広かったら、マジで鬼ごっことかできちゃうもんな。
「ニュー」
「俺と一緒にいてくれるのはお前だけだよ」
「ニュ」
メルムは俺の頭の上でうつらうつらしているようだ。デッキの上に微かに吹く風が気持ちいいんだろう。
「さて、部屋に行くか」
「ニュー」
「一応、4階にあるっぽいな」
この船は4層構造で、1階――一番下が貨物室になっており、2階には4等船室、3階には3等船室といった具合に、下層ほど等級が低い船室が並ぶ作りになっている。
特別船室は船長室などと同じ4階で、場所も他の船室のように並んでいるのではなく、ちょっと特別な位置になっているようだ。
「船内の施設も凄いな。食堂、カジノ、プール、購買、運動場、生産施設……。何でもあるんじゃないか?」
乗船時に自動で配られる船内地図を見ると、様々な施設が揃っている。
転移でホームに戻ることも可能らしいが、ここで生活するのも苦にはならなさそうだ。それに、広い船内を探検するのにも時間がかかりそうだし、12日くらいあっという間かもしれない。
いや、日課の納品とか畑の世話もあるから、ホームには戻るけどさ。
「船内は思ったよりも狭いか?」
「ニュー」
外から見ると大きく感じたが、通路は意外に狭く、天井もさほど高くはない。その分部屋を多く作っているんだろう。ただ、特別船室がある区画だけはちょっと違っていた。
壁には少し豪華なランプが掲げられ、床には絨毯が敷かれているのだ。そして、部屋もまた凄まじかった。
まず広い。体育館どころの騒ぎじゃない。その倍近くはありそうだった。部屋の入り口から、ソファやベッドまでが超遠いのだ。ああ、部屋は広いけど、これは区切りがないせいでもあるだろう。
壁などが全て取っ払われた、風通しが良い構造なのだ。ソファ、ダイニングテーブル、ベッドが全て同じ部屋に存在している。ああ、お風呂もあるようだけど、そこだけは別室だね。
そこにフカフカの絨毯が敷かれ、天井ではシャンデリアが輝きを放っている。
「しかも、バルコニーまであるの? すげー!」
「ヤヤー!」
部屋から外に出ると、超広いウッドデッキが広がり、その上には布張りの高級そうなデッキチェアが並んでいた。完全なプライベートデッキというわけだ。
リアルじゃ絶対に味わえないような、豪華な部屋である。
「はー、特別客室、なめてたわー」
「ニュー」
「これが今後もタダで利用できるって、ヤバくない? 絶対に船に住み着くやつが出ると思うけど」
因みに、俺がタダで使える特別船室は、この船のものだけだ。どうやら、プレイヤーが作ったものだけではなく、NPCが作った大型船もドンドン就航し、最低でも24隻は稼働する計画であるらしい。
全ての船が違う扱いとなり、無料で船室を利用できるのは自分が貢献度を稼いで、船主の1人に登録した船だけである。
他の船に乗る場合は、普通に金を払わねばならないらしい。因みに1人で何隻もの船の船主になることは可能らしいので、場合によってはいくつかの船に出資するのもありだろう。
あと、早耳猫ではたった1人だけで全納品を完了した場合にどうなるかの実験も行っているそうだ。その場合、個人所有の船になるのだろうか? 楽しみだ。
「よし、出航まで船内を歩き回ってみるか」
「ヤヤ!」
「ニュー」




