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15.アポイントなしに大物が来るとたまったもんじゃない

 王都マケドニアに悠然とそびえたつメリッサ城。魔物暴走(スタンピード)が起こった時はたくさんの騎士で埋め尽くされていたその城門も、今は見張りが二人、城に訪れようとしている者達をのらりくらりと監視していた。この城を脅かさんとする賊などいない。仮にいたとしても今はそれどころではないのだ。


「今日も国の偉い人達が集まって会議してるんだっけ?」


 携えている槍と同じくらいひょろ長い男が、隣にいるぽっちゃりとした男に話しかける。


「おー、なんでも数日前に村が一つ魔族に襲われたらしい」


「そういえばそんな話を聞いたな。その割にはあまり騒ぎになっていないようだけど」


「住民が五、六人しかいない小さな田舎村だからな。だけど、あの魔王軍指揮官の出身地らしいぞ?」


「魔王軍指揮官!?」


 ひょろ長い男の肩がビクッと跳ねた。怯えるような目でぽっちゃりした男の方に目をやる。


「おいおい……大丈夫なのかよ、それ。怒って国に攻めてきたりはしないだろうな?」


「大丈夫も何も、その村を滅ぼしたのが魔王軍指揮官って話だぞ」


「そうなのか?なんでまた?」


「さぁ……魔族に寝返るような奴の心内なんかよく分かないけど、自分でやったんだから攻めてくることはないだろ」


「そっか……」


 ひょろ長い男が心底安堵した様にホッと息を吐いた。それを見てぽっちゃりしている男が興味深げな視線を向ける。


「そういやお前はあの戦争に参加したんだっけか。つーことは魔王軍指揮官の力を目の当たりにしたってことだよな?どうだった?」


「……俺はあの男が同じ人間だってことがいまだに信じらんないよ。それくらい化け物だった。それに魔王も」


「魔王も見たのか!暇つぶしの話には持ってこいじゃないか!詳しく話せよ!」


「そうだね。僕も興味あるな」


「「え?」」


 二人の話に突然入ってきたのは少し小柄な顔立ちの整った男。ニコニコと笑うその顔は大人の女性を虜にするには十分な破壊力を秘めている。だが、残念ながら門番の騎士は二人とも男だ。その魅力が通じるわけもない。


 それだというのに、ひょろ長の男は、その姿を見た瞬間、全身が凍り付いた。


 状況をよく理解していないぽっちゃりした男は訝し気な表情を浮かべながら、持っていた槍を笑っている男に向けた。


「なんだお前?何をしに城へ来た?名乗れ!」


 この辺りでは目にしない服を着ている男。そして、その男の後ろには黒いコートを着た男が面倒くさそうな顔でこっちを見ている。どう考えても不審人物に違いない。ぽっちゃりした男は気を引き締めなおし、現れた怪しい二人組を睨みつけた。


 ドテッ。


 その男の隣で口をがくがくと震わしながらひょろ長い男が尻もちをつく。その顔にはくっきりと恐怖と驚愕が張り付いていた。


「あっ……あっ……!!」


「お、おい!いきなりどうしたんだ!?」


 最早話すことすら叶わない同僚を見て混乱する男。そんな二人を見ながら端正な顔の男が楽し気に笑いながら口を開いた。


「僕の名前はルシフェル。用件はこの国の王様と話し合いに来たんだ」


「……へっ?」


 槍を構えたままバカ面を浮かべるぽっちゃりした男。目の前の男が言った言葉が一ミリも理解できない。


「とりあえず、急いで上に伝えて来てくれないかな?魔族の王が人間の王に会いに来た、って」


 ますます笑みを深めるルシフェル。その表情は二人の門番の心に「トラウマ」として深く刻みつけられるのであった。



 門番の二人大丈夫だったかな?めちゃめちゃビビってたけど。……まぁ、ビビるか。魔王だしな。


 フェルの言葉を聞いた門番達は脱兎のごとく城の中へと入っていった。それを面白そうに見ていたフェルはやっぱり性格が悪い。俺は違う。終始不憫に思いながら二人を見ていた。なのに、フェル以上に俺のことを怯えた目で見ていたのはいったいどういうわけだ?


