後編第14章 「オーデコロンは硝煙の香り~射撃訓練幕間」
「お疲れ様です、生駒英里奈少佐!吹田千里准佐!御協力頂きまして、誠に感謝致しますよ!」
護身用の補助兵装として運用出来るように、フルメタルジャケット弾入りの弾倉を自動拳銃に取り付ける私達のもとに、上牧みなせ曹長が屈託のない笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
私達が使い終えた練習用弾倉を、回収しに来たのだろうね。
「あっ…あの、上牧みなせ曹長…どのような具合なのでしょうか…その、私達の成績は…?」
安全装置のセットされた自動拳銃を遊撃服の内ポケットに仕舞いながら、英里奈ちゃんが不安そうに問い掛ける。
まるで、入試の合格発表で自分の受験番号を探す受験生か、健康診断の数値を気にする中年サラリーマンみたいな表情だよ、英里奈ちゃん。
「それにつきましては、北加賀屋住江一曹が大型モニターに判定を表示しますので、そちらで御確認をお願い致します。あくまで私見ですが、御3方共に甲乙付け難い、それは見事な腕前と感服致しましたよ。」
屈託のない笑顔でダブルカラムマガジンを受け取る上牧みなせ曹長を見る限り、満更悪い結果でもなかったみたいだね。
「ねっ?上牧曹長だってこう言っているんだから、気楽に見に行こうよ、英里奈ちゃん!あれ?マリナちゃんは?」
浮かない顔をする英里奈ちゃんを窘めた私は、2つ左のレーンにマリナちゃんがいない事に気付き、思わず素っ頓狂な声を上げてしまったんだ。
「ああ…和歌浦マリナ少佐でしたら、あちらでございます、吹田千里准佐。」
苦笑を浮かべる上牧みなせ曹長が指し示す方向に目線をやると、そこではマリナちゃんが民間人の子達に取り囲まれて、質問攻めに遭っていたの。
「和歌浦マリナ少佐は輸入ビールがお好きとお伺いしましたが、お気に入りの国はどこですか?」
「そうだね…家では大体、ドイツビールを飲んでいるよ。」
マリナちゃんから直接答えを聞けた黒髪ポニテの少女は、満足そうな笑顔を浮かべている。
「大浜少女歌劇団の白鷺ヒナノちゃんをお姫様抱っこで救助されたそうですけど、抱き抱えた時の感触ってどんな感じ?」
黒髪ポニテ少女の友達と思われる、茶髪の眼鏡っ子は、随分と際どい質問で切り込んできた。
「あの時は、『早く安全な所にお連れしなければ…』という考えで一杯だったから、やましい思考は浮かばなかったね。ただ、私の両腕に抱かれたヒナノ嬢は、柔らかくて華奢で、『南近畿芸能界の至宝』と謳われるのも頷ける風格の持ち主だったよ。」
なかなかに無難な回答だよ、マリナちゃん。
何しろ、話題の相手が大浜少女歌劇団の娘役トップスターだもん。
答え方を誤って、そいつがネットやSNSに流出でもした日には、きっとスキャンダルで大炎上だよ。
「いいなあ~、私も和歌浦マリナ少佐に抱っこされたいよ~!」
まるで一昔前のアイドル歌手か、昔の学園漫画に出てくるクラスのマドンナみたいな人気だね。
オマケに、随分と突っ込んだ質問も来ているし。
これが毎回あるなんて、精神的に相当疲れるだろうね…
「みんな!私達3人の射撃演習の結果が出たみたいだよ。どうだい!ここは一つ、私と一緒に見てくれないかな?」
このままでは埒があかないと業を煮やしたのか、やんわりと取り巻きの子達を誘導し始めたよ、マリナちゃんったら。
「はい!喜んで御供します、和歌浦の君!」
「和歌浦少佐と御一緒ならば、どこまでも!」
こうして素直に従うあたり、民間人の子達も捨てた物じゃないね。
まあ、今日みたいに人類防衛機構の地域交流祭へと遊びに来る程なんだから、それなりの分別はあるんだろうけど。
「絶対、マリ様がトップに決まってるんだから!」
もっとも、中にはこういう子もいるけどね。
とりあえず、君は一度冷静になって、自分の狂信的な言動を省みた方がいいよ。




