24.指揮官と指揮官
最終回が近くなってきたので、人気投票やることにしました!
人気が上位のキャラはSSなんかを書こうと思っています!
詳細は活動報告にて記載していますので、よければ見てやってください!
投票サイト↓
http://tagvote.grinspace.jp/Cb01_Vote?Key=cbb04cbf234d4d20b13c9fd453552c49
「……とまぁ、そんな感じだ」
一通り話し終えたところで、アルトリウスは凝り固まった身体をほぐすように大きく伸びをする。久しぶりに誰かとたくさん話せて満足しているアルトリウスとは対照的に、俺は動揺を隠せずにいた。
フェルの過去にそんなことあったなんて、全然知らなかった。いや、知ろうともしなかったんだな、俺は。あいつは生まれつき楽しいことが大好きな奴だと勝手に決めつけてしまっていた……だけど、そんなことなかったんだ。
「なんだよ、そんな神妙な顔しちまって」
「……ちょっと自己嫌悪に陥っただけだよ」
からかうような口調で話しかけてくるアルトリウスに、俺は苦虫を噛み潰したような顔を向ける。
「ははーん……フェルのことをただの能天気な奴だと思ってたら、実際は違ってショックを受けてんのか。そんでもって、何にも考えずに今までフェルと付き合っていたことを後悔していたってところか」
「……うるせぇ」
ニヤニヤ顔がまじで癇に障る。その上、言っていることは的を射ているから余計に腹立つわ、この勇者。
「大体、なんでお前はマーリンのジジイと戦ったんだよ?話し合えばそれで終いじゃねぇか」
「なんで?」
自分の愚かさをごまかすように、若干八つ当たりに似た口調で言うと、アルトリウスは不思議そうな顔で俺を見た。
「その理由は一番お前がよくわかっているんじゃねーのか?はるばるやって来た親友と命をかけて戦ったお前が」
……ぐうの音も出ないっていうのはこういうことだな。俺自身がこいつと同じようなことをしてちゃ世話ねぇよ。
「まぁでも、フェルに関しては気にすることもねぇだろ。あいつはそういう楽しくない話は好きじゃないだろうしな。お前が聞こうとしてもはぐらかされて終わるだけだろ」
「……確かに。あいつは自分の過去は話したがらなかったな」
アロンダイトに関してもそうだ。大切な者の形見ってのはセリスから聞いたんだからな。その後あいつに聞いても詳しい話は何もしてくれなかったし。
「今はフェルの事はいいんだよ。それより大事なことがある。あいつには後で直接話を聞けばいいだろ」
「直接ってお前……俺は」
死んでんだから無理だろ、そう言おうと思ったらアルトリウスに手で制される。
「俺がお前にこんな長話をしたのはほかでもない……つっても大部分はいらない話だったんだけどな。重要なのは、セシリアが俺の子供を身ごもっていたってところだ」
「そういやそんな事言ってたな。それが重要なのか?」
「あぁ。俺に子供がいたってことだ」
子供……こんな奴でも子供がいるのか。こいつが父親している所とか全然想像できん。
「あっ、ちなみにレックスだっけか?あいつは俺の血をしっかり引いてる。お前も微妙に」
「はぁ!?」
俺がこいつの血を引いてる!?冗談でも言っていいことと悪いことがあんだろ!!今のは聞いたら死を免れない呪いの言葉の類だ!!つーか微妙にってなんだよ!!なんか腹立つわ!!
