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3.勇者

 街のおじさんから話を聞いてすぐに城へとやってきた俺は城門を守る騎士に話しかけた。先程見送った奴が来たということで訝しげな表情で見ていた騎士も、俺が城へ戻ってきた理由を聞くとその顔が驚きのものへと変わる。


「代表に立候補したいだと?」


「はい」


「……本気か?」


 その口ぶりは疑うというよりは心配をしているようだった。俺が真面目な顔で頷くと、騎士の男は顔を渋める。


「あまりおススメはしないが、俺に止める権利はない。王からも立候補者が来たら速やかに城へ通せと仰せつかっている。……だが、今の今まで牢屋にいたお前はこの戦いの詳細を知っているのか?」


「それは……」


 詳しく知っているのか、と聞かれたらハイとは言えない。代表のこともおじさんから聞いて初めて耳にしたことなんだから。そうは言っても知らない、と答えて入城を拒否されたら困りものだ。


 言葉に詰まる俺を見て、騎士の男は盛大にため息を吐いた。


「……謁見の間に行く間に俺が説明してやる。ついてこい」


 そう言うと騎士の男は俺に背を向け、城の中へと入っていく。俺はホッと胸をなでおろしながらその後についていった。


 騎士の男が話してくれたことはおじさんの話の補足的な要素が強かった。この一週間の間で立候補してきたのが俺の知っている連中だけだったこと、戦いは魔族領で行われること、戦いの内容はよくわかっていないこと、そして、代表以外は魔族人間共に手を出してはいけないという事だった。


「魔族領で戦う時点で他の魔族が手を出してこないなんてありえないがな」


 ある程度説明を終えたところで、騎士の男が憎々し気に唇を噛む。


「これは魔族の罠だと皆言ってる。代表として選ばれた力ある人間を袋叩きにし、こちらの戦力を削ぐ作戦だって」


「戦力を削ぐ、ですか……」


 はっきり言って魔族の思惑なんて俺にはわからない。だけど、それは違うと確信を持って言えた。聞いた話ではこの前の戦争で人間側は魔族に大敗を期したらしい。そんな相手の戦力を削ぐことにどれほどの意味があるといえようか。


「お前も代表になるなら心づもりをしておいた方がいい。これからお前達が向かうのは敵の巣窟であるということをな」


「…………はい」


 俺は余計な事を言わずに小さく頷いた。この騎士の男は俺のことを気遣って色々と話してくれたのだ。そんな彼を、憶測だけの話をして不快にする必要などどこにもない。


「ここが謁見の間だ……と、それは知っているな。くれぐれも失礼のないように」


「ありがとうございました」


 俺が一礼すると騎士の男は俺の肩をポンと叩き、「頑張れ」と告げ、元来た道を戻っていった。俺は彼の背中が見えなくなったところで派手な装飾が施された荘厳な扉に向き直り、深呼吸をする。そして、ゆっくりと手を伸ばすと両開きの扉を押し開けた。


 キーッ……。


 扉が開く音が謁見の間に響き渡る。中にいたのは六名。玉座に座るオリバー王にさっき話を聞いたフローラ、エルザ先輩、シンシアの三人。そして、意外にも見知った顔の冒険者が一人と見たことのない服を着た男が一人。恐らくレイラさんと一緒にいる所を見ると、あの男は同じ冒険者の”剣聖”と称されるガルガント・ボーだろう。全員が唖然とした表情で俺のことを見ている。魔族との戦いが迫っているというのに、突然俺みたいなやつが現れたらそんな顔にもなるよな。


 でも、そんなことはどうでもいいことだ。


「……代表の枠が一つ空いているっていうのは本当ですか?」


 とりあえず事実の確認が最優先。Sランク冒険者がこの場にいるということは、もしかしたら代表に名乗りを上げたのかもしれない。

 未だに俺が来たことが信じられないのか、みんなその場で固まったまま動かない。そんな中、オリバー王だけは静かに口を開いた。


「……其方の言う通り、まだ代表が一人決まっていない」


「そうですか」


 助かった、どうやら間に合ったみたいだ。早速立候補しようと口を開きかけたところで、レイラさんが俺に鋭い視線を向けてくる。


「おい、レックス……まさかバカなことを言おうとしてるんじゃねぇだろうな?」


 その声は怒りに満ち溢れていた。何に対して怒っているのかわからないが、とりあえず彼女の方へ顔を向ける。


「バカな事ってなんですか?」


「代表に立候補したい、とかそういうことだよ」


 レイラさんの言葉の端々から刺々しさが垣間見えていた。何を言っているのだろうか?それ以外の目的のためにこのタイミングでここに来る奴なんていないだろうに。ってか、それをしないと俺はあいつを止めることができないんだよ。

 何も答えずにいると、俺の表情から言いたいことを察したレイラ先輩の視線が更に鋭いものになる。


「止めとけ。死ぬだけだぞ?」


「死ぬ?」


「あぁ。お前はあの化け物を知らないから立候補なんて無謀なことができるんだ」


 化け物?それって……。


「確かにお前は類まれなる才能の持ち主だ。いずれオレすら超える冒険者になんだろうよ……だがな、それは先の話だ。お前の戦っている姿を何度か見たことあるが、まだオレには及ばない。オレに及ばない奴があの魔王軍指揮官に勝てるわけがねぇ」


