13.激闘
俺の親友は本当に凄いやつだ。たった一度、剣をかちあわせただけでそれがわかった。
自分で言うのもなんだけど、この聖属性と呼ばれる魔法は反則的な力を持っている。初めて実戦で使ったのになんでそんな事がわかるのかって?それを俺に聞かれても困る。でも、そういう風に感じるんだから仕方がない。
そんな聖属性魔法で強化した俺の身体能力は、はっきり言って人外だ。俺が苦労して会得した最上級身体強化を鼻で笑っちまうくらいにな。
そんな化け物じみた俺とこいつは鍔迫り合いをしてやがる。全くもって信じられねーよ。勇者の力を持ってしてやっとこいつに拮抗できるのか。
だが、伝説の勇者力を舐めてもらったら困るな。
「うらぁ!!」
「っ!?」
俺は力技でクロムウェルの剣を弾くと、そのまま猛攻を仕掛けた。手加減は一切なし、掛け値無しの全力。その剣筋をクロムウェルは必死に捌いていく。
「剣を使うのが上手くなったんだな!!」
「うるせぇ!こんな付け焼き刃じゃ意味ねぇよ!!」
攻撃の手を緩めることなく話しかけると、クロムウェルは全く余裕がない顔で怒鳴り返してきた。正直、こいつが凄いのは魔法陣であって剣の腕はそこそこだ。それでも今まで負けていたのは身体強化による身体能力の差によるもの。それがなくなった今、剣術に関しては俺に分があるのは間違いない。
「"無重力状態"!!」
剣戟の最中、クロムウェルが魔法を詠唱する。当然、そんな隙を俺が見逃すわけもない。少しだけ地面を踏み込むと、奴の顔面目掛けて最速の突きを放った。
「ちっ!!」
顔をかすめながらそれを寸での所で躱したクロムウェルが俺の前から姿を消す。お得意の転移魔法か。だけどな、今の俺は身体能力だけかじゃなく、索敵能力も上がってんだよ。
「"光翔牙"!!」
「なにっ!?」
俺が身体を反転させ、剣を振りながら上空へと魔法を放つと、そこに転移していたクロムウェルが驚きの声を上げた。斬撃を飛ばすこの魔法は完璧に決まると思ったが、奴はあの黒い剣に魔力を注ぎ込むと、ギリギリで俺の刃を弾き飛ばす。流石にこの程度でやられる玉じゃないか。それにしても転移魔法にプラスして空を飛べるっていうのは厄介だな。
「"光翼"」
なら、こっちも空を飛べばいいって話か。俺の背中から光の粒子で出来た翼が生えるのを見て、クロムウェルが大きく目を見開いた。俺はそのまま勢いよく地面を蹴り、宙に浮いている奴目掛けて突進する。
「そ、空飛べるだなんて聞いてねぇぞ!?」
「お前だって飛べるだろうが!!」
「くそが!この反則野郎!!」
再び接近戦へと持ち込んだ俺にクロムウェルが悪態をついた。俺に言わせればお前も十分反則じみた強さだっつーの。
「そこだっ!!」
エクスカリバーが奴の肩をえぐる。一瞬、痛みに顔を歪めたクロムウェルだったが、すぐに転移魔法を発動した。それも、一度じゃなく連続で。なるほど、的を絞らせない作戦か。
こいつのスピードは半端じゃない。信じられないけど、チートじみた性能を誇る俺の聖属性魔法による強化すら上回っていた。だからこそ、有利な接近戦で戦いを進めてもそう易々とは勝たせてくれないんだ。それに加えてこの転移魔法だ。目で追う事なんて不可能。ならば感じ取るしかない。
目を瞑り、相手の動きを探る。攻撃に移るタイミングさえ見抜ければ、俺なら捌き切れるはずだ。
クロムウェルの気配に全神経を集中させていた俺は、咄嗟に振り返りながらエクスカリバーを持ち上げた。そこに振り下ろされる強烈無比な一撃。多分、馬鹿正直に受けたら吹き飛ばされちまうな。だからこそ、俺はその力に逆らわずに身体ごと回転し、その勢いのまま奴を斬りつけた。
ガギッ!!
クロムウェルが慌てて張った魔法障壁とエクスカリバーが鬩ぎ合う。だが、残念ながらこの剣はただの剣じゃねーんだよ。
俺は易々と魔法障壁を打ち破り、クロムウェルの身体を斬り飛ばした。そのまま猛スピードで叩きつけられたクロムウェルは地面に巨大なクレーターを作り出す。
これでやったか?やってるわけねぇよな。相手はクロムウェル・シューマンだぞ?このままあいつが体勢を立て直すのをボケっと眺めてんのは愚の骨頂だ。休む時間も考える時間も与えてはやらない。そう考えて土埃が舞う地上へと飛んで行こうとした俺に突然不可視の力が降り注いだ。
「な、んだこれは……!?」
とてもじゃないが空を飛んでられない。俺は落下するように地面に降り立つ。それでも押しつぶされるような圧力は消えなかった。突如として発生した重力場の影響で何倍にも増幅された体重のせいで自分の立つ地面にヒビを作りながら、これを引き起こした張本人に目を向ける。そこには頭から血を流しながら、こちらに手を向けているクロムウェルの姿があった。
「流石に今のは効いたぞ、このバカが」
地面に血の混じった唾を吐きながらこちらを睨んでくる。その手に見える四重に組まれた魔法陣は人間の世界じゃあんまりお目にかかれない代物。
「……重力属性魔法が得意だった事をすっかり忘れてた」
身体の自由が効かねぇな、こりゃ。前までの俺なら立ってることもできなかったはずだ。こんな魔法使われたら手も足も出ないぞ。だから、今まで使われたことがなかったのか……でもまぁ、今の俺ならなんとでも出来る。
「"断光"」
俺は魔法を唱えながら、無理矢理エクスカリバーを振り上げた。その瞬間、俺を縛っていた重力は無くなり、クロムウェルが発動していた魔法陣はあっけなく霧散する。
「おいおい、まじかよ……」
目の前で起こったことがよほど信じられないのか、クロムウェルは盛大に顔を引きつらせていた。
「こっちの魔法陣を消しちまうとか、もうなんでもありだな」
「結構集中して相手の魔法陣を狙わなきゃいけないから、咄嗟には使えないだろうけどな」
今はあいつが棒立ちだったから綺麗に消せたけど、乱戦じゃ絶対無理だ。
「ったく……厄介な力を手に入れやがって」
クロムウェルが苦虫を噛み潰したような顔で頭をかく。剣で戦えば俺が勝り、得意の魔法陣も消して去ってみせた。どう考えても俺が優勢なのは間違いない。だっつーのに全然優位になってる気がしねーんだよな、本当。
この程度で終わらない男だってことは俺が誰よりもよく知っている。
ここからが本番だ。俺の力を目の当たりにした今、こいつのギアはぐんぐん上がっていくはず。ここからは完全に未知の領域。昔は俺の相手なんてこいつには役不足だったからな。やっとクロムウェル・シューマンっていう男の本気を体感できるってこった。嬉しいような恐ろしいような気分だが、そいつを超えさえすれば、俺はこいつに勝てる。
さて……第二ラウンドといこうか。





