773話 砂海の町へ
オアシスの町へと向かう道中、ポツンと生えるサボテンを発見した俺たちは、調査のためにそちらへと歩を進めた。サボテンには見るからに特殊そうな虹色の花が咲いているのが見えるのだ。
さほど遠くには見えなかったんだが――。
「なんか、全然到着しないな」
「ヒヒン」
砂漠は多少距離感が掴みづらいとはいえ、さすがに遠すぎる。想定の倍は進んでいるのだ。
一度足を止めて、見えているサボテンを観察する。すると、レーが驚きの表情を浮かべた。
「おや? サボテンが消えましたねぇ?」
「うん? あ、僕も消えた」
「俺も!」
「こっちもだ!」
騎士たちだけではなく、俺の視界からも突如サボテンが消滅していた。
「あれは蜃気楼だったのかな? パーティメンバーの誰かが看破に成功すれば、視界が正常に戻るのかもしれないね」
「砂漠でしたらそれもありそうですねぇ。む?」
「じ、地震?」
地面が微妙に振動して――。
ドバァン!
「ヒヒン!」
「うぉぉぉ! キャ、キャロ、サンキュ!」
俺たちの足元から、巨大な影が飛び出していた。キャロが回避してくれなかったら、吹っ飛ばされていただろう。
「キュオオォオォ!」
「なんだこいつ? 蜥蜴?」
砂に同化するような色をした、3メートルほどの蜥蜴に見える。鱗が分厚いサバクツノトカゲって感じだ。
「ぬふふ。蜃というようですねぇ。だとすると、竜系のモンスターではないですか?」
え? 竜? それって大発見なんじゃないか?
それに、蜃ね。確か、蜃気楼を生み出す竜だか貝だかだったはず。つまり、先ほどのサボテンの蜃気楼はこいつが見せていたらしい。蜃気楼で獲物をおびき寄せ、砂の中からバクリってわけだ。
「テイムは……無理だな!」
「騎獣にもできない! 残念!」
「ドラゴンライダーはお預けだな!」
まあ、それでも竜なら素材には期待できるだろう。俺たちは初の砂上戦闘を開始する。
まあ、さほど強くはなかったけど。速度が半減するとは言え、全員騎乗中なのだ。スノウサッカーとの戦いと同じように、半減していても十分に速かった。
蜃の吐く砂弾や、毒の棘が生えた尻尾、幻影による姿隠しなどには多少苦しめられたが、大きなダメージを受けることはない。
特にピンチに陥ることもなく、蜃を仕留めていた。最後はジークフリードのチャージで勝負ありだ。防御力が高かったものの、騎士たちの連続攻撃を前に耐えきれるものではなかったのである。
「鱗や角が手に入ったな。防具に使うとよさそうだ」
「鞍、新調しちゃおうかな!」
その後、周辺を探索するといくつか採取物がゲットできた。砂にサボテンに鉱石だ。サボテンは食材にも錬金素材にもなるらしい。あと、砂を掘るだけで鉱石が手に入るのも面白かった。採掘スキルが必要ないのだ。
数種類のモンスターと遭遇した。蜃、オアシスキャメル、隠密サソリ、毒アリジゴク。どれも一筋縄ではいかない敵ばかりだ。
また、それ以外でも砂漠は厄介だった。
砂漠ではスタミナが速く消費されるらしく、すぐに息が切れるのだ。そのため、長時間の戦闘ではこちらが不利だった。しかも、砂の中から奇襲してくる敵も多い。
一見すると見通しがいい砂漠だが、全く気を抜くことができなかった。
ある程度戦って騎士たちも満足したらしく、その後は真っ直ぐに町を目指す。さすがに町は蜃気楼ではなかったようで、特に迷ったりすることはなかった。
町の名前は『砂海の町』。
巨大なオアシスには砂が堆積してできた浅瀬があり、そこを渡れば町へと辿り着くことができた。
町を囲む白い壁には、僅かな汚れもない。近くで見ると、よりその神秘さに圧倒された。
「美しい町だね」
「こういう町の裏にどのような穢れが潜んでいるのか……。今から楽しみですねぇ」
なんかフラグっぽいから、やめろレー! お前が言うと、なんか冗談に聞こえないから!
中に入ると、多くの人々が行き来する活気ある街並みが広がっていた。白い石灰のような石材で作られた建築物が密集する、異国情緒あふれる町だ。
白い外套やターバン風のバンダナを身に着ける人が多いのも、他の町とは違う特徴だろう。
ここからの流れは前回と同じだ。転移陣を登録して、解散である。俺はこの町に残るつもりだが、ジークフリードたちはエリアの探索へと向かうらしい。
激闘の後に、元気だねぇ。
「俺たちは町を歩くぞー」
「デビー!」
「ラーー!」
ただ、歩き出そうとした俺は、不意に聞こえた呼び出し音に足を止めていた。コールの相手はルインである。
「ルインか? どうしたんだ?」
「うむ。実は頼まれていた装備品に関して、少しお願いがあってなぁ」
「あれ? もしかして、素材足りない?」
「そうじゃなくてだな――いや、それもあるんじゃが、そうじゃないというか……」
ルインにしちゃ、歯切れ悪いな。
「実はのう――」
クママは装備品を3つ装備できるんだが、どちらが2つ作るかシュエラと揉めたらしい。ルインは自分が2つと主張し、向こうはシュエラとセキで1つずつ作ると言って引かなかった。
そこで、どうせなら他のモンスの装備品も作らせてはくれないかと考えたらしい。
「クママ以外ってことは、ペルカ、リック、キャロ、メルム、アコラかな?」
「そうなんじゃ。どうだ?」
「うーん。別に構わないけど。むしろありがたいけど」
ルインたちトップ生産職に、モンスの装備品全部を一気にお願いできるなんてそうそうないチャンスだろう。割高で料金を払ってもいいくらいだ。
「預けてある素材で足りる?」
「足りるっちゃ足りるんじゃが、スノウサッカーの素材を全てには使えんなぁ」
「5人分だもんなぁ。だったら、新しく手に入れた素材もあるし、それ持っていくよ」
「なに? 新しい素材?」
「ああ。スノウサッカーと同レベルの素材に、新エリアの素材だぞ?」
「は?」




