735話 アコラ
アリッサさんのテンションが一段落した後、俺は技巧神の試練や魔導神の試練の情報を買い、早耳猫を去った。
相変わらず、叫んだ後の落ち着きっぷりが半端ないぜ。
「しかし、また億を超えるとは……」
大地母神の試練のボス情報とかも買ったのに、また億も貰ってしまった。まだ取得条件が明らかじゃないのにこれとは……。だんだん金銭感覚が麻痺してきちゃったな。
因みに、モンスたちの踊りについても少し情報があった。なんでも、神様に祈りを捧げるというイベントを発生させたプレイヤーがおり、その際に彼のモンスが踊りだしたという。
もしかして、踊ると神様や精霊様が喜ぶんじゃないかね? その結果、神様の好感度が一定を超え、箱庭が出現したという可能性が高かった。だとすると、モンスにはもっと踊ってもらう方がいいのか?
「一度畑戻って検証だな。で、パーティ整えたら、流派試練を攻略しに行こう」
ただね、予定って言うのは中々上手くいかないものなのだ。いや、慶事だから、喜ばしいことなんだけどね?
畑に戻ると、オレアとドリモが入り口に仁王立ちしていた。珍しいと思ったら、2人は俺目がけて突進してくるではないか。
どうやら、俺を待っていたらしい。
「ちょ、どうした?」
「トリリ!」
「モグモー!」
「うわ! ま、またぁ?」
ついさっきオルトたちに運ばれたように、今度はドリモたちに担ぎ上げられてしまう。うちのモンスたち、俺を担いだ方が早いって学習したのか?
毎度こんな運ばれ方したら、メッチャ恥ずかしいんだけど!
ただ、興奮した様子のドリモたちには聞こえないらしい。全速力でホームまで運ばれてしまった。転移陣て、担がれたままでも通過可能なんだね。
「トーリー!」
「モグ!」
「いったいなんなのさー!」
連れていかれた先は、ホームの一室であった。孵卵室と名付けた部屋だ。その名の通り、孵卵器を設置してあるんだけど……。
「え? まさか!」
「トリ!」
「モグモ!」
「おおー! 卵が孵りそうじゃんか!」
よく見ると、孵卵器の中の卵にヒビが入っていた。ドリモとオレアの卵が、孵ろうとしていたのだ。だから2人とも大慌てだったわけね。
「これは、予定を変更して孵化するまで見守るしかないな」
「トリ」
「モグ」
「おお、気が利くな」
オレアがイスを、ドリモがテーブルを運び入れる。さらには、クッキーの載った皿とお茶が差し出され、準備万端だった。
「どんな子が生まれるかなー」
「トリリー」
「モグー」
孵卵器に張り付いてご機嫌なドリモたちと一緒に待っていると、他のモンスたちも集まってきた。
「キキュー?」
「ヤヤー!」
「あいー?」
「ポコー!」
マスコットに妖怪も集い、部屋の中はギッチギチだ。もっと広い部屋にしとけばよかった。そんな全員がワイワイと孵卵器を見守る中、遂にその瞬間が訪れる。
強い閃光と、未だに目潰しに慣れないモンスたちの悲鳴と共に、新たなテイムモンスが誕生したのだ。
「ラー?」
「おおぉ? この子は――コアラ?」
「ラー!」
そこにいたのは、可愛い赤ちゃんコアラだった。灰色の毛並みで、マジで普通のコアラにしか見えん。
名前:未定 種族:ココアラ 基礎Lv1
契約者:ユート
HP:29/29 MP:16/16
腕力5 体力6 敏捷6
器用6 知力6 精神9
スキル:拳闘、治癒、登攀、毒消し、毒耐性、保存袋、踏込み、消火、火耐性、竜血覚醒
装備:なし
踏込み、消火、火耐性は、火属性付加戦闘技能孵卵器の効果だろう。
踏込みはややクセがあるスキルで、攻撃時にしっかり踏み込むとダメージにボーナスが乗るというものだ。ただ、拳闘がボクシング系のスキルだし、意外といい組み合わせかもしれない。
消火は、相手の火属性攻撃などを弱めるスキルっぽかった。あと、火傷を治してもくれるらしい。火霊の試練などで大活躍してくれるだろう。
まあ、それ以上にヤバいのが、竜血覚醒だけど。
「マジ? 竜血覚醒あるじゃん!」
ドリモから遺伝したってこと? こんなことがあるのか!
「ラー?」
「お前凄いな!」
「ララー!」
思わず持ち上げて高い高いしたら、メッチャ喜んでくれている。コアラなだけあって、高いところは平気らしい。
「さて、君の名前を考えなきゃいけないんだけど……」
「ラー?」
「トリー」
「モグー」
みんなの視線がズバズバ突き刺さってるね! どうしよう。コアラのキャラなんて、全然思い浮かばんぞ。マーチ? ド〇ラ?
「うーむ」
「ラー」
つぶらな瞳が俺を見つめてやがるぜ。
「よし……お前の名前は、アコラだ!」
「ラー!」
喜んでくれてるね! え? コアラを並べ替えただけだって? 覚えやすくていいでしょうが!
それに、スキル構成も治癒とかあってアコライトっぽいしね? まあ、どちらかと言えばモンクかもしれんけど、そこは回復メインということで。
「ムームー!」
「クマー!」
「ヒムー!」
モンスたちがアコラを持ち上げて、ワッショイし始めた。胴上げって言うか、メッチャ飛んでるんだけど! だ、だいじょうぶなの?
「ララー!」
「トーリー!」
「モグモー!」




