213話 時間経過塗料
レトロ家具を調子に乗って大量に作っていたら、塗料が大分減ってしまった。
「どっかで塗料だけ買えないのか……? というか、作れないか?」
作ると言ったら錬金術だろう。レシピを確認してみると、なんと塗料という項目が増えていた。どうやら水や鉱物を混ぜ合わせて作るみたいだな。まあ、材料が足りないけど。だが、土鉱石などの見知った材料ばかりなので、後で買えばいいだろう。
ただ、それは「汚し・木材」「汚し・金属」の2種類だけだ。時間経過の塗料に関しては、レシピが全て????だけだった。これだけ特別みたいだな。
鑑定してみると、汚し塗料はレア度が3である。だが時間経過はレア度が6となっていた。
「はあぁ? レア度6?」
確か、マジックシルバーの剣でさえレア度5だったはずだ。それが6? これって俺の想像以上に凄いアイテムだったんじゃないか?
実はこの時間経過塗料だけは一切減っていない。普通にレトロ塗装をするだけでは使用しないみたいなのだ。
「つまり、特殊な塗装の時だけに使う?」
いったいどんな塗装なのか……。いや、この名前をそのまま信じるならば、時間を経過させるってことか?
椅子への試し塗りでどの塗料を使うかも表示されるので、時間経過塗料を使う塗装を探してみる。だが、手持ちの木工製品を全て確認し終えたのだが、時間経過塗料を使う塗装は存在していなかった。
「うーん、マニュアルじゃなきゃ使えないとか? それとも椅子には使えない?」
だとすると何が原因なのか……。そもそも考えてみたら、椅子を時間経過させる必要が無いか? 10年程度ならともかく、50年とか時間経過したら壊れるだけだろうしな。
「となると、時間経過が必要な物?」
そんなものあるっけ?
「植物か?」
樹木を一気に何十年も成長させられるとか? もしそうだったら、苗木を植えた次の日に収穫とか可能なんだけど。
「よし、植えたばかりの神聖樹に――」
まあ、無理だよね。そう都合よくはいかなかった。そもそも選択することさえできませんでした。
「他には何かあったっけ?」
古くなるとよさげな物? 骨董品とかは、時間が経てば経つほどいいんだよな。壺とか、掛け軸とか……。
とりあえず色々な物を片っ端から試してみることにした。武具やアクセサリ類を選択しようとしてみるが、神聖樹と同じで選ぶことさえできない。以前サクラが作った苔玉や、食器類なども無理だ。
俺はさらに時間経過塗料の使い道を探しながら納屋の中のアイテムを物色する。すると、時間経過塗料を使用できるアイテムがあった。
今までには選択肢に存在していなかった、レトロ・時間経過という特殊な塗装を選ぶことができるようになっている。
「茶釜か」
買ったばかりの茶釜であった。すでにボロボロなんだけど、さらに時間経過させるの? まあ、時間経過塗料を使えそうなのがこれしかないし、使っちゃうか。オークションで買ったアイテム同士だし、これも運命かもしれん。
「何が起きるかなーっと」
俺が茶釜に対してオートペイントを選択したその直後だった。
茶釜のボロさがさらに増す。僅かに残っていた黒い部分が完全に剥げ、錆が全体に回る。だが、それがまたいい味を出しているのだ。ボロいが、悪いボロさじゃない。ぜひ古い古民家などに置きたい。そう思わせる外見であった。だが、変化はそれだけではない。
「ヘンカというか、ヘンゲ?」
そう変ゲしたのだ。何がって、茶釜がだ。時間経過塗料を塗り終わった茶釜から、フサフサの尻尾が生えている。少し丸みを帯びた、モフモフの尻尾だ。
「……これは――」
「ポコ?」
茶釜+尻尾=タヌキ! きました! すると、茶釜からは手足に、タヌキの顔がポンポンと音を立てて生える。完全に茶釜のタヌキだ。
「お、お前は妖怪なのか?」
「ポコ!」
まじで妖怪になったらしい。俺の言葉にコクコクと頷いている。
『妖怪、ブンブクチャガマと友誼を結びました。一部のスキルが解放されました』
「おおー、戦闘しなくても、仲良くなれるタイプの妖怪だったか」
どうやら妖怪化した茶釜を入手すれば、それで友誼を結んだことになるらしい。妖怪察知に反応しなかったのは、あの時はまだ妖怪じゃなかったってことなんだろう。
「でも、俺は陰陽師じゃないからな……」
職業が陰陽師だと、このブンブクチャガマを使役できるはずなんだが。俺の場合は、単に図鑑が埋まり、スキルが解放されただけだ。あとは、ハナミアラシみたいにお供え物が出来たりするのか?
「なあ、何か食事かお供え物が必要か?」
「ポコ」
「食事?」
「ポン」
「お供え物?」
「ポコ!」
お供え物が欲しいらしい。チャガマのタヌキに対するお供え物と言うと……。
「これとかどうだ?」
「ポコポン!」
ハーブティーをあげてみたんだが、明らかに喜んでいる。だって、どこからか取り出した和傘の上で鞠を回しながら、小躍りしているのだ。メッチャ可愛いなこいつ。
ただ、ハナミアラシのように、何かアイテムをくれたりすることはなかった。まあ、今の曲芸が見れただけでも十分かね? それに、可愛い同居人が増えたわけだしね。
「そう言えば、解放されたスキルって何だ?」
スキルを確認してみると、曲芸、茶術、招福の3つが解放されていた。どれも知らないな。まあ、曲芸と茶術は名前からして今すぐ必要なスキルじゃないことは確かだろう。
ただ招福はどうだ? 多分、運が良くなるスキルだと思うんだが……。オルトが所持している幸運とは何が違うんだ?
「うーん」
「ポコ?」
「おっと、今はお前のことが先だな。名前とか付ける必要はないのか?」
色々と調べてみたが、どうも名前は必要ないらしい。テイムしたわけじゃないしな。
「なあ、お前はどれくらい動けるんだ?」
「ポコ?」
俺がそう問いかけると、ブンブクチャガマが納屋のテーブルから飛び降りて、そのまま外に出て行ってしまった。
「あ、おい!」
慌てて追いかけると、ブンブクチャガマは畑の際で立ち止まっていた。まるで見えない壁があるかのように、道と畑の間で足を止めている。なるほど、インテリアとして納屋に置いてあったわけだし、俺のホーム内しか動き回れないってことか。
「まあ、畑は自由に動けるみたいだし、その中は好きに動いていいからな」
「ポコ!」
「ただ、悪戯はするんじゃないぞ?」
「ポコ!」
オレアもいるし、寂しくはないだろ。
「これからよろしくな」
「ポコポン!」
問題は、折角手に入れたインテリアが、動き回るようになってしまったことか。他に納屋に似合いそうなインテリアとか、売ってないかな?
「いや、まだ塗料はあるんだし、何かそれ用に作ってみてもいいかね?」




