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22.鈍感もここまで来ると有罪

 ララ達とタバニ達を見送った俺は、少し離れたところに見慣れた漆黒の鎧を見つけたのでそちらへと足を進める。


「よぉ、ギッシュ。久しぶりだな」


「……指揮官か……久しいな……」


 ギッシュは持っていたグラスを軽く傾けた。おっ、これは乾杯しなきゃ失礼にあたるな。俺も飲み物を……丁度いいところにクソ生意気なウェイターを見つけた。


「おーい!泣き虫元勇者ー!こっちにドリンクくれー!」


「はっ?……って、お前かよ」


 魔族達の間を忙しなく動き回っていたアベルが、俺の顔を見て露骨に嫌そうな表情を浮かべる。だが、一応この式の主役ということで、渋々といった感じでこちらにやってきた。


「……どちらのお飲み物がよろしいでしょうか?」


 愛想の一切ない接客。こりゃ、ダメだね。まるでなっていない。


「はぁ……アベル君……君は雇われ者なんだよ?そんな態度じゃ話にならないな」


「ぐっ……」


 俺が呆れ顔で言うと、アベルは悔し気に顔を歪めた。おんやー?なにやら大人しいご様子。こりゃ、ギッシュがいる手前、あまり強く出れないってところか。まぁ、今はアイアンブラッドに住んでるからな、こいつ。これはからかい甲斐があるんじゃねぇか?


 アベルはぎこちない笑みを浮かべながら俺の方を向いてきた。


「こ、これは大変失礼いたしました。お飲み物は何にいたしましょうか?」


「うーん、言い方が硬いよー。それだとお客さんは満足しないなー」


「な、何か飲みますか?」


「飲むから呼んでるんでしょー?当たり前なことを聞いたらお客さん怒っちゃうよー?もっと工夫して話さなきゃー」


「こちらは当店おすすめのカクテルなんですが、いかがですか!?」


「いやー店のおすすめを強要されてもなー。君の価値観を俺に押し付けないでいただきたい」


「こ……のクソ野郎が……!!」


 俺にだけ聞こえる声でアベルが悪態をつく。なんて楽しいんだろう。世の中にこんな遊びがあったとは。


「……指揮官殿……あまり俺の料理仲間を……いじめないでやってくれ……」


 俺達のやり取りを聞いていたギッシュが苦笑しながら声をかけてきた。ちっ……ギッシュにそう言われたら止める他ねぇな。って、料理仲間?なんだそれ?


 その疑問が顔に出ていたのか、アベルがバツが悪い顔で頭をぼりぼりとかく。


「ギッシュさんは俺と一緒にゴブ太さんから料理を習ってんだ」


「え?ギッシュが!?」


 俺が目を丸くして尋ねると、ギッシュは少し照れながら頷いた。いや、なんでだよ!アベルはともかく、なんでギッシュまで料理を習ってんだよ!


「……指揮官殿が作った昼休憩……俺が当番の時はなるべく上手い飯を作ってやりたいからな……」


 真面目かっ!そして、彼女かっ!部下のために料理を習うとか、いい上司すぎんだろっ!


 それにしても料理仲間か……結構こいつも魔族をうまくやってんじゃねぇか。


 俺はアベルの持っているお盆から適当にグラスを取ると、ギッシュのグラスにぶつけた。


「まぁ、なんだ。このバカは俺が勝手に連れてきちまったからな。もし邪魔だったら言ってくれ。その辺に捨ててくる」


「おい。まじでぶん殴るぞ」


 ジト目を向けてくるアベル。そんなアベルを見ながらギッシュは小さく笑みを浮かべる。


「……アベルはもうアイアンブラッドの一員だ……邪魔になることなどないさ……」


「っ!?」


 その言葉を聞いたアベルの瞳が僅かに潤んだ。やっぱり泣き虫元勇者っていうのはあながち間違いじゃねぇよな。


「どうした?ハンカチ貸してやろうか?」


「いらねぇよ!……俺は暇じゃないんだ。そろそろ仕事に戻らせてもらう」


 俺からそっぽを向きながら、アベルはそそくさと移動しようとする。が、途中で足を止め、肩越しに俺の顔を少しだけ見る。


「……せいぜい尻に敷かれないようにすんだな」


 それだけ言うと、さっさと人ごみの中へと消えていった。たくっ……素直じゃねぇな。まぁ、今のセリフは祝いの言葉として受け取っておくよ。


「……俺からも言わせてもらおう……おめでとう……」


「おう!サンキューな!」


 ギッシュの声に笑顔で応じると、俺は再び会場内を歩き始めた。


 気分は縁日の出店回り。何も考えずにぶらぶらと歩きながら周りを眺める。俺に気が付いた魔族はみんな笑顔で挨拶してくれた。その度に俺の心は高揚する。やっぱり魔族の世界に来てよかった、心の底からそう思えるよ。


