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252話 なんかすいません


 アリッサさんに指定された場所は、始まりの町にある大通り沿いの一角だった。大広場から伸びる、始まりの町のメインストリートだ。


「この辺のはずだけど……。NPCショップなのか? みんなも探してくれ」

「クマ!」

「ヒム!」


 お供は、お留守番役だったクママ、ヒムカに、情報を売るつもりのファウ、ルフレ。生産ではあまり出番のないリック、ドリモだ。


 マップを見る限り、建物の中なのは確かなんだけどな。NPCショップか何かだろうか。


「えーっと――」

「あー! 来た来た! ユート君! こっちこっち!」


 良かった。外に出て待っていてくれたらしい。アリッサさんがこっちに向かって手を振っている。


「どうも昨日ぶりです」

「うん! 来てくれてありがとっ!」


 満面の笑みで出迎えてくれるアリッサさん。余程いいことでもあったのかね。


「何か見せたいものがあるっていう話でしたが?」

「そうなんだよ。こっちきて!」


 アリッサさんが目の前の建物に入っていく。やはり何かの店舗であるらしい。中にはカウンターが見える。だが、俺の目を釘付けにしたのは外に掲げられている看板であった。


 お洒落な西洋風の木の看板が掛かっており、そこには白黒の猫のロゴと、『早耳猫』という文字が描かれていたのだ。


「アリッサさん! これってもしかして……」

「へへー、気づいた? ようこそ! 早耳猫のクランハウス兼店舗へ!」

「おおー!」


 見せたいものというのは珍しい物品などではなく、この店舗そのものだったのか! いやー、アリッサさんのもくろみ通り、驚いてしまったぜ。


「高かったんじゃないですか? こんないい場所に」

「それが始まりの町のクランハウスはそうでもないんだ」


 アリッサさんが「ユート君には特別に教えてあげるね」と言って、クランハウスを購入するための条件を教えてくれた。


 確かにアリッサさんがいう通り、非常に簡単だ。クランに所属するプレイヤーが10人以上いれば、50万Gで購入可能であるらしい。


「50万……高いですね」

「そうでもないよ? 一人頭5万だし。ホーム扱いの建物がその値段で手に入るのはむしろ破格だと思うけど」

「言われてみれば、そうなのか?」

「そうだよ。まあ、小さくて狭いけどね」


 アリッサさんが改めて中を案内してくれた。


 確かに、お世辞にも広いとは言えないな。3畳ほどの広さの店舗に、奥のリビングスペースは10畳程度だろうか。一人暮らしならともかく、10人以上で使うには手狭だろう。


「しかも始まりの町のクランハウスは、中をいじることはできても、拡張は出来ないんだよね。事前に聞いていたクランハウスに付属する機能も幾つか使えないし」

「つまり、不完全てことですか?」

「多分、お試し物件ってことなんだろうね。クランハウスは条件さえ満たせば各町で買えるらしいし」


 始まりの町の物件は初回のお試しで、本格的にクランハウスが欲しければ他の町へ行けってことか。


「あの奥の扉は? 部屋はここだけなんですよね? 裏口ですか?」

「それが分からないの」

「は?」

「だって開かないんですもの。多分、解放されてない機能に関係しているんでしょうね」


 やはり、始まりの町のクランハウスは不完全てことらしかった。


「まあ、今後はこの店舗でも情報の買取を行うから、ぜひ利用してよ」

「ここでもってことは、露店での情報買取も今まで通りやるんですか?」

「まあね。窓口は多い方がいいし。でも、必ず誰かいる店舗があるっていうのは、利用者にとってはいいことでしょ?」

「それはもう。実はアリッサさんに会えなかったせいで、情報が結構溜まってるんですよ」

「……た、溜まってる? たった一日で? ちょっと待って、いま心の準備をするから」

「心の準備?」

「ええ。すーはーすーはー……」


 どういうことだ? なんで深呼吸を始める?


