825話 浄化の儀式
「お願いしたいことは、この祭壇に魔力を込めて欲しいんです」
「魔力? どうすればいいんでしょう?」
「触れてみてください」
キャシーさんに言われた通り、瘴気の魔石の前に設置された祭壇に触ってみる。
すると、ウィンドウが立ち上がった。
「捧げものを選択……?」
「浄化の儀式を発動するためには、供物が必要なんです。それを探してきてくれませんか?」
ああ、なるほど、そういうイベントか。とりあえず即ボス戦ってわけじゃなさそうだった。
「えーっと、幾つか項目があるな」
全部で六種類の捧げものが必要であるらしい。火属性、水属性、風属性、土属性、植物素材、魔力である。上の4つは、その属性を秘めた触媒を1つ用意すればいいようだ。
植物素材、魔力に関しては捧げるアイテムは1つではない。それぞれにポイントが設定されており、そのポイントがMaxになるまでアイテムを捧げまくる必要があるようだ。
ポイントが低い素材を大量に捧げてもいいし、高ポイント素材を数個って感じでもいいのだろう。
「まずは属性素材を確認してみるか」
火属性の項目を開くと、俺の所持アイテムの中で条件を満たすアイテムが表示された。ホームの倉庫に仕舞ってあるアイテムが表示されているな。
俺が捧げることが可能な素材は3つだけだ。ペルカが釣り上げたラヴァスティングレイの溶岩煮、溶岩船シルバーサラマンダー号、サーベラスライオンのレアドロップである炎宝珠の3種類である。
まあ、言われてみると、どれも火属性強めだよね。
どれにしようか? ラヴァスティングレイの溶岩煮は、一度ホームに戻った時に作った料理アイテムだ。
溶岩煮という名前だが、本当に溶岩で煮ているわけじゃない。茜大根や赤ブロッコリーといった赤い食材を、ワインや唐辛子で煮込んだ真っ赤な料理である。
グツグツと煮立っている様子は、本当に溶岩のように見えるのだ。基本のレシピは、ラヴァスティングレイの切り身、赤ワイン、唐辛子、火炎草、火属性食材2種である。
まあ、本当はラヴァスティングレイの赤ワイン煮になる予定だったんだけど、なぜか溶岩煮になっていた。
調子に乗って火属性食材を4種類入れたのが悪かったのか、赤い食材ばかり選んだのがいけなかったのか。いや、効果は増していたので、悪いことではないんだが……。
しかも、大量に作った中で、溶岩煮は1つしかできていない。多分、これの作製時にクリティカルが起きたんだろう。
それで料理名まで変わるのは珍しいけど、ないことじゃないのだ。ただ、狙って作るのは難しいので、再現は結構難しいかもしれない。これ、ペルカが楽しみにしてたんだよな。
ここで捧げてしまったら、後で絶対に怒られるだろう。
溶岩船はもう1度買えばいいし、ここはシルバーサラマンダー号を――。
「ヒムー!」
「うわっ! ヒ、ヒムカ? ちょ、叩くなって!」
「ヒム! ヒム!」
「わ、分かってるって! シルバーサラマンダー号は捧げないって! マ、マジで! だから怒るなって!」
「ヒムー?」
う、疑りの目! シルバーサラマンダー号のところで一瞬迷ったのが見抜かれてる! 最近のAI凄すぎん? 俺の心を完全に読まれてるんですけど!
「ほ、ほら、捧げるのは炎宝珠にするから! な?」
「ヒム」
お許しが出たらしい。ヒムカは「ヤレヤレ仕方ないな」って感じで、首を振っている。モンスのお気に入りアイテムの取り扱いは、注意が必要なのね。今後気を付けよう。
ということで、一番貴重そうな炎宝珠を捧げてしまった。
「はぁ、気を取り直して他の属性を確認するか」
水、風、土、全てでボス戦で手に入れた宝珠が使用可能だった。ここはもう、この宝珠を捧げてしまうか。
一緒にボスを攻略した時にハイウッドも宝珠をゲットしてたし、全く手に入らないってわけじゃないんだろうしね。
「えーっと、次は植物素材だけど……」
500ポイント分捧げる必要があるようだ。 薬草や低品質の野菜で1ポイント、霊木の枝で50ポイントという具合だ。
これは全く問題なかった。そもそも、薬草類から野菜から木材から、うちの畑で採れたものを大量にストックしてるし。
数が多い薬草などを数百個捧げれば、それでオッケーだった。
「で、次は魔力?」
やることは植物素材と同じだ。アイテムを捧げると、それが魔力に変換されるっていう設定らしい。
ただ、植物素材よりも、内容が厳しい。レア度が低い物や、魔力が籠っていない扱いの素材は捧げられないのだ。
レア度3の素材で1ポイント、レア度4で5、レア度5で10、レア度6の素材で100ポイントが基本だな。これは3000ポイントも必要だった。
「ま、これもなんとかなるか」
使わない素材も結構溜まってるし、うちの畑ではレア度3以上のアイテムも結構作っているのだ。溜め込んでいたものを大量放出することになってしまうが、イベント達成優先である。
ポチポチと選び続けていくと、5分ほどで魔力も捧げきることができた。
「これで、全部オッケーってことか?」
「ええ。こんなすぐに達成して下さるだなんて、ありがとうございます」
キャシーさんが、白い光を放ち始めた祭壇を見て嬉し気に頭を下げてくる。
「では、早速儀式を行ってしまいましょうかね」
「うむ。そうだな。旅人さん、ありがとう。これで畑を取り戻せる」
「いえ、お役に立ててよかったです」
「ムム!」
「トリ!」
オルトとオレアがドヤ顔で胸を張る。まあ、捧げたアイテムの大半は君たちが畑で作ってくれた収穫物だったわけだし、思う存分ドヤ顔してくれ。その権利はあるから。
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