163話 早耳猫と検証
「それがね……手持が今20万Gしかないの」
「はあ?」
20万しかって聞こえたが、2万の聞き間違いだよな?
「正直、ユート君の持ってきてくれた情報はメチャクチャ売れるわ。今の手持ちじゃ全然足りないの。情報を買ってもらって相殺できないかと思ったんだけど……。まあ無理ね。すぐにギルドでお金を下ろしてこなくちゃ……。いえ、その前に検証もしないと……。でも、かなり待たせることに。いえ、ならいっそのこと……」
アリッサさんが何やら考え込んでしまった。深刻な顔でブツブツと呟いている。どうやら、検証をしないといけないらしい。いや、それは確かにそうだよな。これだけの重大な情報だからね。
そうなると報酬の支払いは検証後ということになるか。地下の祭壇を発見した時もそうだった。だが、前金だけだとホームオブジェクトに届くかどうかわからない。だったらいっそ、検証を手伝ったらどうだ? そうすれば、情報料もすぐに払ってもらえるかもしれない。
「あの、もしよかったら検証のお手伝いしましょうか?」
「え? まじ? それすっごい助かる!」
「いや、報酬を早くもらいたいだけなんで」
「ユート君のことは信じてるから確実だと思うけど、検証しない訳にはいかないからね。それと、もうこの際だから聞いちゃうけど土結晶持ってるのよね?」
「ありますけど?」
「売ってもらえたりはしないかしら? もしくは、他の属性結晶と交換とかじゃだめ? 緊急性を考えたら土結晶が絶対に必要だし、火と風を出すわよ? どう?」
「え? 土結晶1つに対して、2つってことですか?」
「ええ」
それってむしろ得してないか? 俺にはもう土結晶は必要ないし。今後必要になる風結晶と火結晶が手に入るなら有り難い。
「いいんですか?」
「当然よ。こっちからお願いしてるわけだし。今日に限って言えば、それくらいの交換レートでも問題ないわ」
「分かりました。それでお願いします」
「ありがとう! これですぐに検証に行けるわ!」
「いえいえ」
「じゃあ、早速メンバーを集めるから! ちょっと待ってて!」
と言う事で1時間後。俺たちは土霊門の前にいた。いやー、早耳猫の行動力が想像以上だったね。アリッサさんが集合をかけた20分後には、露店の前にメンバーが到着していた。
その時にアリッサさんが早耳猫のサブマスターだと判明してびっくりしたけどね。サブマスとか呼ばれてて、一瞬なんのことだか分からなかったぜ。まあ、俺から高額で情報を買ったりしてたし、サブマスだからこそクランのお金を自由にする権限があるってことなんだろう。
すでに検証を開始している。最初は俺をリーダーにして、門を潜ろうとしてみたんだが……。門を通るとパーティは解除され。俺だけが中に入ってしまっていた。
「やっぱり、ユート君と一緒でも中には入れないか……」
「ですね~」
「じゃあ、次は私達だけで試してみましょう」
「了解」
「果たして1つの結晶で全員が入れるのか、それとも1人しか入れないのか……」
因みに、ここまでは12人で来ている。俺以外は全員早耳猫のメンバーらしい。鍛冶屋のルインやファーマーのメイプルの姿もあった。店は良いのかと思ったが、こっちの検証の方が遥かに大事であるらしい。
「結局、土結晶は2つしか用意できなかったし、慎重にいかないとね」
俺が渡した物と、ルインが個人的に持っていた物の2つしか準備できなかったらしい。
「じゃあ、まずはチームを組んで結晶を捧げてみましょう」
「なるほど、確かにアナウンスが聞こえるわ」
「これは気づかないだろ。曜日と結晶がトリガーだったとはなー」
早耳猫の面々が色々と分析しながら、アナウンスに従って結晶をストーンサークルの中心に置く。すると、光の柱が立つのが見えた。俺たちが門を開けた時と同じ演出だ。
「え? 嘘?」
「どうかしました?」
「門を潜ることができるのは3人だって」
アリッサさんたちに、人数を制限するようなアナウンスが聞こえたらしい。それにしてもパーティ全員でも、1人でもなく、3人? 中途半端な人数だな。
とりあえずアリッサさんたちが3人を選び、門を潜っていった。そのうち1人はテイムスキル持ちで、肩に栗鼠を乗せている女性だ。どうやらモンスは制限に引っかからないらしい。一緒に潜ることができていた。そしてすぐに戻って来ると、何度も出たり入ったりを繰り返す。
「やっぱり、1度門を潜れば、それ以降は問題ないみたいね。でも、なんで3人なのかしら?」
「とりあえず、残った結晶を捧げてみようじゃないか。何か分かるかもしれんし」
「それもそうだな」
続いて、ルインがリーダーとなって結晶をストーンサークルに捧げる。この土結晶はルインの所有物だった、イベントの報酬の結晶だな。
今度は6人までという制限がついたらしい。俺の時にはそんなアナウンスなかったけど、あれは俺しかプレイヤーがいなくて制限する必要がなかったからだろうな。
それにしても、この人数の違いはどうしてなんだろうか? ランダム? 俺は一瞬そう思ったが、アリッサさんたちはすぐに理由に気が付いた。
「品質ね……」
「なるほど。確かにそうかもな」
「うむ」
言われてみると、俺が持っていたノームのドロップ品である土結晶は品質が★3で、イベントの報酬でもらえた結晶は品質が★6だった。
「これまで結晶系は★6の物しか出回っていなかったので品質を気にしたことがなかったわい」
「そうなのよね。でも、これで品質によってかなりの値段変動があるでしょうね」
さすが早耳猫。分析が速い。
「イベント報酬の属性結晶、プレイヤーの手にどれくらい残ってると思う?」
「使用する目的で交換した奴は、ほとんどが武具に使っちまっただろうな」
「エリア攻略に属性武器が必要だしね~」
「これは、凄まじく高騰しそうだな……」
確かに、俺みたいに取っておく人はあまりいないかもね。必要だから交換したんだろうし。
「つまり、今ここで門を潜らないと、今日中にまた戻ってこれるかは分からないってことだろう?」
「まあ、そうなるな」
「門を潜る権利は俺が頂く」
「いえいえ、私よ」
同じクランメンバーでも、ここは譲れぬものがあるらしい。互いに鋭い視線を交わし合う。そして、早耳猫のメンバーによるジャンケン大会が始まった。結晶の持ち主であるルインは決定として、他の5人はジャンケンで公平に決めようってことなんだろう。
必殺技を出すんじゃないかって言うくらい、気合を入れてチョキを出す者。勝った直後にグーを天に突き上げる者。パーで敗北してそのまま掌で顔を覆う者。悲喜交々だ。
「うおおお!」
「なんでだー」
「今日の射手座の運勢は1位だったはずなのに!」
うん、楽しそうだね。




