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第十九話 それなら問題ないですね

 結局、その日は眠れなかった。

 ベッドに横たわったまま、軽く眠気を感じ始めた時に、起床設定時間が来てしまったのだ。

「せめて、子どもたちに気づかれないようにしないとな……」

 顔でも洗おうか、と、廊下に出たところで、

「あっ、おはようございます、一輝さん」

 後ろから声をかけられた。

 可愛らしい声……、艦橋魔女のまとめ役、紗代の声だった。

 一輝は、一瞬、振り返るのを躊躇する。昨日のルーフィナとの会話を思い出したためだ。

 少女たちの秘密、ナノマシンによって、成長を止められてしまっているということ。

 幸い期間は限定されているらしいが、それでも十年間、彼女たちはあのままの姿でいなければならないのだという。二十歳を過ぎるまで、彼女たちはずっと子どもの体のままなのだ。

 どんな顔をして、向き合えばいいのか、わからなかった。

 迷いは一瞬。挨拶をされた以上、いつまでも振り返らないのは不自然だ。

 一輝はなんとか表情を取りつくろって、紗代の方に視線を向け、ようとして……、別の意味で固まった。

 やや内股気味に床を踏みしめる軍用ブーツ。それは、まぁいい。別におかしいことはない。

 朝っぱらから生真面目にブーツを履いているのは、いかにも、委員長気質の彼女らしいと言えるだろう。

 それはいいのだが、マズいのはその上だった。

 ブーツの上に覗く幼い膝小僧、その上に続く細く華奢な太もも、その半ばほどにひらひらとスカート状の布が揺れていた。

 水色の薄い布を透かして、彼女の太ももの上半分、さらに幼いショーツが見えていた。ショーツのゴムで微かにへこんだ肌、そのすぐ上のすべすべのお腹の真ん中には、ちょっこり覗く可愛らしいおへそが覗いていた。さらに、そこから、ほとんど膨らみの見られない胸元に向けてV字にフリルが付けられており、幼い少女の肢体を彩っていた。

 それは、ベビードールと呼ばれる寝間着……、というか下着だった。しかも、どちらかというとセクシーで色っぽいデザインの下着だ。

 きっちりとした軍用ブーツと、ベビードールという取り合わせのギャップに、さすがの一輝も、軽く頭がくらっとする。

「あー、とりあえず、おはよう、紗代」

「はい、おはようございます、一輝さん。どうかしましたか?」

 笑顔で首を傾げる紗代に、一輝は小さくため息を吐いた。

「なんというか……、この前も思ったことだけど、君の寝間着というか、私服のセレクトは……ちょっとキワドイんじゃないかな」

「え? そうですか?」

 紗代はスカートの裾をちょこん、と持ち上げてから、

「……可愛いと思うのですけど」

 小悪魔めいた仕草で首をかしげ、上目づかいに見つめてくる。

「……可愛く、ないですか?」

 襟元から、綺麗に浮いた形の良い鎖骨が見えて、背筋に嫌な汗が流れた。

「可愛いとか、可愛くないとか、そういう問題じゃないんだ。例え可愛かったとしても、だね……、えーっと……」

 まるで、娘に道徳指導をする父親のような気分だった。

 口うるさく言って、彼女の自由を縛るのは本意ではない。だが、言うべきことは言っておかなければ、彼女のためにならない。

 どんな言葉を投げかけたものか、と頭を悩ませた後、一輝は、

「ともかく、そう言う格好を男の前でしたらダメだよ」

 無難な言葉で、お茶を濁そうとする。が、

「男……ということは一輝さんの前でも、ということですか?」

 まったくもって納得していない様子の紗代を見て、曖昧な言葉では説得できないと悟る。

「あー、いいかい? 紗代、そう言う格好は、好きな人の前でするものなんだ」

 いささか、お説教臭くなることも承知で、一輝は続ける。

「オシャレとかも、一番根っこの部分では、好きな人に見せるためにするものなんだ。そういう、好きな人の前でする格好を、見せられたら誤解するやつもいるかもしれないだろう? だから」

「それなら、問題ないですね」

 ごくあっさりとした口調で、紗代は言った。

「……うん?」

 あまりにもあっさり言われてしまったので、一瞬、何を言われたのかわからずに、一輝は固まる。

「ここにいる男性は一輝さん一人ですから」

 ――なるほど。まぁ、確かに、俺が気をつければ問題ないことではあるしな。

 それに、女の子にとってオシャレは大事なのだろう。

 紗代たちの境遇を考えると、服装のことにまで制限を課そうとは思えない。

「わかった。けど、この船の外では気をつけるんだよ」

「はい、大丈夫です」

 言って、紗代は笑顔でうなずいた。

「あー、お取り込み中のところ申し訳ないのでありょうすが……」

 背後から声がかけられた。

 振り返ると、あきれ顔のルーフィナがこちらを見上げていた。

 昨日とは違う、艶やかな朱色の浴衣を見につけた彼女は、音もなく一輝に近づくと、鈴を転がすような口調で言った。

「一華から、連絡が入っているでありょうす」

「姉さんから? こんな時間に?」

「いかにも。なんと、第七艦隊に待望の出撃命令でありょうす」

「出撃命令?」

 その響きから、一輝の脳裏に警告音が鳴り響く。

「相手は、小規模な宇宙海賊かなにかですか?」

「いや、なんでも、幽霊船の調査とか聞きんしたが……。なかなかに面白そうな話ではありょうせんか?」


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