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104話 黒い棘

「さて、まずはリッケたちが隠れてた洞から確認するか」


 入れるかな? 俺は洞の中を調べようと中を覗いてみる。やっぱり暗いな。松明を中に突っ込んで見てみるが、上手く見えない。ただ、入り口の大きさに比べて中は結構広そうだ。大人でも数人は入れる広さがあるだろう。


「やっぱ中に入ってみないとダメか……。ただ、入れるか?」


 洞の入り口は子供がようやく入れるくらいの広さしかない。頭から入ろうとしてみたが、どうしても肩が引っかかるな。今度は両手から突っ込んで見ると、何とか中に入ることが出来た。


「ふぅ。大きい種族のプレイヤーじゃ絶対入れないだろ。ハーフリングで良かった」


 松明で照らしながら洞の中を調べてみる。ただ、これと言って不審な物は見つけられない。さすがにリッケたちが何も気づけなかったし、何もないかね?


 足元、壁面と順に触ってみながら異常が無いかを調べていくが、単なる木の壁があるだけだ。だが、ふと天井を見上げてみると、何やら黒い物が目に入った。


「あれは……なんだ? 棘? 角?」


 それは全身黒塗りの、包丁くらいの大きさの棘であった。この色では闇に同化してしまい、灯りが無ければ気づかないだろう。そんな太い棘のような物が洞の内側、つまり神聖樹の幹に突き刺さっていた。


「この色と言い、絶対に怪しいよな」


 松明を近づけて観察してみると、その棘からは黒い靄が立ち昇っているのが分かる。ガーディアン・ベアや黒ラビットなど、狂暴化したモンスターたちと同じだ。


 鑑定してみるが、不明としか表示されない。それが余計に不安を駆り立てる。


「触っても平気かな……」


 でも、どう考えてもこの棘のせいで神聖樹が弱体化してるよな。


「よし、抜いてみよう」


 俺は棘に手をかけて、力を込めてみた。だが、ビクともしない。何度か試してみたんだが、動く気配が無かった。


「腕力が足りないのか? それともイベント的に抜くことが出来ないのか……?」


 他の人にも試してもらうか。俺はモンス達とマルカたちに声をかけた。そして、集まって来た皆に棘の事を教える。やはり、マルカたちもこれが怪しいと感じたらしい。


「この中で入れそうなのは……。私だけ?」

「そうだな」

「白銀さんの腕力はいくつ?」

「4だ」

「え? 14?」

「4だ!」

「ええ? 冗談?」

「本当だ!」

「そ、そっかー。まあ、ステ振りしてないんじゃ、仕方ないよね?」

「慰めなくていいぞ。自分でも貧弱だって分かってるからな」


 腕力が上がりづらい職業と種族だし、ボーナスポイントをステータスに振ってないし、仕方ないじゃないか。


「なら、私が試してみるわ」

「ちなみに、マルカの腕力は?」

「15よ」


 魔術師のマルカでさえ、そんなに高いのか。まあ、レベルが30近いらしいし、すでに2次職だからな。それくらいは行くよな? 俺だってレベルが上がればきっとそれくらい行くに違いない。多分……。


「じゃあ行くわよ。よいしょ――!」


 マルカが棘を掴んで、思い切り引っ張った。歯を食いしばっていて、全力だと分かる。


「おお? ちょっと動いたんじゃないか?」

「え? ほんと? ならもっと頑張る!」


 やはり腕力の値が関係しているみたいだ。


「頑張れ! ほらクママも応援してやれ!」

「クマ! クッママクッママ!」

「ムームームムー!」

「キュッキュー!」

「――!」


 うちの子たちが、マルカの背後で声援を送り始めた。それを見たマルカの顔に、満面の笑みが浮かぶ。


「きゃー! これで元気100倍よ! とりゃぁぁぁー! ふぬぬー! どりゃー!」


 顔を真っ赤にして棘を引っ張り続けるマルカ。時には上下にグリグリと動かし、時には壁に足をかけて力をかける。


 そうやって奮闘を続けたんだが――。


「やっぱダメー!」


 マルカが棘を抜くことはできなかった。


「マルカでもダメか。あと抜けそうなのはクママか? いや、でも届かないよな」


 クママは道中でレベルアップしたので、現在は基礎Lv13、腕力は防具ボーナスの+3を合わせて、ちょうど20となっている。もっと低い位置に棘があれば任せたんだけどな。


「クマッ!」


 だが、クママは任せろと言わんばかりに、ドンと自分の胸を叩いて俺にアピールしてくる。


「クママ、届かないだろ?」

「クックマ!」

「抱っこしろってことか? まあいいけど」


 俺は両手を差し出してくるクママの脇の下に手を入れて抱き上げると、そのまま棘の前に運んでやった。


「ほら、これでいいか?」

「クマ!」


 クママが両手で棘を掴んだことを確認して、俺は手を離す。案の定、棘にぶら下がったままダラーンとしてしまうクママ。何か、ヌイグルミが吊るされてるみたいで、可愛さよりも不気味さの方が先に来るな。


「きゃー! カワイイ!」


 マルカは鼻血でも出しそうな勢いで喜んでいるが。


「クーマー!」


 クママが腕の力でグッと体を持ち上げ、天井に足を着くような形になった。そのまま、天井を支点に力を籠める。凄い体勢だな。


 だが、クママが力を込める度に、少しずつ棘が抜けて行く。そして、10回目のクママのかけ声が聞こえた直後、スポンという音とともに棘が抜け、その勢いでクママがドシンと地面に落下してきた。


「クママ……」

「だ、大丈夫か?」

「クマ」

「おお、抜けたな。偉いぞクママ」

「クマ!」


 俺はクママの差し出した棘を受け取りつつ、その頭を撫でてやる。


「さて……やっぱ鑑定は効かないか」


 入り口につっかえながらもなんとか外に出て、花畑を調べているマルカの仲間たちに棘を見せようとしたんだが……。


「な、なあ、白銀さん。それ変じゃないか?」

「え?」

「黒い煙が出てるし!」


 言われて棘に目を向けたら、確かに棘を包む黒い靄がモコモコと勢いを増していた。


「うわっ!」


 慌てて手を離す。だが、地面に落ちても棘からの黒い靄の噴出は止まらない。むしろ激しさを増している様子だった。


「うわっ! 何あれ!」


 俺の後に洞から出て来たマルカも驚いているが、俺たちに答えようもない。


 そのまま見守っていると、次第に靄が凝り固まっていく。そして、急速にまとまりを持ち始めた靄が一気に何かの姿を形作った。これってもしかして、不味い事態なんじゃないか?


 数秒後、棘があった場所には、全身真っ黒な人型の何かが立っていた。


「人間どもよ、よくも我らの邪魔をしてくれたな!」

「えーと、どちら様?」

「我は大悪魔グラシャラボラス様に仕える使徒! 邪魔をした貴様らは、グラシャラボラス様への贄としてくれる!」

 

 ああ、やっぱりボス戦だった! 勘弁してくれよ!



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