274話 キュウリのおかげ
マルカを落ち着かせていると、今度は後ろから声をかけられた。
「ユートさん!」
「アシハナか。追加の養蜂箱を作ってもらった時以来だな」
「ね、ねえ! この後時間ない? 私もクママちゃんとお茶したい!」
マルカと全く同じことを言われた。だが、その言葉に言い返したのは俺ではなかった。
「へっへーん! それは私が提案して、もう断られたもんねー!」
そのマルカ当人である。
「それはあんただからでしょ! あたしならいいよね?」
「いや、どうしてそんな結論になるのか分からんけど、このあとダンジョン行くから」
ブランシュたちと東の地下通路に行くと説明する。しかしアシハナはマルカよりも諦めが悪いようだった。
「じゃあ、アタシもいく! 一緒に行けば、クママちゃんにオヤツあげるタイミングあるかもしれないし!」
「あー」
どうしよう。アシハナがクママに抱き付いて離す気配がないんだけど。しかも、その言葉にマルカが「その手があったか」っていう顔をしている。次に発する言葉が予測できるんだけど。
「じゃあ、私もいく!」
「ダメに決まってるだろう」
「俺たちだって、ダンジョンいくんだぞ?」
だが、マルカのパーティメンバーたちが首を振っていた。そして、そのまま引きずられて行く。
「ちょ、待ってよ!」
「ダメだって。明日から仕事の奴もいるんだから、今日中にクリアしないと」
ここに来たのも、マルカの我儘であったようだ。
「私はソロだもんね!」
「あ! ずるいわよアシハナ!」
「ばいばーい」
「ちょ、クママちゃーん!」
あいつ、これだけの人が見ている中で、よくあれだけ大声で叫べるな。ある意味尊敬するぞ。
「うふ♪」
マルカが強制退場させられた後、アシハナが期待の眼差しで俺を見ている。
「……はぁ。なあエリンギ。俺のモンス枠1つ減らしていいから、アシハナも一緒じゃダメか?」
「我々は一向に構いませんよ? 有名プレイヤーとお近づきになれるチャンスですから」
「俺もかまワないゼ?」
「私もです」
「やた! ありがとう!」
なんてやり取りから1時間後。
「クーマーマーちゃーん」
「クーマー?」
「クーマーマーちゃーん!」
「クマーマー」
列に並びながらクママを甘やかし続けるアシハナがいた。マルカが見たら、血の涙を流すかもしれん……。
そんなアシハナたちを横目に、俺はエリンギたちとダンジョンの情報をチェックしていた。
とはいえ、東の地下通路は浜風のおかげで、ほぼ全ての情報が出そろっている。しかもエリンギはテイマーの中でもかなり武闘派であるらしく、戦闘力には定評があるらしい。ここは正直楽勝っぽかった。
それでも俺が攻略に誘われたのは、キュウリを所持しているからだ。最近はダンジョン攻略用に高騰してしまっており、なかなか入手が難しいらしい。
因みに今回のパーティは、俺、アシハナ以外は、ヒムカ、ドリモ、クママ、リック、ファウである。
クママはアシハナの、ファウはエリンギの希望だった。特にエリンギ。あの無表情で熱心にお願いされるとメチャクチャ迫力があった。思わずうなずいちゃったよ。まあ、いいんだけどね。ファウはチームプレイでも活躍してくれるしさ。
リックを連れてきたのはお茶会で留守番をさせてしまったので、その穴埋めだ。ヒムカに関しては、レベリング兼陶磁器の素材探しのためである。
「じゃあ、2時間くらいで攻略できるってことか?」
「はい、ボスもそこまで強くないですし、メンバーも充実してますからね。少し急げばそれくらいで攻略できるかと」
いくら攻略情報があると言っても、本当にそんな短時間でダンジョン踏破が可能なのだろうか? こう言っちゃなんだが、俺はかなりの足手まといだぜ? 甘く見ない方がいいと思うんだけどな……。
だが、エリンギの言葉は正しかった。そもそもエリンギやブランシュは普段は前線にいるメンバーであるらしく、このダンジョンではレベル帯が全く違っていたのだ。
どのモンスターも瞬殺だったし、罠の解除なども完璧で、俺たちの出る幕など何もなかった。ボスも殆ど苦戦しなかったし。クママがクリティカルを食らって死にかけたくらいかな。
あとは、その光景を見たアシハナがブチギレて、リキュー特製の爆弾を投げて自爆して、死に戻ったくらいだ。
その後、一応コールで連絡をとったが、自分のことは忘れてそのまま進んで欲しいということだった。まあ、後はコガッパというNPCにキュウリをあげるだけだしね~。というか、アシハナはすでにこのダンジョンを攻略済みであった。コガッパから貰えるアイテムもゲット済みであるらしい。
じゃあ何で付いて来たんだと尋ねたら「クママちゃんがいるところに、私の姿ありよ!」だってさ。
まあ、あいつのことはいいや……。
それにしても、まじで今回のダンジョンアタックは何もしなかった。最後にキュウリを出すくらいの貢献じゃ、全く足らんのだけど……。だが、エリンギたちは気にしていないようだった。
「まあまあ、それよりもコガッパですよ。お願いします」
「あ、ああ」
「それに、間近で妖精を観察できましたからね。私的には非常に有意義な攻略でしたよ?」
「俺とブランシュはキュウリが手ニ入らなかったかラ、それを提供してもらえるだけでも十分だゾ?」
「そうですよ」
まあ、どうするかは後で考えよう。ドロップ品の一部を譲渡したりすればいいと思うしね。
「じゃあ、とりあえず進むか」
情報では、この先にコガッパがいるはずなのだ。
ちょっと前から新作を投稿しております。
10話を越えましたので、興味がある方はぜひお読みください。