 あぁ、やっぱり。化け物って言うのはあいつの事だったんだな。


「あの戦争に参加してないお前があの男は知らねぇのは無理もない。だから、オレ様が忠告してやる。いいか?あの男は正真正銘の化け物だ。その力はあの魔王すら凌駕しているとオレは思ってる。魔法陣の腕、戦闘能力、扱っている武器、全てが人間の手に負えるような相手じゃねぇ」


「…………」


「レックス、これでもオレはお前を買っている。その時が来たらオレの後継者に、と思っているほどだ。……だからこそ、お前をこんな出来レースに参加させて死なせるわけにはいかねぇんだよ」


「…………」


「もし、それでも参加しようっていうんなら……」


 レイラさんが空間魔法から巨大な弓を取り出し、俺へとむけた。


「この場でボコボコにして、病院送りにするまでだ」


 彼女の目は本気だ。あの人は駆け引きなんてするような人じゃないし、やると言ったらやる人なんだ。

 レイラさんの話を黙って聞いていた俺は僅かに顔を伏せると、こらえきれずに笑みを零してしまった。


「なに笑ってやがる……?」


「レ、レックス?」


 フローラが心配そうな顔でこちらを見てくる。それにレイラさんのあの顔、あれは本気で怒っているな。そらそうか……真剣に話したっていうのに、あろうことか俺は笑っているんだからな。でも、仕方がないんだ。


 俺は笑いながらレイラさんに顔を向けた。


「嬉しんですよ」


「嬉しい?」


「そうです」


 そうだ、嬉しいんだ俺は。


「やっとあいつの力をみんなが認めてくれた……張り合える相手がいなくて、ずっと力を隠してきた俺の親友の強さを……それが嬉しくてたまらないんです」


 俺は充足感に満ち溢れた表情で、この場にいる皆の顔を見渡す。


「そうなんだよ……俺の親友はな、すごい奴なんだ」


 やっと言うことができた。いつだって声高に叫びたかった。自分の力が称賛されるたびにいつも……だけど、面倒くさいのが嫌いなあいつが許してくれなかったから言うことができなかった。


 でも、もういいよな?自業自得だ、ざまぁみろクロムウェル。


 多分俺は今すっきりした顔をしているだろう。その顔で大弓を構えるレイラさんに向き直った。


「レイラさん……あいつが凄いのなんてこの場にいる誰よりも俺が知ってますよ。ずっと一緒にいたんですから」


「っ!?だ、だったらっ!!」


「でも、俺は立候補しますよ。なぜなら……」


 俺はゆっくりと手を前に伸ばすと、身体の中から奴を呼び出す。生まれ故郷でずっと俺達を見守ってくれていた黄金に煌めくあいつを。遥か昔、勇者とともに戦ったであろう伝説の聖剣を。


「―――あいつに勝てるのは俺だけだ」


 俺は自分の中に眠る魔力をこの場で爆発させる。その瞬間、この空間が俺の魔力に支配された。

 突如として俺の手の中に現れたエクスカリバーに目を見開いていたのも束の間、この場にいる全員が俺の放つ圧倒的な魔力に固唾をのむ。


「この魔力は……聖属性魔法……!?」


 勇者の力を授かったフローラだけが俺の放った魔力の正体に気が付いた。そう、俺はただ魔力を解き放っただけではない。勇者だけが操ることができる聖属性魔法を魔力に乗せたのだ。

 慌てて俺の左手を見たフローラが驚愕の表情を浮かべる。


「うそ……勇者の紋章もないのに聖属性魔法が使えるなんて……!!」


 なんで使えるかなんて俺にもわからない。村の惨状を目にして、あいつの仕業だってわかった時から自然と使えるようになっていた。むしろ、今まで使えなかったことが不思議なくらいに。


「どうしますか?レイラさん」


 無機質な声でレイラさんに話しかける。彼女はこめかみから一筋の汗を垂らしながら一歩その場で後ずさった。


「できればあなたを病院送りにはしたくないのですが」


「…………くそっ!!」


 レイラさんは怒りに顔を歪めながら、大弓を床に叩きつける。よかった……正直、この力を使ったことがないから手加減できる自信がなかった。


「……勇者の血を引きし者ということか」


 ぼそりと呟いたオリバー王の方に顔を向ける。彼はまっすぐに俺を見据えると、静かに玉座から立ち上がった。


「この地に舞い降りた二人目の勇者レックス・アルベールよ。その奇跡の力を我ら人間のために振るってくれるというのか?」


「……はい、そのためにここへ来ました」


 正直、人間のため云々はどうでもいいことだが、代表になれれば何でもいい。重要なのは魔族の代表として現れるであろうあいつと戦うことだ。

 俺の真意を知ってか知らずか、オリバー王は深々と頷くと、俺を含めこの国の代表達に視線を向けた。


「勇敢なる人間代表の者達よ!諸君らに我らの未来を託す!必ずや生きて戻ってきてくれ!」


 王の激励に膝を折って応えるフローラ達。俺もそれに倣ってその場で跪いた。


 いよいよだ、クロムウェル。今からお前に会いに行くから首を洗って待ってろよ。

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書籍化に伴い、特設ページを作っていただきました!下記のリンクから足を運んでみてください!
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― 新着の感想 ―
[一言] レックスが立ちむかうべきは、クロムウェルでは無く、自身のコンプレックス。(レックスだけに)
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