161話 久々の早耳猫
「ども」
「やほー。ユート君もついに第3エリアに到達したね~」
「はい。それにしても久しぶりですね」
「そうなのよ! リアルの用事で昨日からずっと徹夜でね。ついさっき帰って来てさ」
「え? それでログインしたんですか?」
寝なくていいのだろうか? いや、俺が言えたことじゃないけどさ。
「いいのいいの。むしろゲームやってる方が元気出るから」
「まあ、気持ちは分かりますが」
「だよねー。それで、売りたいっていうのはどんな情報? 期待してるわよ。もう、ワクワクが止まらないの!」
「え? なんかハードルがメッチャ上がってません? なんで?」
「あのユートくんが、自分で売り込みに来る情報だもん。当たり前じゃない。ラスボスでも発見しちゃった?」
ラスボスって。どれだけ期待されてんの俺?
「いやいや、あまり持ち上げないでくださいよ」
「でも、自信があるんでしょ?」
「まあ、そうですけど。良く分かりますね」
「ふっふっふ。もうユート君と何度取引してると思ってるの? 顔見れば分かるわよ」
「かないませんね……」
「なんてね。その新しい子。その子を見ただけでも、凄い情報を持ってるって分かるからね。とんでもない爆弾のヨ・カ・ン♪」
爆弾って言ってるのに、なんで嬉しそうなんだ? 情報屋の性って奴なのか?
「あ、ボイチャ使ってね」
「そう言えばそんな機能有りましたね。でも、前回ファウの情報を売った時には小声で話せって言ったじゃないですか。ボイチャがあるんならそれでよかったんじゃないですか?」
「あれは焦らしよ」
「焦らし?」
「そうよ。聞こえそうで聞こえないくらいの声で会話して、焦らしてたの」
焦らしてたって、誰を? 俺をか? 意味が分からんが……。まあいいや。
「えーっとですね。こないだワールドアナウンスのあった、精霊門ってあるじゃないですか」
「ええ。私にも精霊門の凄い情報あるわよ」
そう言えばそんなメールが来てたな。
「あ、じゃあ被ってるかもしれないんですけど」
「まあまあ、とりあえずユート君の情報を聞かせて? 場所は?」
「第2エリアですね」
「もしかして地図が役に立った?」
「はい。助かりました」
「いやー、ユート君に地図情報を渡した甲斐があったわね~。それで、どんな情報なの?」
「はい、実はですね――」
そして、俺はまず水霊門に関する全ての情報を語った。泉に到着して、アナウンスに従って水結晶を投げ込んだら水霊門が出現したこと。その中にはウンディーネの住む水霊の街があったこと。そこでは様々な物が買えたこと。
さらに、水霊の試練というダンジョンで出現するモンスの情報や、水路が中で繋がっており、宝箱なども配置されていることなども全て語った。ボイチャをしながらも、証拠のスクショをアリッサさんに見せていく。
「で、この子がユニーク個体のウンディーネ。名前はルフレですね。これがステータスです。あと、これが水霊の試練でゲットしたドロップと採取物です」
「……」
「しかも狂った水霊のドロップに、水結晶があるんですよ。これは大発見ですよね?」
「…………」
「あれ? アリッサさん?」
「…………」
「ボイチャ切れた?」
「…………あのね」
「あ、繋がってた。はい?」
「こんな情報、そんなお気軽に話さないで! し、心臓に悪いから!」
「は、はあ。すいません?」
「もっと凄い情報をもってるぜ! っていう顔で喋って! あーびっくりした!」
どうも水霊門の情報は俺の想像以上に有益な情報だったらしい。心臓を押さえて、荒い息を吐いている。これ、土霊門の情報を喋ったらどうなっちゃうんだろう……。
しかし、精霊門の情報はやはり良い情報らしい。アリッサさんが驚くほどに。これは情報料が期待できるんじゃないか? もしかしたら5万どころか10万、20万くらいいっちゃうかも?
