205話 カルロ
花見の2次会が終わった後、俺は始まりの町の獣魔ギルドに向かい、いくつかクエストを受けていた。
今回のレイドボス戦でルフレを置いて行ってしまうことになり、従魔の宝珠を早急に手に入れた方がよいと痛切に感じたからだ。あれがあればアミミンさんのように、モンスを召喚して入れ替えることが出来るようになる。
「次に同じような機会があったらルフレも戦うチャンスをやるからな」
「フムム!」
今回、特殊なオレアをのぞけば、ルフレだけがレベルアップできなかった。多分、わずかでも戦闘に参加すれば、経験値の分配が行われるはずだ。こういう悔しい想いをすることもなくなるだろう。
「よし、もうちょっとだ! 頑張ろう!」
「フム!」
ルフレを中心に、うちの子たちがオーッと拳を突き上げる。
まずはギルドランクを上げて、従魔の宝珠を作れるようにならなければならなかった。あとちょっとなんだけどな。今日の常設依頼はリスなので、頑張れば今日中にランクアップ出来ると思う。
そんな中、ちょうど始まりの町に戻ってきていた俺は、アリッサさんからの連絡をもらっていた。
『やっほー。今時間大丈夫?』
「はい。さっき別れたばかりですけど、どうしました?」
『あはは、ユート君らしいわ。今日の夜に残りの支払いをする約束だったでしょ?』
「ああ、そう言えば」
忙しくて忘れてた。土霊門の情報料の残りを支払ってもらう予定だったな。しかも最低で25万G。やべ、思い出したらテンション上がって来たぞ!
「じゃあ、それの支払いってことですかっ?」
『きゅ、急に声大きくなったわね。でも、そうなのよ。今どこにいる?』
「始まりの町にいますよ?」
『じゃあ、どこかで落ち合えないかしら?』
「わかりました。じゃあ、いつもの露店に行きますよ」
『あー、今ちょっと難しいのよねー』
どういうことだろう? 今日は始まりの町に露店を出していないのだろうか?
『ちょっと混雑が凄くて、来てもらっても落ちついて話ができないと思うわ』
「なるほど。じゃあ、俺の畑でいいですか?」
『ごめんね。じゃあ、畑で待っててもらえる?』
「了解です」
25万も貰えるのだ。いくらでも待ちますとも!
『ただ、私がいまちょっと店を離れられないのよ。だからカルロを向かわせるわね』
「そんなに忙しいんですか?」
『いやー、情報が売れて売れて困っちゃうわー。うちのお客さんが広場に溢れちゃってもー大変!』
全然大変そうじゃない声でアリッサさんが言う。むしろ嬉しそうな声である。
『少し待ってくれたら掲示板に情報載せるって言ってるのに、すぐ情報が欲しいから売ってくれってみんながさー』
「はあ」
『とぼけた声出しちゃって! ユート君のおかげなんだからもっと威張っていいのよ?』
どうやらチェーンクエストの情報も売れているみたいだ。知りたい人はみんな早耳猫に殺到したんだろうな。
顔を見せない声だけのやり取りなのにその声が弾んでいて、アリッサさんの満面の笑みが見えてくるようだった。
「じゃあ、畑で待ってますんで」
『うん。またいい情報があったらお願いね。あ、あとカルロに面白い情報を持たせるから』
「面白い情報?」
『そそ』
「どんな情報ですか?」
『それは聞いてからのお楽しみてやつで。じゃあ、またねー』
最後までテンションが高かったな。あんなアリッサさん中々珍しいぜ。よほど儲かったんだろう。
そのまま畑にもどると、10分もせずに早耳猫のテイマー、カルロがやって来た。急いでくれたらしく、息を切らせている。
「どうもお持たせしました」
「いやいや、10分も待ってないから」
「そうですか? よかったです」
こうやって2人きりで話すのは初めてだが、夜になると急に雰囲気が出る奴だな。黒い髪と白い肌に、金の猫目。黒猫の獣人なんだが、暗闇の中で淡い光に照らされる姿は、夜の貴公子という単語がしっくりくる艶やかな色気を醸し出している。
あと、その姿がちょっと目立つ格好だった。装備自体は普通の黒いローブと外套なんだが、左側だけが妙に膨らんでいるのだ。どうも外套の下で、左手を軽く曲げて、上に上げているらしい。胸のあたりが盛り上がっている。
「それ、なんだ?」
「ふふふ。これですか? 気付いてくれました?」
「ま、まあね」
これはもしかしたらスルーすべきだったか? 俺が外套の膨らみを指差すと、メチャクチャ嬉しそうな顔でにじり寄って来た。どうやら何かネタを仕込んでいるらしい。それを指摘して喜ばせてしまったようだ。
「ふふふ」
「……」
「ふははははは!」
こいつ、こんな奴だったのか。ちょっとウザめの絡み方だね。やはり無視するべきだった!
「では、とくと御覧じろ! 私の必殺技を!」
「キキー!」
「おわ!」
「クマー!」
「トリー!」
お、驚いた! 思わず声出しちゃった。なんと、あの膨らみの中には、土霊の試練でテイムしたダーク・バットが入っていたらしい。カルロがまるでマジシャンのように外套を跳ね上げた瞬間、中からダーク・バットが飛び出してきた。
なるほど、敵がいれば奇襲になるかもしれない。一緒にカルロを出迎えたクママとオレアもびっくりしていた。クママは思わず尻餅をついて、上空を旋回するダーク・バットをポカーンと見上げている。
オレアはパペットみたいな表情が全然動かないけど、両手をドヒャーッと上げるポーズで、本当に驚いているのが分かった。その後、左胸に当てて、肩を上下させている。君、木製のボディな上に樹の精霊っぽい種族だけど、心臓あるの?
「どうですどうです? 凄くないですか?」
「そ、そうね」
カルロはメッチャドヤ顔だ。ウザいけど、まあ驚いたことは確かだ。クママもオレアもいいリアクション取っちゃったし。俺、思わずスクショしちゃった。それにああいうネタを考えるのは嫌いじゃない。ウザいけど!
「まあ、ずっとやってると重くて腕が痺れるんで、いざという時にしかやりませんけど」
「じゃあ、何で今やった」
「いやー、白銀さんをびっくりさせようと思いまして。スルーされたらどうしようかと気が気じゃなかったですよ」
ちっ。スルーしてやればよかった!
「白銀さんも従魔ちゃんたちもいいリアクションで驚いてくれたし、大満足ですね」
「そうですかい」
ちくしょう、いつかカルロを驚かしてやる。何かネタを考えねば。リックをローブの下に仕込んで……だめだ! それじゃあカルロの二番煎じだ。もっと独創的な物を考えないと、カルロにリベンジなんかできないぞ!




