725話 ボガートの倒し方
ボガートの叫びによって狂乱状態に入った動物さんたちは、メッチャ強かった。全然ひるまずひたすら攻撃してくるのだ。
肉やミルクがドロップしたが、経験値は低いし、実入りがいいとは言えない感じである。いや、肉やミルクは欲しいけどさ! むしろ、俺は経験値よりも肉とミルクが欲しいけどさ!
ただ、俺程度の実力じゃ、回復アイテムの方が高くつきそうなのだ。もっと戦闘力が高いパーティなら何とかなりそうだが、そう言った人たちには経験値の低さがネックになるのだろうな。
その後、大地母神の試練を歩き回ってみたが、どこまで行っても農場が続いていた。放牧地か、畑のどちらかだ。
積極的に襲ってくるモンスターはボガートのみなのだが、こいつらの叫びで周囲の動物などが集まってくる。そして、ボコボコにされてしまうというわけだ。
ボガートには羊飼いスタイルの個体と、麦わら帽にクワという農家スタイルの個体がいた。
羊飼いが叫ぶと、動物が寄ってくる。
では、農家の場合は?
農家ボガートが叫ぶと、畑の作物がモンスター化して襲ってくるのだ。
この農場の畑の野菜には、まだ実がなっていない。収穫や株分けを試したけど、一切反応しなかった。そのため、オブジェクト扱いなのだと思っていたんだが……。
農家ボガートの悲鳴を聞くと、顔の付いた実が生り、襲ってくるのである。それも可愛い顔じゃなくて、牙の生えた凶悪な顔だ。キラート〇ト的なやつである。
やつらはHPが低く打たれ弱いが、攻撃力はかなり高かった。これが無数に寄ってくるので、かなりダメージを食らってしまう。プレイヤーの消耗を狙った罠なのだろう。
ボガートをどう攻略するかが、この迷宮のカギになっていることは間違いない。
まずは速攻での撃破を試してみたんだが、最後に消滅しながら叫びやがるのだ。断末魔的な感じなのかね?
ともかく、攻撃では叫びを妨害できなかった。
なら、先に動物や野菜を駆除してしまえば? これも無理だった。ノンアクティブ状態――つまり、こちらに敵対していない動物や野菜に攻撃すると、周辺のモンスターが一斉に狂乱化し、襲い掛かってくるのである。
ボガートの叫びなら動物か野菜のどちらかだが、この場合だと動物も野菜も関係なく襲い掛かってきた。
目を血走らせた動物や野菜に囲まれる状況は、出来の悪い夢のようだった。
これだったら、ボガートと戦う方がましである。
その後、色々と試してみると、こちらに気付いていない状態で倒せれば、叫ばないことが分かった。
隠密からの暗殺か、超遠距離攻撃が有効ってことだね。
ボガートは気配察知能力が高めで、暗殺は2割くらいしか成功しないことが分かった。となると、狙撃だ。
「ヒム!」
「……いや、そんな構えるしぐさをしても、クロスボウは使わんて」
「ヒム?」
「クロスボウの出来も、俺の腕も足りてないんだぞ? 無理だよ」
「ヒムー」
ヒムカはクロスボウの出番じゃないかと言いたかったらしいが、絶対無理だ。できたら超カッコいいし、そのうち狙撃ガンマンとかも登場するかもしれんがな。
「ここは魔術だ」
というか、他に方法がない。俺は水魔術での狙撃を練習することにした。
まあ、ある程度の自動追尾機能があるので、当てるのはそう難しくはないけどね。発動できるギリギリの射程を探り、気づかれる前に撃つ!
ボガートは水が弱点だったのか、不意打ちで当てればほぼ確実に倒すことが可能だった。そうやってボガートが少ないルートを探しつつ、見つけたら狙撃を繰り返して先へと進んだ。
すると、遂に大きな洞窟のようなものを発見する。地下へと下っていく、直径15メートルほどの穴だ。
「うーん。先に進んだら、もっと敵が強くなるんだよな……」
今でもきついのに、これ以上はヤバいだろう。他の試練でも、2層目は俺たちじゃ攻略できないレベルだった。
それに、牧場エリアをほとんどマッピングできてないんだよね。全体の3割くらいかな? マジックエンジニアのように、隠し要素的なものがあってもおかしくはない。
「ニュ?」
「メルムは地下に行きたいのか?」
「ニュー!」
闇の精霊だし、暗い場所が好きなんだろう。
「まあ、敵が強かったらすぐ戻ってくればいいんだしな」
「ニュ!」
「メルム、先頭を頼むぞ?」
「ニュニュニュー!」
メルムがやる気満々でプルプル震えている。肩の上で震えられると、意外に俺の頭も震えちゃうから! 戦闘しづらいから、とりあえず降りてね?
「ニュ?」
闇の中も見通せるメルムを先頭に、洞窟を進む。かなり下っていくが、道中で敵は出なかった。
そして、3分ほど進むと前方に明かりが見えてきた。ちょうど下りが終わり、いよいよ洞窟本番ってことなんだろうが……。
「なんだ? 村?」
「ニュー」
「えーっと、どんな種族が――」
「おめぇさんら、どうやって入ってきただ!」
「え?」
発見した地下の村に近づくと、横合いから声が掛けられた。怒ってるようにも聞こえるが、声は少し上ずっている。
そちらを向くと、白い肌のボガートが立っていた。手のクワを剣のように構えているが、震えすぎだろってくらいブルブルと激しく震えている。腰も引けていて、明らかにこちらに対してビビっているのが分かった。
ここはボガートの村ってことか? マーカーは赤じゃないから、NPC扱いっぽいね。
「えーっと、洞窟を下ってきただけですけど?」
「洞窟? ほう? 見えたんだべか?」
「え? ええ」
「女神様に認められた人間ってことだべな! なら村に入るも構わんべ!」
どうやら、女神様に認められていない人間には、見つけられない洞窟だったっぽい。大地母神の試練に入れているわけだし、ここまで到達できたプレイヤーなら誰でもオッケーなのかね?
「じゃあ、とりあえず村にお邪魔していいですか?」
「いいべ! 外はヤンチャな暴れん坊たちがたくさんいるのに、よくここまでこれたべ」
「暴れん坊?」
「茶色い肌の同胞だべ。あいつら、村を捨てて外の世界に飛び出していっちまったヤンチャ共だべ。日に焼けて、こんがり肌のチャラ男になっちまって……」
外のボガートも、この村の住人だった? メッチャ倒しちゃったけど、大丈夫なのか?
「……外のボガートを倒したら、ダメですか?」
「それは構わんべ。あいつらのせいで、村は困ってるべよ。ドンドン成敗しちまって構わんべ」
セーフ! 倒して大丈夫どころか、推奨っぽかった!