うん、さすがにそれはないか。でも、5万ももらえたら土霊の街のホームオブジェクトに手が届く。今からいくらで売れるか楽しみだね。
「い、今ので全部?」
「いえ、まだあります」
「すーはーすーはー……。いいわ、聞かせて」
「何もそこまでせんでも」
「こうでもしないと、平静を保てそうにないの! 良いから聞かせて!」
「えっとですね、水霊門の次に、土霊門も発見したんです」
「……」
「で、中にはノームが居ましてね」
「……」
「採掘で鉄鉱石が大量に穫れるんです」
「……」
「アリッサさん?」
「はっ! 危ない、また冷静さを失う所だったわ」
「大丈夫ですか?」
「な、なんとかね……。それにしても、水霊門に土霊門に、ウンディーネにノームに、魚素材に鉄鉱石に――ああ! 何が何だか!」
やっぱ冷静じゃなかった。
「アリッサさん! ボイチャ切れてますから!」
「――っ! 私としたことが、危なかったわ」
「いえ、もう手遅れな気が」
「えーと、さすがにこれ以上はないわよね? ね?」
まるでない方が良さそうな聞き方だな。でも、まだある。
「そうですね……。ああ、あと幾つか推測も混じりますけど、他の精霊門の場所と開け方ですね」
俺はウンディーネの長から聞いた、曜日と精霊門が対応しているという情報を教える。さらに、第2エリアの謎オブジェクトとそれぞれが対応しているのではないかという推測を語った。
「実際、土霊門は土の日に、ストーンサークルに土結晶を捧げたら出現しましたから。残りは、松明が火霊門。音の鳴る大岩が風霊門ではないかと思うんです」
「な、なるほど。それは確実でしょうね」
「でしょ? でも、風霊門が何の日に対応してるか分からないんですよ。火、水、土はあるじゃないですか」
そうなのだ、そこだけがいくら考えても分からない。俺の推測は月だと思うんだよね。理由はない。ただ残っている月、木、金、日の中だと、月が一番風っぽいかなーと思っただけである。月に叢雲とか言うし。だが、さすがはアリッサさん。俺なんかよりも余程知識が豊富だった。
「そうね……。五行思想に照らし合わせると、風は木に属してたはずよ」
「おお! じゃあ木の日ですね!」
五行思想とはやられたぜ。全く気にしたことなかった。だが、アリッサさんは自分の推測に納得が行っていなかったようだ。
「うーん……」
「あれ? どうしたんです?」
「木は大樹の精霊の降臨日じゃない? そこに被せるかな~と思って」
「ああ、それは確かに」
でも、五行思想じゃないとすると、どうなるんだ? 俺が悩んでいると、アリッサさんが何かを思い出したようだ。
「あ!」
「どうしました?」
「ユート君、この世界の創世神話、覚えてる?」
創世神話というのは、このゲームの世界に伝わるオリジナルの神話のことだ。公式ホームページを見れば普通に掲載されている。
確か月の日に闇神が世界を作り、火の日に戦神が火をもたらし、水の日に海神が水を降らせ、木の日に樹母神が緑を生み、金の日に天神が空気を作り、土の日に地神が大地を創造し、日の日に光神が世界を祝福した。
そんな神話だったはずだ。だが、確かに神話に対応してると考えたら、金の日に風が対応していると考えられる。
「その可能性は高そうですね」
「でしょ?」
つまり一週間後か。それだけ時間があれば風結晶が手に入るかもしれないな。そう結論付けたあと、アリッサさんが何やらブツブツと呟いている。
「どうしても土結晶が欲しいって、そう言う事だったのか……。あいつらもこの予想には行きついてたみたいね。そしてユート君に先を越されたと……。ぷぷ、ざまぁ。幾らでも出すって言ってたのに、直前で値切った罰よ」
「どうかしました?」
「いえ、何でもないわ。こっちの話」
「じゃあ、次に売りたい情報はですね――」
俺はさらに手に入れたばかりのオレアの情報もアリッサさんに売る。ステータスやスキルだけではなく、どういう風に苗木を育てたのかもきっちり報告しておいた。
「これは……テイムを取るファーマーが激増しそうね……」
「そうなんですよ」
そう。考えてみたらオリーブトレントはテイマー用ではなく、ファーマー用のモンスターだよな。育てるのにそもそも育樹が必要だから、普通のテイマーには入手困難だし。それよりも、高レベルのファーマーが、低レベルのテイムスキルを有効利用するためのモンスターに思える。
「素材を生み出す能力も良いわね。しかもレアドロップの樹精の霊木まで……。はぁ、驚きすぎて疲れちゃったわ。情報を聞いただけでこんなに疲れたの、情報屋を始めて以来かも」
「はあ、なんかすいません」
「にゃはは。冗談よ。むしろ情報屋魂に火が付いたわ! それで、あとは何か情報ある? というか、あるでしょ?」
「え? いや、何かあったかな?」