「あの勇者君はルックス的にも才能的にも文句はねぇんだけど、なんでお前なんかが俺の血を引いているのか甚だ不本意でならん」
「不本意なのは俺の方だっつーの!つーか、俺達は魔族の血も引いてるってことか!?」
「ん?あぁ、それはない。お前らは俺が故郷に残してきたレディ達の子孫だから純然たる人間だよ」
「え……ってことはつまり……」
「俺みたいな優秀な遺伝子は数多く残しておかないと罰が当たるだろ?」
アルトリウスが俺にウインクをしてくる。最低だ、こいつ。勇者らしくしっかりとハーレム築いていやがった。
「そんなに嫌そうな顔すんなって。俺だって気に入らないことがあんだよ」
「……なんだよ、気に入らないことって?」
俺が非難めいた視線で見ていると、アルトリウスは盛大にため息を吐く。
「俺より遥かに卓越した魔法陣の腕を持つ男に、俺よりも巧みに聖属性魔法を扱う男。オリジナルである俺をお前ら二人は超えちまったんだよ。腹も立つだろうが」
アルトリウスがムスッとした表情で答えた。俺がこいつを超えた?……なんだろう、ものすごく気分がいい。
「たくっ……お前は本当にわかりやすいな」
「いやいや、申し訳なく思ってるだけだよ。ナルシスト勇者であるご先祖様の力を軽々飛び越して悪かったな」
「うるせぇ」
俺がニヤニヤ笑いながら言うと、アルトリウスは不機嫌そうに顔を顰める。
「……だが、人間であるお前達は別にいい。問題は魔族の方だ」
「魔族?」
首を傾げる俺を見ながらアルトリウスが真面目な顔で頷いた。
「俺が特殊なのか、人間と魔族が子供を作るのが原因なのかわからねぇけど、俺の血を色濃く遺伝した魔族は異常な力を手に入れるんだ」
「異常な力……」
「そうだ。そして、俺の血を色濃く遺伝したかどうかは見た目ですぐにわかるんだよ。そいつらはな……」
アルトリウスは一つ息を挟むと、俺の目をまっすぐに見据える。
「金色の髪をしている」
「…………えっ?」
金色の髪?ちょっと待て、それって……。
「フェルの奴は人間と戦うことをやめたけど、魔族が全員あいつみたいに考えるわけがねぇ。今の冷戦状態になるまでに色々と人間達にちょっかいかけてた魔族だっているんだよ……金色の髪をした俺の子孫が中心になってな」
……王様が言ってた『金色の悪魔が人間に災いをもたらす』ってそういう事かよ。
「なぜかは知らないが、純粋な魔族は金髪にならないみたいでさ。だからこそすぐにわかる。その金色にくすみがなければないほど、俺の血を多く受け継いでいるってことらしい。……俺がアロンダイトの中に入ってから、あれほど奇麗な金髪は見たことがねぇ」
誰が、とは言っていない。だが、誰のことを指しているのかは明白だった。
「セリス以外に金色の髪をした魔族を見たことがあるか?」
「……ねぇな」
「そうだろ?」
俺が知っている中ではセリスだけだ。こいつの話を聞くまで全然気にしたことはなかったが。
「お前の女の力は正直常軌を逸している。フェルも言ってただろ?あの女を相手に死にかけたって。あれは誇張でもなんでもなく事実だ。俺も一緒になって子供のセリスを止めたから知っている」
アルトリウスの顔にからかいの色は一切ない。フェルとこいつ……化け物じみた力を持つ二人が声をそろえて尋常ではないというセリスの力。
「あいつは……どんな力を持っているんだ?」
「“失楽園”」
俺の質問にアルトリウスが硬い声で答える。“失楽園”……聞いたことのない魔法だ。
「前に悪魔族の男が使った"私はあなたであなたは私"っていう幻惑魔法を覚えているか?」
「あぁ」
確か精神と身体を分離し、幻惑魔法により身体を騙して精神だけを入れ替えるってやつだろ?中々に強烈な魔法だったから忘れたくても忘れられねぇやつだ。
「あれと似た魔法だが、彼女のは規模も破壊力もまるで違う。この魔法でセリスが惑わすのは世界だ」
「……世界を惑わせる?」
スケールがでかすぎていまいちピンとこない。世界を惑わせることによって何ができるっていうんだ?
