872話 プレデターエンジェル
トッププレイヤーであるハイウッドたちをあっさりと死に戻らせたのは、天使であったという。
「天使って、あの天使?」
「ええ。夜のフィールドでもメッチャ目立つ、ピカピカ真っ白な天使様でした」
PVに映っていた天使がどこかにいるだろうと思っていたが、まさかプレデターとして登場するとは。じゃあ、この大陸をさらに進んでいったら、通常エネミーとしても登場するようになるのかもな。
「白銀さんも気を付けてね?」
「もうホームに戻るから大丈夫だよ」
「ならいいんですけど」
プレデターは怖ろしいが、逃走可能な相手だ。近くにいると分かってれば奇襲にも対処できるだろう。夜は光っていて目立つって言うし。
問題はむしろ昼間だな。今後はさらに気を付けながら活動せねば。
なーんて考えていたんだが――。
「どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁ!」
「ブシュー!」
「天使はもう嫌だぁぁぁ!」
「きてますきてます! 天使きてますよぉぉ!」
俺は多くのプレイヤーと共に、闇夜の草原を逃走していた。
いやね? 村で早耳猫の面々と話をしていたら、ネクロマンサープレイヤーの従魔が何かに反応したのだ。そりゃあ、イベントが起きるかと思っちゃうじゃん?
で、ノコノコと村から出たら、これですわ!
「ウアアアアアアァァ!」
「天使恐い! というか、あんな怖い顔のは天使じゃない!」
「ブシュ!」
白眼を剥きつつ金切り声を上げながら突進してくる、金髪に白い翼の天使。メッチャ怖いんですけど! PVだともうちょっと綺麗だったじゃん! 詐欺じゃん! 野衾も怯えた顔しちゃってるし!
「オレア送還! キャロ召喚!」
「ヒン? ヒヒン!」
暗い場所に急に呼ばれて戸惑った様子のキャロだったが、後ろを見て仰天の顔だ。
「すまんキャロ! 乗せて!」
「ヒ、ヒヒン!」
俺が背中に飛び乗ると、キャロは状況を察して全速力で駆け始める。さすがキャロ! いい判断! でもこんなところに呼び出して、マジでごめんな!
俺は他のモンスたちも送還し、キャロとファウ、リックだけ残す。チビーズの2人はキャロの重しにもならないからね。
「し、白銀さん! どうしましょう!」
「カルロか!」
キュートホースに乗って現れるカルロ。高身長イケメンが小さい馬に乗っている絵は、何とも言えない気持ちにさせられるな。
カルロは馬も仲間にしていたと思うが、最初の天使戦でデスペナ中なのかね?
「どうしようって……逃げるしかないだろ! もう結構死に戻ったし!」
ハイウッドは最初の奇襲で死に戻った。回復役と一緒にいたせいだろう。
あの天使、めっちゃ光っていて目立っているくせに、最初の奇襲が上手いのだ。上空の雲の中から一気に降下してきて、範囲攻撃の雷撃を叩き込んでくる。
これがまあ強いせいで、初手で必ず数人が死に戻るのだ。
「キャロ、頑張れ!」
「キキュー!」
「ヒヒン!」
俺とリックの声援と、ファウのバフによってキャロがさらに頑張って足を動かす。
「よし、少しずつ離れていくぞ!」
「ヒン!」
だが、天使はそれでも俺をターゲットに追ってきた。なんで? 騎乗しているからか? 後は回復系のアイテムを大量に持っていることも原因かもしれない。
ただ、さすがの天使も馬の走る速度には追いつけないらしく、少しずつ引き離すことができている。このまま村まで――。
「オオオオウゥオォォォ!」
「うわ? なんだ?」
雷が天使に落ちた? ライチョウ平原みたいな雷雲の罠がここにもあったのか? これで麻痺ってくれれば、完全に逃げきれそうだ!
そう喜んだのも束の間、天使が雷によってダメージを受けた気配はなかった。それどころか、こちらを追う速度が上昇したではないか。
体にバチバチという雷のエフェクトを纏いながら、凄まじい速度で追い上げてくる。あれは罠が発動したのではなくて、奴が自身に雷属性のスキルを使用したエフェクトだったようだ。
「ウオオオオアァァァァァァ!」
ともかく、雷パワーで天使さんがハッスルハッスルだ! このままじゃ追いつかれる!
「雷系の速度上昇バフ、こんなに効果あるのかよ! ずるいぞ!」
「ヒヒン!」
うん? 待てよ? 速度バフ? だったら、どうにかできるんじゃないか?
「雲外鏡召喚!」
「キョキョ?」
「雲外鏡! あの絶叫天使野郎のバフを引きはがしてやれ!」
「キョ!」
雲外鏡の放った光が、天使の体を包み込む。
これでバフが剥がれれば、速度が落ちるだろ! 他にも何かで強化してるならそれも消えるしな!
俺としては、速度を落として逃げられれば十分だった。だが、雲外鏡の真実看破は、想定外の事態を引き起こしていた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「なんだ? メッチャ苦しんでる? 真実看破しかしてないよな?」
「キョ!」
そもそも、反射を使ってたとしても、攻撃能力じゃないし……。しかし、天使は足を止め、頭を押さえて苦しがっているのだ。
走るキャロの上から天使を観察していると、その体から黒い煙のようなものが上がり始めた。夜だからいまいち見えづらいが、相当な勢いだろう。
そして、数秒後。
肉体が黒い霧となって剥がれ落ちた天使は、見るも無残な姿に変わり果てていた。
「骨だけになっちまったぞ!」
「ヒン!」
巨大なフォールンエンジェルスケルトン。そうとしか言えない骨の天使が、力なく項垂れた状態で宙に浮いていた。