 しばらく歩き回っていると、ハックルベルのみんなの姿を見つけた。近づいてみると、なぜかマリアさんも一緒にいることに気が付く。


「あっ、クロ君!」


 俺と目が合ったマリアさんが笑顔でこちらに手を振ってきた。それにつられるようにして、村長たちも俺の方へと目を向ける。


「おぉ!クロムウェル!いやはや驚いた!こんなにも見違えちまうなんて!」


「馬子にも衣裳ってのはこのことだな!」


 俺のタキシード姿を見たティラノさんとゲインさんが早速からかってきた。俺は適当に二人をあしらい、マリアさんに声をかける。


「マリアさんってうちの村の連中と知り合いだっけ?」


「ううん!今日が初めて!でも、この会場に人間がいるのが珍しくって話しかけたらクロ君の村の人だって聞いたから色々話をしていたの!」


「私達も驚いていたのよ。まさか、クロムウェルやうちの息子と同じ年頃の女の子がこんな所にいるなんてね」


 アンヌさんが微笑みながら俺に話しかけてきた。そういえば全然そういうこと話してなかったからな。


「いやぁ、こんな美少女がお前達の同級生だなんて知らなかったぞ!?お前もレックスも全然便りとかくれないからな」


「そうだぞ!もっとしっかり報告するべきだ!」


「……そういうのはレックスに文句を言ってくれ。俺はもうあの学園にはいないわけだし」


「んー……そう言われればそうだな。よし!ティラノ!食い物取りにこうぜ!」


「ここの飯はエマに負けず劣らず旨いからな!」


 そう言うと二人は意気揚々と料理が置いてあるテーブルへと歩いていく。本当、自由だよな。会話に脈略がなさすぎる。


「ごめんね、マリアちゃん。うちのバカ兄とティラノさんがあんな感じで」


 エマおばさんが二人に呆れた視線を向けながら、申し訳なさそうに言った。マリアさんは少し慌てながら両手を身体の前で振る。


「いえっ!全然気にしないでください!慣れていますから!」


「……そうね。レックスもクロムウェルも似たような感じだものね」


 おっと、雲行きが怪しくなってきた。これは、ティラノさん達のとばっちりを受ける可能性大だな。こういう時は話を逸らすに限る。


 俺はちびちびと酒を飲んでいる村長の方に顔を向けた。


「そういえばメフィスト達は一緒じゃないのか?」


「ん?……あぁ、ゼハード達は魔王軍から抜けた身だからここには来れないと言っておった」


「あー……そういう事?別に気にする必要なんてないのに。村長達だってマリアさんだって魔王軍じゃねぇし」


「儂もそう言ったんだがな。結構、頭の固い奴だから」


 そういやそうだった。生真面目で頼りになる男。それが今のメフィスト達のリーダーだったな。


「だが、クロムウェルに伝言は預かっておるぞ?」


「伝言?」


「うむ。『結婚おめでとう。末永く幸せに暮らしてくれ』だとさ」


「……けっ。直接言いに来いっての」


 照れ隠しに少し乱暴な口調で言ってみる。村長もそれが分かっているのか、ニヤッと笑っただけで何も言ってはこなかった。


「あっ、そうだ!私もまだ直接は言ってなかったね!」


 マリアさんはパンッと両手を叩くと、俺に笑顔を向けてくる。


「クロ君……結婚おめでとう」


 あまりにまっすぐに俺を見据えながら言われたため、なんかドギマギしてしまう。


「ん、ありがと」


「絶対に幸せにならないとダメだよ?……クロ君が幸せになることだけが私の望みなんだから」


「……うん。幸せになるよ」


 優しい眼差しを向けられ、胸がいっぱいになった俺はこんな単純な返答しかできない。そんな俺達二人を見て、何かに気が付いたアンヌさんとエマおばさんが同時に俺の頭に手刀をおろした。


「ってぇ!!い、いきなり何すんだよっ!?」


「本当にごめんなさいね、マリアちゃん。夫以上にどうしようもなくて」


「このバカっ!鈍感っ!女の敵っ!」


「えっ?ちょ……えぇ!?」


 意味が分からないんですけど!?そして、エマおばさんはめちゃくちゃ怖い顔、アンヌさんはニコニコ顔という相反する表情のはずなのに同じくらいプレッシャーを感じるのはなぜっ!?村長も隣で「くわばわ、くわばら」とか言ってるし、ここは戦略的撤退をするしかない!!


「と、いうわけで他に人にも挨拶しなきゃいけないから俺はこの辺でっ!」


「あっ!ちょっと!!待ちなさい、クロムウェル!!」


 エマおばさんお怒鳴り声が聞こえるが、無視する。これ以上ここにいたら絶対に大変なことになると俺の本能が告げていた。

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