第110話 水中散歩
とても不思議な光景だった。周りは薄暗いが俺達の傍だけ明るく、その見えている範囲だけでもゆったりとした水の動きが見えた。本当に水の中を俺達は歩いているらしい。ただ息は出来るが会話が出来ないみたいで口を開くと海水が口の中に入ってきてしょっぱい。この魔法は鼻から息を集めて吸っているらしく、口には対応していないのでこういう状態になるみたいだ。
進行方向などは指を指せばわかるし、それぞれ肩を叩いたりしてそれを教えているので今のところ何とかなっている。…が、細かいことが伝えられないのが中々困って、健太がふらふらとどっか行きそうになるので今は健太の手を引っ張っている。何が悲しくて男と手を繋いで歩かないといけないんだか…とため息が出る。
先頭を歩いているのはリノでその後ろにファーナさんミネ、そして最後尾が俺と健太だ。前と後ろ一応両方警戒をしている。ボスを見つけたら少しだけ様子を見た後『フライト』で海上へ逃げる予定になっている。その後戦闘方法を話し合い再びボス戦へと向かうことを事前に決めていた。
だが、すでに10分ほど歩いているが魔物は1匹たりとも見かけず、俺達はひたすら歩いて進み続ける。
さらに10分ほど歩いたあたりでミネがリノの腕を引っ張って移動を止めた。間にいたファーナさんももちろん気がついて足を止める。そしてミネは俺達のほうを向きまず俺と健太、その後ファーナさんとリノそして自分に魔法をかけた。どうやら魔法のかけなおしをしてくれたようだ。いきなり水中で通常状態に戻されたら慌てちゃうからな。思ったよりもミネはその辺わかっていたらしい。というか腐っても魔法をメインにしているだけあるってことだ。
そんな俺の考えていたことが顔にでも出てたのかミネがこっち向いて軽く睨んできた。ミネ、用もないのに余所見をしたら遺憾と思うんだよね…だから俺は前を見ろと前方を指差す。もう一度だけミネが俺を睨んだ後大人しく前を向くとさっきまで歩いていたリノの足が止まっていた。よく見ると武器を構えている。
それに気がついた俺は健太にもリノを見るように指を刺した後繋いでいた手を離し、武器をしっかりと持ち直す。
そしてリノが見ている先を俺も、健太ももちろんファーナさんやミネもじっと見つめていた。すると前方からゆらりと何か動くものがこちらに向かってくるのがわかる。少しだけ水の動きに変化があり、何か水中と違う色が見えた。水中に入ってから初めて遭遇する魔物だ。
それはどんどん近づいてきて段々と姿が見えてきた。姿がはっきりと捉えられたころには俺達は逃げることすら忘れていた。相手の大きさに驚きじっとそれをただ眺めていた。大きな口が開き水流がその中へと動く。
つまり大きな魔物は俺達を丸ごと飲み込んでしまったのだ。




