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113話 グラシャラボラス(仮)


 俺はため池に向かう途中、リッケの家に寄っていた。今はどうしているのか少し気になったのと、そもそも釣り竿を持っていないことに気づいたのだ。


 それに、リッケに聞けばため池で魚が釣れるかどうかも分かる。もし他に村の中で釣りが出来る場所があれば、リッケに聞くこともできそうだしな。


 俺はトントンと扉をノックしてリッケを呼んでみる。


「おーい、リッケいるか~?」

「はーい?」


 よかった、居てくれたらしい。まあ、あれだけ村を騒がして、今日も出かけるなんてことはしないよな。


「あ、兄ちゃん、今日はどうしたんだ?」

「釣り竿が欲しくてな。あと、リッケがどうしてるか少し気になってさ。今日は家にいてくれたな。また家出してないか心配してたんだ」

「もう、その話はいいだろ! 散々絞られたんだからさ~」


 どうやら村の人たちに怒られたらしい。


「爺ちゃんたちはカンカンだし、婆ちゃんたちはネチネチと煩いし! しかも父ちゃんが帰ってきたら、また説教だって言うんだ!」


 父親が怖いのか、顔が真っ青だ。NPCとは思えない反応だな。可哀そうになったので、これ以上は家出の話を引っ張るのは止めることにした。さっさと話題を変えよう。


「あ~、そんな事より、釣り竿ある?」

「うん? 釣り竿? あるよ! ほら、これ」


 リッケが出してくれたのは初心者用釣りセットだった。釣り竿、魚籠、初心者用ルアーのセットである。


 さらに、初心者用ルアーよりも少しだけ食いつきが良いという、初心者用練り餌も売っていた。それも買おうとしたんだが、リッケがそれを止めて何かを差し出してくる。


「あと、これもあげるよ」

「練り餌? しかもこんなにたくさん?」


名称:リッケの練り餌 

レア度:1 品質:★5

効果:川魚の喰いつきを僅かに良くする


 リッケから手渡されたのは、リッケの練り餌×99個だった。どうも初心者用練り餌とたいして変わらないレベルみたいだな。だとしても凄くない? 釣り初心者の俺にとっては非常い有り難いアイテムだ。練り餌代の節約になる。


「こんなにいいのか?」

「うん。おいらたちを助けてくれたお礼!」


 まあ、貰えるなら貰っておこう。いやー、まじで嬉しいんですけど! 早速釣りをしたいぜ!


「なあリッケ、そこのため池で魚が釣れるか?」

「ため池? 大丈夫、釣れるよ。でも、あまり良い魚はいないから、川の方がいいぜ?」


 リッケはそう言うが、今は外に出たくない。それにまだ初心者の俺には、ため池くらいがちょうどいいだろう。


「ありがとう。でも、まずはため池に行ってみるよ」

「頑張ってな~」


 俺はリッケに礼を言って、ため池に向かった。柱を見ると、まだウネウネと変態中だ。釣りをする時間はありそうだな。


「この辺でいいか」


 俺はため池の畔に生えた木を背にして、釣り糸を垂れることにした。うちの子たちは――まあその辺で遊んでるだろう。



 3時間後。


「そろそろ広場に戻るか……」


 ため池ではそこそこ魚が釣れていた。全てがビギニヘラブナだったが。


名称:ビギニヘラブナ

レア度:1 品質:★3

効果:素材・食用可能


 品質はビギニウグイよりも低いものの、試しに乾燥させてみたらビギニウグイと同じ小魚の煮干しに変化した。まあ、使えないことはないだろう。


 俺のレベルでも10匹釣れたので、初心者用の魚であることは確かだと思う。


「――♪」

「おお、助かるサクラ」

「――♪」


 1人だけ木の側に座って釣りを見ていてくれたサクラが、立ち上がろうとした俺に手を貸してくれる。出来た子やで、ホンマに!


 それに比べてちびっ子どもは~。やつらが騒ぐ音で、何度魚が逃げだしたことか。それくらい騒がしかった。


「皆、そろそろ戻るぞー」

「ムムー!」

「キュー!」


 追いかけっこをしていたオルトとリックが戻って来る。


「クックマー……」

「ほら、魚採りはまた今度な」

「クマ……」


 クママは自慢の爪で魚採りを試みていたんだが、結局1匹も捕まえられなかったらしい。まあ、近くでやられると魚が逃げちゃうから、対岸でやってもらってたので詳しく分からないのだが。


 肩を落として戻って来るクママ。うーん、また釣りに連れて行ってやるか。


 俺はクママを慰めつつ、広場に戻る。すると、コクテンたちが黒い柱の偵察からすでに帰って来ていた。


「あ、クママちゃん! 白銀さんも!」


 マルカが目ざとくクママを見つけて声をかけて来た。最早俺がおまけだな。


「黒い柱はどうだったんだ?」

「ヤバかったよ。って言うか、もう黒い柱じゃないけどね」


 マルカが柱に目をやる。俺も一緒に柱を見るが、確かにもう柱じゃないな。改めて見ると、完全に人型だ。


「前まで行って鑑定したら、なんとあれがグラシャラボラスだったよ」

「やっぱりか~」


 と言う事は、もうグラシャラボラス(仮)じゃなくなったわけか。


「よく生きて帰って来たな。それとも死に戻ったのか?」

「ううん。戦闘にならなかったの」


 偵察隊はグラシャラボラスの足元まで行ったのだが、結界の様な物があってグラシャラボラスは身動きが出来ない様になっているらしかった。


「で、結界の前にこんなのがあってさ」


 マルカが動画を見せてくる。それは黒い砂が流れ落ちる砂時計の映像だった。


「グラシャラボラスの結界の前にこれが置いてあったのか?」

「そうなの。多分、これが全部落ちたら、グラシャラボラスが解放されるってことだと思う」


 マルカたちが考察したところ、明日の昼頃には砂が落ちきるのではないかということだった。


「まじか……。誰が戦うんだ? コクテンたちは決定だろ?」

「誰って言うか、全員? グラシャラボラスはレイドボスだったから」


 戦闘状態になる前から、赤いマーカーやHPバーなどが全てハッキリと確認できたらしい。これはレイドボスの特徴である。


「これから皆で作戦会議だって。まずはスケガワさんの守護獣装備をどう配るか話し合って、あとは戦い方なんかを相談しないと」

「そうか、頑張れ」

「何言ってるのよ! 白銀さんも会議に出るの!」

「いや、戦闘の役には立てないし、俺なんか会議に出る資格はないって」


 そう言ってマルカに諦めてもらおうと思ったんだけど……。


「サーバー貢献度1位の人間に資格が無かったら、誰に資格があるのよ!」


 そう言えばそんなランクもあったな! 忘れてた! 仕方ない、非常に面倒だが、顔だけは出しておくか……。


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― 新着の感想 ―
これは繰り返されますが、 自己評価の低さが卑屈過ぎます。 それが、この作品のキモですから、 楽しみたいなら、スルーしましょう。
[一言] 「いや、戦闘の役には立てないし、俺なんか会議に出る資格はないって」 いるいる、こんな人。 そんでもって、マジで嫌い。 補助できる事はするって言ってたくせに 話し合いにも参加しないて意味不…
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