「簡単に言っちまうとな、セリスが強く念じたことはそのまま世界の常識になっちまうんだ」
「なっ……!?」
俺は驚きのあまり口をあんぐりと開けた。言った事が世界の常識になる?なんだよそれ?それじゃまるで……。
「人間様が都合のいい時だけ頼る神の御業とそう大差ねぇってことだな。彼女が雨よ降れと願えば空が泣き始めるし、夜になれと願えば今まで燦々と大地を照らしてた太陽は姿を消し、月が夜空を舞う。そして、こんな世界消えちまえって願えば……どうなるかわかるよな?」
俺は思わず身震いをする。セリスの持つ恐ろしいほどに圧倒的な力。それは人間や魔族が対抗するにはあまりにも巨大な力だ。自然災害なんて目じゃない。だってあいつはそれすらも口先一つで引き起こせるんだから。
「そんなやばい魔法を、お前の死をきっかけにセリスは発動してしまった」
「何っ!?」
俺は反射的にアルトリウスの襟首をつかんだ。
「それってまじでやばいんじゃねぇのか!?」
「そうだよ。今すぐにこの世界が崩壊してもおかしくない」
詰め寄る俺にアルトリウスが淡々とした口調で告げる。
世界が崩壊?俺の嫁が?ふざけんな。あいつはそんな事をしたいって思う女じゃねぇ。きつい言い方をすることもあるけど、根は誰よりも優しく、どんな相手も包み込むような温かさを持った最高の女だ。
今はただ、俺がいなくなって感情の制御がきかないだけなんだよ。だから、俺があいつのもとに駆け付ければ、そんなわけのわかんねぇ魔法なんてすぐに止めるはず。いや、俺がどんな手を使ってでも止めてやる。
だが、どうすればいい?俺は死んじまってるんだ。あいつの側にいてやれない。こんな大事な時にあいつの近くにいないなんて、俺は何をしてるっていうんだよ……!?フェルに言われただろうが!!あいつのことを守ってやってくれって!!それなのに俺はあいつのために何もしてやれないって言うのかよっ!!
「……やっと、俺がお前の前に姿を現した理由を話せるな」
「あぁ!?」
自分自身に激しい怒りを感じていた俺が荒い口調でアルトリウスに顔を向ける。アルトリウスはどこか達観した顔で肩を竦めた。
「俺の命をお前に与える」
「は……?」
今、こいつなんて言った?
奴の言葉を理解できないまま茫然としている俺を見て、アルトリウスは僅かに口角を上げた。
「本当は愛するセシリアに使いたかった魔法なんだけどな。あいつは死んだ時、俺に会いに来てはくれなかったんだよ。……まぁ、普通の奴は俺に会いに来ることなんかできないんだろうけどな。お前はアロンダイトを握りながら死んだから、ここに来ることができたんだろ」
そう言いながらアルトリウスは俺の胸に手を置く。
「初めて使う魔法だ。上手くいくかわからねぇけど、俺は天才だから心配すんな」
「ちょ、ちょっと待てっ!!そしたらお前は……!!」
「いいんだよ」
強い語調でアルトリウスは顔を俯けながら俺の言葉を遮った。奴は静かに息を吐き出すと、顔を上げ、優し気な笑みを浮かべる。
「俺がアロンダイトの中で生き延びたのは人間と魔族の行く末を見守れっていう神の思召しだったと思うんだ。……でも、もうそれも終わり。少し頼りないが、未来を託せる後輩がこうやって現れてくれたんだからな。それに……」
アルトリウスの笑顔がどこか懐かしむようなものに変わった。
「―――そろそろ俺はセシリアに会いたいんだ」
溢れんばかりの愛情がのった言葉。未練など一切ない表情。
「アルトリウス……」
アロンダイトの中に入って二百年……こいつはずっと一人だったのか。気ごころ知れた仲間や愛する女が死んでも指を咥えて見ていることしかできず、ずっと。
「“俺の全てをお前に託す”」
静かな声で魔法を詠唱するとアルトリウスの手が触れている俺の胸に温かな力が注がれていく。それは瞬く間に全身に駆け巡り、俺の身体に充満していった。何も言うことができない俺に、アルトリウスは最高の笑顔を向けてくる。
「さっさと目を覚まして大事な女を救ってこい。相棒」
その言葉を最後に俺の視界は暗転した。
*
何かが頬に当たり、俺はゆっくりと目を開ける。最初に飛び込んできたのは降り止まない雨。身も凍るような冷たい雨が俺の身体を容赦なく打ち付けていた。
俺は軋む身体を無理やり起こし、その場で立ち上がる。ふと気づいて右手に目を向けると、そこにはアロンダイトが握られていた。そいつから今まで感じていた不思議な感覚はもうない。
「……ありがとな」
俺の口から感謝の言葉が零れる。もうこの中には誰もいないとわかっていても言わずにはいられなかった。
俺は目を瞑り、大きく深呼吸をしてから静かに佇む城の方へと目を向ける。
「最後まで付き合ってもらうぜ、相棒」
小さな声でそう呟き、アロンダイトを力強く握りしめると、俺は城に向かって走り出した。