「ふぅ……良いわよ! どんな情報でもドンときて! この店舗での、情報買取第一号だからね!」


 なるほど、記念すべき最初の売買だから緊張気味だったのか。


「それは光栄ですね。じゃあ、まずは従魔の情報から」

「うん。だと思った」


 そう呟くアリッサさんの目はファウに向いていた。そりゃあ、これだけ目立つんだし気付かない訳がないよな。


「ヤ!」

「フム!」


 アリッサさんの視線を感じたのか、ルフレと、その頭の上に仁王立ちのファウがドヤ顔で胸を張る。


「ファウがフェアリー、ルフレがウンディーネ・フロイラインですね」

「ほうほう」


 俺は進化したファウと、ルフレの情報を表示して、進化時の状況などを語る。


「なるほどねー。これはいよいよ、妖精熱が高まりそうだわ」

「街中でもすっごい見られましたよ」

「仕方ないでしょ。これだけ可愛いんだし。はっきりいって私もほしいくらいよ。テイムスキルの取得者がまた増えるでしょうね」


 肩乗り美少女フェアリーだもんな。そりゃ皆欲しがるに決まっている。それくらいは俺でも分かるのだ。


「水精ちゃんも、これはいいわね。回復役の出来るモンスは少ないし。今日、すんごい勢いでウンディーネの保有者が増えてるんだけど、ユニークをテイムできたプレイヤーはほとんどいないみたいよ?」


 なんと、テイマーじゃなくてもテイムスキルと使役スキルを取得して、ウンディーネのゲットを狙うプレイヤーが結構いるらしい。


 まあ、ウンディーネは可愛いから仕方ない。これでテイマーにジョブチェンジするプレイヤーが増えてくれたら嬉しいんだけどな。


 あとは小さい所で、緑茶の情報をまだ売ってなかった。それ以外にも、桜の花弁は塩漬けにできなかったことなど、細やかな情報をいくつか話していく。


「で、最後が――」

「ちょ! ま、まだあるの?」

「はい。一番おっきなのが」

「く、さすがユート君……。いいわ! 聞こうじゃない! 私も早耳猫のサブマス! ちょっとやそっとじゃ驚かない!」


 妙に気合の入っているアリッサさんに、発見した地下洞窟の情報を語る。最初は西の地下水道の情報だ。こちらは地図もほぼ完成しているし、ボス戦のログもある。しかもオバケに何を食べさせればいいかも分かっているのだ。


「こ、これってもしかして、東の町で発見された地下通路と同種のものなの……?」


 アリッサさんが冷静な顔で、表示されたデータを見つめている。メッチャ無表情で、全然驚いているようには見えない。少しリアクションを期待してたから、ちょっと悔しいぜ。


「多分そうだと思いますよ。こっちが北の町で発見した地下洞窟の情報です」

「えっ? えっ? も、もう1つあるの?」


 さすがにダンジョンの情報2つ目は驚いてくれたらしい。猫耳をピンと立てて驚きの声を上げる。


「嘘でしょ? 何かの冗談よね?」

「はい冗談です」

「え?」

「なんちゃって~。いや、なんで冗談を言う必要があるんですか。本当ですよ」

「……はは。そう。本当なの……」


 アリッサさんが乾いた笑い声を上げた後、大きく息を吐く。やべ、ちょっと滑ったらしい。やっぱ俺にジョークを言う才能はないようだ。


「なんかすいません」

「多分噛みあってない気がするけど、まあいいわ。それで、北の町の洞窟っていうのはどんな感じ?」

「これです。ただ、こっちはボスに負けて死に戻ったので、奥に何があるのかは分かってないです」

「いやいやいやいや! これでも十分凄いから! 大発見だから!」

「発見したのは俺じゃなくてアメリアなんですけどね。なんで、地下洞窟の情報料はアメリアと折半する予定です」


 北の地下洞窟についても知る限りの情報を渡す。


「はぁ~。さすがユート君よね~。凄いわ」

「いやー、褒めてもらってうれしいですけど、最近は結構色々な発見があるみたいじゃないですか。ほら、東の地下道発見した人とか」

「浜風ね。まあ、あの子はうちに情報売ってくれないし……。情報公開は有り難いんだけどね~。でも、浜風といい、最近は使役系のプレイヤーが情報の発信源になる事が多いのよね」

「ふーん。そうなんですか」

「そうなんですかって……。誰の影響だと思ってるの」

「うん?」

「いえ、いいの。分かってる。ユート君がそういう人だって分かってるから」

「はあ……。よく分からないけど、なんかすいません」


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