869話 浜風vs白銀さん
急にドヤ顔で先輩風を吹かせ始めた浜風。さっきまでの複雑そうな表情はどこいった? もう問題が解決したのか?
いや、俺たちを安心させるため、空元気を見せているのかもしれない。だったら、その気遣いを無下にはできんな。実際聞きたいことあるしね。
「じゃあ、浜風はどんなセカンドジョブを選んだんだ?」
「教えてほしいですか?」
「え? そ、そうだな。知りたいな」
「ふっふっふ! そこまで言うなら仕方ないですね! 教えてあげましょう!」
こいつ、こんな感じだったっけ? まあ、情報教えてくれるならいいんだけど。
「私が選んだセカンドジョブは『書写士』! 護符をよりうまく書けるようになると睨んでいたんですが、ドンピシャでした!」
「なるほど! それは面白そうな選択だ」
「そうでしょう! ユニゾンスキルは『護符の心得』! 護符の作製、使用、保存、全てに補正が掛る陰陽師のためのスキルです!」
護符術が強化されるのは羨ましいな。陰陽師特化型のユニゾンスキルなんだろう。浜風の鬼たちの護符を連発できるなら、相当強いんじゃないか?
「他にもとっておきのすごい情報があるんですが、知りたいですか?」
「え? そりゃあ、知りたいけど……」
「どうしよっかなー。教えてあげてもいいんですけどー」
ちょっとイラッとした俺は悪くないよな? いや、でも、俺のために無理に明るく振舞ってくれている浜風に苛立っちゃいけないのだ。
でも、とりあえず先にロクロネックに話を聞こう。あれだ、凄すぎる情報を先に聞いちゃったら、ロクロネックの話が霞んじゃうかもしれないじゃん?
イラッときたから、ちょっとスカしてやろうというわけじゃないよ? ほんとほんと。
「ロクロネックはどんなジョブにしたんだ?」
「あれー?」
「私はクラフターを選びました」
ロクロネックが苦笑しながら、俺の質問に答えてくれた。彼女も浜風にちょっとウザさを感じていたんだろう。
「クラフターってことは、生産をしたくなったってことか?」
「いえ、この子の手入れがしやすくなると思って」
ロクロネックが腰の刀を軽く撫でる。最初ロクロネックは、妖刀をより使いこなすために戦士か剣士を考えていたらしい。
だが、それらのジョブで刀の使い方が上手くなるかどうか確証が持てなかった。上位職の侍や刀術士になれば刀に補正がかかるのは分かっているが、セカンドジョブをそこまで育てるのはかなり大変そうである。
その結果、手入れをするために生産全てを行えるクラフターを選んだんだとか。
クラフターは全ての生産に補正が入るが、専用アーツなどは使えず、効果も低いという器用貧乏なジョブである。
戦闘系のジョブの人が、軽く生産に触れるにはいいジョブだと思う。護符作りにもいい影響があるだろうしね。
覚えたユニゾンスキルは『付喪神の友』。なんと、付喪神を使用する際と修復する際、察知する際に補正がかかるそうだ。陰陽師+モノづくり=付喪神の友ってことなんだろう。
「目に見えてこの子の攻撃力も上がりましたからね! 結果的に最高でした!」
「あれ? ロクロネックの刀って、付喪神だったっけ?」
「ええ、そうですよ」
言われてみたらそんな説明されたっけ? 勝手に妖刀って呼んでたせいで、すっかり忘れていた。正確な名前は、付喪神・刀というらしい。
「他にもいろいろな種類の付喪神がいると思うんですけど、全部ひっくるめて付喪神っていう種族だと思います。実は、もう1体付喪神を手に入れたんですけど、図鑑はこの1ヶ所しか埋まらないんです」
ロクロネックの妖怪図鑑を見せてもらう。確かに付喪神の部分が埋まっており、そこには刀と箪笥が同じ場所に描かれている。
表示されているのは最初は刀だけだったが、箪笥の付喪神を手に入れた後に絵が追加されたらしい。
タッチすると、付喪神・刀、付喪神・箪笥の2種類の説明が選べるようになっている。付喪神は全部一まとめにされて、ここに登録されるようだ。
となると、チャガマはやっぱり付喪神じゃないんだろうな。古い物品を基にしていても、付喪神じゃなくてブンブクチャガマという別種として登録されているのだ。
「雲外鏡もそうか」
付喪神・鏡じゃなくて、雲外鏡で図鑑に登録されている。
「雲外鏡、ですか? もしかして新しい妖怪を発見したんでしょうか?」
「そうそう。そうなんだよ。召喚、雲外鏡」
「キョ!」
呼び出された雲外鏡が、「よろしく」とでも言うように鳴き声を上げる。
「この先にあるライチョウ草原の町で発見した、雲外鏡だ」
「キョキョ!」
「うわー、可愛いですね!」
ロクロネックが大喜びで雲外鏡をツンツンしている。小さい鏡に絵文字のような顔が浮かび上がっている姿は、確かに可愛いからね。だが、浜風が何故か蹲ってしまったぞ?
「し、白銀さんが白銀さんしてます! これじゃあ、私が見つけた妖怪情報でマウントを取るという野望がぁぁ! 所詮私なんかが敵う相手じゃなかったということですか? なんでなんですか!」
「は、浜風? 大丈夫か?」
「くっ! ま、負けたわけじゃありませんからね! お互い1体ずつ妖怪を発見しているんだから、ドローです! あ、もしかして、もう1体も発見しちゃってます? し、しちゃってるんですか?」
「え? いや、見つけてないけど……。浜風も妖怪見つけたのか?」
「そうです。白銀さんに自慢しようと思ってたのに」
それがとっておきの情報か! 確かにドヤ顔したくなるのは分かるな。
「しかも! 妖の絵巻物の使い道も分かっちゃいましたからね! はっ! そうだった、私にはこの情報があったんです! これで私が一歩リード!」
「妖の絵巻物なら、俺も使えたぞ」
「……ほんとです?」
「ああ」
「のぉぉぉぉぉぉぉ! ドロー! マウントとれずでしたぁぁぁぁ!」
浜風が頭を抱えて再び蹲った。立ったり座ったり叫んだり、忙しいやつだな。




