835話 経験値超加薬の実力
ミミック相手に思わぬ苦戦を強いられていると、ヒムカに異変が起きていた。
「ヒ、ヒムー!」
「ヒムカッ! 何が起きたっ!」
黒い靄みたいな物に包まれたかと思ったら、ヒムカの動きがピタリと止まったのだ。まるで彫像にされたかのようである。
確認すると、時空固定という状態異常だった。未知の状態異常だ。解除する方法も分からん! 水臨樹の完熟果実が残ってれば! でも、全部食べちゃったんだよ!
ならばと他の子と入れ替えようとしたんだが、ヒムカを送還できない。
時空が固定されてるから? ま、マジかよ! 死に戻りよりもタチ悪いじゃんか!
「シュギョギョギョギョ!」
このミミック野郎! 笑ってやがる! でも、どうすればいいのか分からん!
うちの子たちが攻撃を当てても、やはりノーダメージだった。
「シュギョ!」
「キ、キキュ……」
「リック!」
そして、次はリックだ。動きを止めたリックは、やはり送還できない。3分も経たずに2人削られた。これを繰り返されたら……。
有利なメンバーに入れ替えようかとも思ったが、全部の攻撃が無効になってしまう為、誰を呼べばいいのかも分からない。
経験値超加薬を使ったのに、逃げないとダメなのか? 勿体なさ過ぎる!
俺が絶望に襲われていると、ひょんなところから希望が見えた。
「ララー!」
「シュギョ!」
「え?」
なんと、アコラの攻撃でミミックのHPバーが大きく削れたのだ。きっかり4分の1。HPが25%削れている。
何をした? 俺にはただ殴ったようにしか見えなかったが……。腰の入った良いパンチだったけど、それだけである。
アコラが再度攻撃すると、今度はダメージは入らない。
これはもしや、メタルなスライムと同じ感じか? ほとんどの攻撃は効かないが、運がいいと1点だけダメージが通る的な?
「い、威力よりも手数を意識して攻撃をするんだ!」
「ララー!」
もう、やられる前にやるしかない! 守りはオルトに任せて、残りのみんなでひたすら攻撃を繰り出すんだ!
俺もやってやるぞ! 死に戻ったらマズいから後ろで指示出してるだけだったが、もうやるしかない!
「デビー!」
「シュギョ!」
またHPが削れた! なんてことないリリスの槍攻撃で! あんなん、効果音いれるならチクッって感じだったのに! やっぱ、手数が重要だ!
残り50%。あと2発当てれば倒せるぞ!
「うおりゃぁぁぁ!」
「――!」
「トリリー!」
「シュギョギョー!」
壮絶な殴り合いの結果、オレア、サクラ、リリスが時空固定に追い込まれる。残りは、俺、アコラ、オルトというちょっと攻撃力に難があるメンバーだった。
このままじゃ――。
「でりゃぁぁ!」
「シュギョッ!」
「え?」
俺の攻撃で、残り5割が全部削れた! なんで? あ、クリティカルか! 奇跡起きたぞ!
「ヒム?」
「トリ?」
「お、みんな動けるようになったか!」
ミミック・Sの体がポリゴンとなって砕け散り、モンスたちが動き出す。だが、勝利の余韻に浸る間もなく、俺は耳を押さえて眉をしかめていた。
ピポピポピポピポ――。
ファンファーレのような音が無数に鳴りまくっている。レ、レベルアップ音か? これが連続で聞こえているのだ。
ぜ、全然止まらんな! ミミック戦で経験値超加薬を使ったとは言え、そんな凄まじい経験値だったのか?
そのままファンファーレ音の暴力に耐えていると、10秒ほど経ってようやく鳴り止んだ。いったいどんだけレベルアップしたんだ?
「えーっと……うわ! マジ?」
「キュ?」
「メッチャレベルが上がってるんだけど……」
基礎レベルだけで10、職業レベルに至っては25も上がっていた。おかげで、職業レベルが49になっている。経験値が30倍とはいえ、こんな上がるか? 1匹倒すだけで職業レベルが1上がっちゃう計算だぞ?
聞いた話でも、そこまでの超経験値じゃなかったはずだ。いや、ミミック・Sとかいう名前だったし、やはりレアな存在だったのだろう。
転職はLv40からなので、可能どころか大幅に超えてしまったのだ。これ、あと1つ上げてからの方がいいよな?
職業はLv10ごとに、新スキルを覚えるし。コマンダーテイマーからキャプテンテイマーに転職する時も、あえてLv40まで待っていたのだ。
今回も、図らずしてLv50目前である。あと1つレベルアップしたらどうなるんだ? キャプテンテイマーに関しては、特に情報を仕入れていないのだ。
だって、転職なんてまだまだ先だと思ってたし。軽く掲示板を覗いてみても、それっぽい情報が全く載っていなかった。キャプテンテイマーをLv50まで育てた人がいないらしい。
「……ま、あと1つレベル上げすればいいんだし、お楽しみにしておくか」
にしても、基礎レベルと職業レベルだけ爆上がりとか……。多分、レベル帯は前線組に追いついたと思うんだけど、スキルだけ弱い状態である。
なんか、パワーレベリングしたみたいな感じになっちゃったな。
元々、ステータスの上りが最低クラスのキャプテンテイマーである。多分、レベルほどは強くなっていないだろう。同レベル帯で最弱の自信がある。
あまりイキったりせず、謙虚に生きていこう。
「ララー」
最後まで残ったアコラが、みんなに向かってドヤ顔でヤレヤレしてるね。
「ラーラ!」
「ム」
オルトに肩車してもらいながらふんぞり返るコアラ、可愛い。まあ、一番レベルが低いアコラが一番活躍したと言えるし、今回は許しましょう。たくさんドヤるといいさ。
他の子たちは、ほっこりとした顔でアコラを見ている。末っ子の可愛いイキりムーブを生温かい目で見守っているんだろう。
「ララ!」
「ムー」
「――♪」




