730話 授けられる力
料理の試練をクリアするために試作を開始したのはいいんだが、これが中々難しかった。
やはり、この試練内で獲得したアイテムだけでっていうのがネックだったのだ。
俺の料理の腕だと、レア度4かつ★6の料理を作るのは、全素材をレアドロップで揃えないと達成不可能と思われた。
多分、料理人さんなら何とかなるんだろうな。まあ、戦闘メインの人たちだとレアドロップ揃えても無理なんだろうけど。
結局、半日かけて食材集めと試作を行い、何とか2品を作り上げることに成功していた。
特定のアイテムだけ入手できず、何度も戦う羽目になったのだ。やはりこのゲーム、物欲センサー完備なんじゃないか?
もうナスとは戦いたくない。リアルでもしばらくはナスは勘弁なのだ。八百屋さんのナスとか見ても、反応しちゃう自信があるね。
様々な野菜たちとの激闘の末、俺はなんとか料理を完成させていた。
当初の予定通り、牛肉の味噌焼きと、野菜のミルク煮込みだ。ともに、試練達成の条件は満たしている。
一定時間のステータスアップの効果もあるが、お供えするもんだしね。その辺はあまり気にしない方がいいだろう。
勿体なくなっちゃっても、もう作れんし。まあ、作れないというか、作りたくない。
「完成したはいいけど、また女神像まで行かなきゃならんのだよな……」
ヒカリゴケがあるから、戦闘はほぼないんだけどさ。
「再び洞窟ハイキングとしゃれ込みましょうか!」
「ペペン!」
「ヤヤー!」
なーんて気楽に村を出発したら、普通にモンスターに遭遇したんですけど!
「ギョギョオオォォォォ!」
「うぎゃぁぁ!」
「ニュニュー!」
油断してるところにキモヒルはマズいって! 完全にSAN値チェック失敗だよ! 悲鳴上げちゃったよ!
俺の悲鳴とほぼ同時に、メルムがその軟体生物のようなボディでキモヒルを押さえ込んだ。そこにモンスたちが総攻撃を加えてヒルを倒してくれたが……。
まだ軽くパニクってるのだ。リアルの体、心臓の鼓動がヤバいんじゃない?
「な、なんでモンスターが……。うわ、ヒカリゴケ枯れてるじゃん」
「ニュー」
どうやらこのガラス玉の中に入れたヒカリゴケは、一定時間で枯れてしまうらしい。ガラス玉の中に入っている苔が茶色く変色し、光は非常に弱くなっていた。
ウィンドウからクイック装備したから、全然見てなかったのだ。
「またヒカリゴケ集めからか……。仕方ない。リック、オレア頼むぞ」
「キュ!」
「トリー!」
そうしてヒーヒー言いながら洞窟を進むと、ようやく女神像のある広間に戻ってこられた。いやー何度見ても美しい。
これを生で見れるなら、洞窟の苦労も報われるってもんだ! いや、もう少し楽ならありがたいけどね?
神像の前に立つと、再び女神様の声が聞こえる。
『戻ってきたのですね。試練を受ける覚悟を決めましたか?』
「はい。料理の試練を2つとも受けたいと思います!」
『分かりました。すでに、奉納する品物を持っていますか?』
「はい」
『では、私の像の前に、その品物を捧げるのです』
女神像の前に、光る円が浮かび上がった。というか、少し大きめの光るお盆だね。ここに載せろってことなのだろう。
俺は料理をインベントリから取り出すと、言われた通り光るお盆の上に置く。すると、料理が同じ銀色の光に包まれたかと思うと、一瞬で姿を消していた。
これで、女神様に奉納されたのかね? そう思った直後、再び女神様の声が聞こえた。
『素晴らしい出来の料理です。見事、試練を達成しましたね』
「あ、ありがとうございます!」
『では、約束通り、力を授けましょう』
おお! 力! これは凄そうだ! なんてったって、女神様の試練を達成して授けてもらうわけだし!
もしかして、すんごい必殺技とか? 俺も前線でハッチャケて、「あれ? 俺なんかやっちゃいました?」をする日がきたのか!
『お選びなさい』
女神様の言葉と共に、俺の前にウィンドウが立ち上がる。そこには、3種類の選択肢が並んでいた。
「えーっと、職人術?」
『そうです。戦いではなく、産み出すことを生業とする者たちに与えられる、より創造性を高めるための力です』
並んでいるのは『職人術・大地母神の緑眼』、『職人術・大地母神の細腕』、『職人術・大地母神の息吹』、の3つである。
大地母神の緑眼は、採取時に使用すると一定時間採取量、品質、レア発見率が上昇するという能力だった。普通に便利だよな?
大地母神の細腕は、料理時に品質、効果の上昇と、特殊な料理へ変化することがあるという。これも非常に面白い。使い方によっては、攻略組ですら驚くような凄い料理も作れるかもしれん。
で、最後の大地母神の息吹は、農作業用の効果があった。この職人術を発動している最中に農作業をすると、全ての行為にボーナスがあり、さらに収穫物の変異率が上昇するらしい。
「うぉぉぉ。ど、どれも欲しい!」
『選べるのは、1つだけです』
「あ、はい……」
それぞれ、採取、料理、農耕に特化している。生産職用の奥義って感じなのだろうが、全部有用なのだ。
想像していた力とは少し違ったが、俺的にはむしろこちらの方がありがたい。ちょっと残念だけどね。
いや、でも……マジでどれ選ぼう?
レビューをいただきました。
言語を使えないキャラとのワチャワチャは作者も書いていて楽しいので、そこを褒めてもらえて嬉しいです。
しかも、転剣まで読んでいただいているとは!
本当にありがとうございます。
転剣のアニメが、各配信サイトで解禁となりました。まだ見たことがないという方は、ぜひこの機会にチェックしてみてください。




