19.こんな終盤で回想編に入るとか誰が予想しただろうか
やばい。ワケが分からんくなってきた。目の前にいる男はアロンダイトの中にいて、アロンダイトの中にいたのは反逆の騎士で、反逆の騎士は伝説の勇者で…………つまり、どういうこと?
俺が必死に頭を働かせている間にも、男はベラベラとしゃべり続けている。「俺はカッコいいから」とか「モテる男は辛い」とか言ってんだけど、とりあえず魔法をぶちかまして黙らせればいいのか?
「……要するにあれか?お前は勇者アルトリウスってことか?」
「おう。アルって呼んでくれよ」
呼ばねぇよ。何だよこいつ。
頭を掻きむしりながらため息を吐く。多分悩んだところで損する類の奴だ。伝説の勇者は反逆の騎士になった、それが事実なんだろう。理由は深く考えない。
俺は自分を落ち着かせるように一度深呼吸をすると、アルトリウスに向き直った。
「……あれこれ考えるのは止めだ。で?その伝説の勇者様がなんで俺の前に現れたんだ?」
「あー……その事を説明するには少し長い話になるが、いいか?」
微妙な表情を浮かべながらアルトリウスが聞いてくる。長い話……正直聞くのは面倒くさい気がしなくもないが、別にやることもねぇしいっか。俺がこくりと頷くと、アルトリウスはとある勇者の物語を静かに語り始めた。
*
昔々あるところに、とてもハンサムな男がいました。顔がいいだけではなく、性格も最高、何をやらしても完ぺきにこなしてしまうその男はまさに天才の中の天才でした。そんな男に夢中になる女は星の数ほど存在し、毎晩違う女がその男のハートを射止めるためにアピールをして―――。
「あ、ごめん。ちょっといいか?」
「あ?なんだよ?」
話の腰を折られ、少しだけ不機嫌そうな顔で俺をみてくる。いや、黙って話を聞くつもりだったんだけど、どうしても我慢できなくてさ。
「その男って、もしかしなくてもお前の事だよな?」
「そうに決まってんだろ。俺以外にそんな完璧超人いるわけねぇ」
やっぱりそうか。うん。
「一つだけ頼みがある」
「頼み?」
「余計な話はすんな。要点だけ簡潔にわかりやすくまとめろ。あと、昔話調で話すの止めろ」
「はぁ!?なんでだよ!」
「止めろ」
ドスの利いた声で言うと、僅かにたじろいだアルトリウスが渋々といった感じで頷いた。殺意が湧くレベルでイラっとしたわ。何が悲しくてイケメンの自慢話を聞かなきゃいけねぇんだよ。イケメンは死ね。
*
俺が魔王を倒す旅に出たのは20を超えた頃だった。あの時代は今と違って魔族と人間の小競り合いが頻繁にあってな。疲弊しきった人間側は、なんとか魔族との戦いを終わらせるために、その親玉である魔王を倒すことに全力を注いでいたんだ。
そんな中、白羽の矢が立ったのが、何をやらせても超一流でみんなから勇者って呼ばれていた俺と、隔絶した魔法陣の腕を持つ俺の親友、マーリン・アンブローズだった。王からの勅命を受けた俺とマーリンは他の部隊を囮にして単独で動き、なんとか魔王城の近くまでたどり着くことができたんだ。
「ついにここまで来たな」
俺は目の前に悠然と佇む禍々しい城を見上げながら、隣にいる親友に話しかけた。
「…………気が進まないな」
「なんだ?びびったのか?」
俺がからかうように言うと、マーリンは僅かに顔を顰める。
「お前も見てきただろう?魔族が住む街を。その様子は私達人間と何一つ変わりなかった」
「あー……そうだったな」
「魔族と人間に差などないことをこの目で見た。文明レベルもほぼ同じ。私達が相手をしているのは目があえば襲ってくるような野蛮人ではない。かような文明を築く魔族とならば争いではなく、対話によって和解することができるんじゃないか?」
「なるほどな」
マーリンの言っていることは理解できる。俺達が身を隠しながらこっそり観察した魔族は聞いてた話と大分違ったからな。人間と同じ、いやそれ以上に魔族同士の繋がりは温かかった。
「でも、それは無理な話だ」
「なぜだ?」
マーリンが鋭い視線を向けてくる。
「お互い、相手を傷つけすぎたからだ」
「…………」
俺の指摘した事実にマーリンが閉口した。対話が有効な時間はとっくのとうに過ぎちまった。今、それをしたとして、万が一それが上手くいったとしても、心に残された禍根がその平和を許さない。
「…………争わずにはいられないという事か」
「そうなるだろうな」
「アル……お前はなんでこの作戦に参加したんだ?」
マーリンが探るような目で俺を見てきた。少しだけ悩んだ俺は軽く息を吐きながら肩を竦める。
「戦いが続くと、涙を流す女が多いんだ。俺は可愛い子ちゃんの味方だからな」
「……真面目に聞いた私が馬鹿だった」
これ見よがしにため息を吐くと、マーリンは転移魔法を組成した。
「とにかく、目的は達した。戻るぞ」
「ん?あぁ、俺は歩いて帰るからお前は一人で帰っていいよ」
「はぁ!?何考えているんだ、お前は!!ここは魔族領なんだぞ!?」
「だからこそだよ。来る途中に立ち寄った街に魔族の美人さんがいたんだ。これで声をかけなかったら俺の名が廃るぜ」
「お前という奴は……!!」
怒りのあまり言葉が出てこないマーリン。そんな親友の気持ちを静めるように、俺はその肩をポンポンと叩いた。
「今回の目的は魔王城への直通ルートを確保することだ。そのためにお前が来たんだろ?これで人間の軍がお前の転移魔法でいつでもここに来ることができる。俺はお役御免ってわけだ」
「ぐっ……だが……!!」
わりかし筋の通った俺の言い訳にマーリンは反論することができない。
「……大丈夫だって。お前が言ってた事が気になるから、少し他の街も見てみたいだけだ」
「アル……」
「仮にやばい状況になっても俺には夜のベッドで編み出した性属性魔法があるから問題ねぇよ」
「……随分と不埒な魔法陣を身に付けたものだ」
呆れたように笑うと、マーリンは転移魔法を発動させる。
「王都で待つ……死ぬなよ?」
「おうよ」
俺の言葉に小さく頷くと、マーリンはこの場からいなくなった。
「やっと行ったか、あの堅物」
真面目過ぎるんだよな。もっと砕けた感じにしないとモテないぞ。
「さて、と……」
お目付役もいなくなったことわけだし、なんかお呼ばれしているみたいだし、ちょっくら魔王見学ツアーにでも行きますか。
首をコキコキ鳴らし、適当にウォーミングアップをしてから俺は魔王城へと侵入する。中に入れば魔族と戦うことになるって覚悟してたんだけど、誰もいねぇな。人払いならぬ魔族払いってか?恐怖の大魔王は余程俺に会いたいらしい。
誰もいない魔王城を誘われるがままに歩いていたら、それっぽい扉を見つけた。何とはなしにその前に立つと、ゆっくりと開いていく。俺はなんの躊躇もなく部屋の中へと入っていった。