 しばらくして戻ってきた門番の二人が「こちらへ」とかの鳴くような声で告げ、俺達を城の中へと招く。生まれて初めてこの中に入ったけど、ここって人が働いていないの?連れられているとき、誰とも出会わなかったんですけど?

 無事に俺達を目的地に送り届けた二人は、冷や汗だらけになりながら逃げるように自分の持ち場に戻っていった。なんか傷つく。


 つーわけで、俺達は今、謁見の間にいる所だ。


 この場にいるのは偉そうな態度が身体から沁み出している貴族連中が数人と護衛のために傍らに佇む騎士達。後はやばいくらいに威光を放っている王様と豚だけ。その豚から俺に向けられる憎しみの視線が半端ない。誰か餌でも与え忘れたんじゃねぇの?家畜の世話はしっかりしてもらわないと困るよ、まったく。


「……突然の来訪には少々驚かされたが、この際それは些細な事。自己紹介は必要か?」


 ビリビリ、と目に見えそうなくらいの緊張感が充満している中、真っ先に口を開いたのはオリバー王だった。


「うーん、そうだね。この代の王様に会うのは初めてだから一応名乗っておこうかな?僕はルシフェル。君達にとっては悪の親玉かな?」


「それはこちらも同じこと。オリバー・クレイモア、この国の王を務めている」


「よろしくね」


 愛嬌たっぷりな笑顔をオリバー王に向けると、フェルがちらりとこっちに視線をやってきた。……俺も自己紹介する感じ?


「魔王軍指揮官のクロだ」


 そう名乗った瞬間、ありとあらゆる殺気がこちらに向く。いや、なんでだよ!フェルだって同じようなもんだろうが!なんで俺ばっかりこんな冷たい目で見られなくちゃいけねぇんだよ!納得いかねぇ!


「魔王軍指揮官、久し……くはないか。だが、こうやって面と向かって話すのは二度目かな?」


「……あぁ、そうだな」


 戦争の時は話す余裕なんてなかったし、そもそも俺はこの王様が苦手だから話したいとも思わなかった。別に怒られているわけじゃないのに、話しているだけで説教されている気持ちになるんだよね。今回、俺はフェルの付き添いみたいなもんだから、あんまり関わんないでくれると助かるんだけど。


「ところで、人間側に戻る気はないか?」


「……はっ?」


 一瞬、王様が言っていることの意味が分からなかった。それはこの場にいる全員が同じだと思う。だって、みんなが俺と同じように唖然とした顔してるもん。


「お、王よ!いきなり何を……!!」


 大声を上げた貴族の男を手で制すると、オリバー王は真面目な顔で俺の目を見つめる。


「どうだ?私の側近になっても構わない」


 ……やっぱり俺はこのおっさんが苦手だ。と、いうか敵に回すのが嫌だ。なぜかって?こういう大人は嫌いじゃないからだ。


「……それはルール違反でしょ。クロは僕が先に唾をつけたんだから」


 何も言えずにいる俺を見てフェルがため息を吐きながら、オリバー王にジト目を向ける。


「ふむ……確かに、早い者勝ちという言葉があるか」


「そういうこと。クロは僕のモノだから誰にもあげないよ」


 いつからお前のモノになったんだよ。なんか人間側に戻りたくなったわ。


「とりあえず、私はいつでも貴殿を歓迎する、とだけ伝えておこう。……して、魔族の王ともあろう者がこんな所までいったい何用で参ったのだ?」


 オリバー王はあっさりそう言うと、フェルに向き直った。助かった……これ以上勧誘され続けたら断り切れる自信なかったぞ。NOと言えない人間、クロムウェル。


「実はある提案をしに来たんだ」


「提案?」


「そう、それはね―――」


 バタンッ!!


 フェルが内容を話そうとした時、唐突に謁見の間の扉が開いた。全員の視線がそちらに向く。そこには桃色の髪をした可憐な少女が息を切らしながら立っていた。

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