表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

282/324

11.子供の頃は宝物を隠したがる

 俺は一人、夕焼けに染まる故郷を歩いていた。て、いっても大した広さはないんだけどな。それでも、思い出はそこら中に散らばっている。


 思いもよらない提案を受けた村の人達はすこぶる驚いていたが、意外なことに何の反論出ず、すんなりと受け入れてくれた。勇者が生まれた地としてこの村に誇りを持っている村長当たりは苦言を呈すと思ったが、「そちらさんがいいなら、そうしてもらえると助かるの」と、特に渋る様子もなく了承してくれたのにはこっちが驚いたくらいだ。


 ティラノさんとアンヌさんはレックスのことを気にしていたけど、落ち着いたら俺が引っ張ってくるよ、と告げると嬉しそうに笑っていた。……その約束を守れるかは正直自信がない。


 とりあえず、村の人達の同意は得たということで、フェルに許可をもらいにセリスを連れて魔王城に行こうとしたら、男三人がセリスから話を聞きたいから残していけ、ともうアピールしてきたので、仕方なく俺は一人で魔王城へと転移した。


 城に戻ると、昨日言った通り城に訪れたギガントとフェルが話をしているとこだった。適当にギガントに挨拶して、フェルに村での事を話すと、意外にも……いや、全然以外ではないか、フェルは二つ返事でオッケーしてくれた。マリアさんとは違って、村の人達を探そうとする人はいないだろうし、クロの家族なら大歓迎だとよ。どこに住むかは少し考えるから、とりあえずここに連れて来て、って言われた俺はさっさとハックルベルに戻ってきたんだけど、ゲインさん家から楽しそうな話し声が聞こえたから、少し一人で村を散歩しているってわけだ。


「まさかここにもう一度戻ってくるとはなぁ……」


 俺は寂れた村を見ながら独り言を呟く。すべてが俺とあいつが出ていった時のままだ。壊れかけの柵も、使い古された井戸も、何も変わっていない。それだけで、俺の心は安心感に包まれる。


「ん?」


 俺は村の中心に刺さっている剣もどきに近づいた。そういや、村長はこれが勇者の遺物だ、とか言ってたな。そら、あの豚も怒るわ。どう見てもゴミにしか見えねぇもん。


 何気なくその剣もどきに手を伸ばそうとすると、突然、俺の手にアロンダイトが握られた。


「は?なんでお前が出てくるんだ?」


 動揺を隠しきれない俺。アロンダイトはいつものように不愛想な様子でそこに佇んでいる。……なんか、その剣に近づくなって言われているみたいな気がすんだけど。まさかこの廃品に近い剣に嫉妬してるのか?いや、んなわけねぇか。


 アロンダイトの機嫌を損ねるのも嫌なので、俺は剣から離れ、この村で一番時間を過ごした場所まで足を進める。そこにあるのは何の変哲もない巨大な窯。


 これ、作るの本当に苦労したんだよな。レンガを組み立てるのも苦労したけど、何より大変だったのが奇麗なドーム状にすることだ。試行錯誤した結果、何とか見てくれはいい感じになったけど、そのせいでこんな大きさになっちまった。家一軒分くらいはあるぞ。結局言い出しっぺの村長はでかすぎて使えない、とか文句言って一度も使わずに放置されたんだもんな。まぁ、俺は有効活用させてもらったけど。


「クロ様」


 聞きなれた声に反応し、振り返ると僅かに頬を紅潮させたセリスがこちらに歩いてきていた。そういえばアンヌさんとエマおばさんがもてなしの料理を作ってたっけ。これから夜逃げするっていうのにお酒まで出しちゃってんのかよ。まぁ、セリス暴走圏内までアルコールを摂取したようには見えないし、大丈夫か。


「セリスか。どうした?」


「クロ様の帰りが遅いので、皆さんに断りを入れて探しに行こうと思ったのです」


「そうか。悪かった」


 素直に謝ると、俺は窯に目を戻す。セリスも横に立ち、一緒に見つめた。


「これは?」


「ん?あぁ、窯になる予定だったもの。実際は俺の修行場……いや、遊び場かな?」


「遊び場……ですか?」


「おう。飯食ったり、寝たり、どっかのバカに付き合ったりする以外はずっとここに籠って魔法陣の練習をしてたんだよ」


 結構覚えているもんだなぁー……扉を閉めると完全に光が遮断されるからすげぇ集中して出来るんだよ。


「へぇ……一日どれくらい練習していたのですか?」


「うーん……日によるけど、十二、三時間くらい?」


「へっ!?」


 セリスが素っ頓狂な声を上げて、こちらを見てくる。なに、目を丸くしてんだよ。


「別に普通だろ?子供なんてやる事ねぇし、そもそもこの村には娯楽なんてねぇし、それぐらいやんねぇと暇が潰せないんだよ」


「ゆ、友人と遊んだりはしなかったんですか?」


「んー……木刀で打ち合ったり、魔法の真似っこしたりしてたけどそれくらいかな?あいつは一人でふらっと森に行っちまうことが多かったし」


「あいつっていうのはレックスさんの事ですか?」


「あれ?セリスにレックスの事話したっけ?」


「いえ……マリアさんとアンヌさんに聞きました」


 あー、そら話すか。マリアさんはレックスのことが好きだし、アンヌさんは自分の子供の事だもんな。


「……レックスさんはどんな方なんですか?」


「ん?話を聞いたんじゃなかったの?」


「いえ、クロ様の口から聞きたかったもので」


 セリスがいつになく真剣な顔で聞いてくる。うーん、俺が話すレックスと他の人が話すレックスに違いなんてないと思うけどなぁ……。良くも悪くも裏表がない奴だし。


「一言でいうとバカだな」


「バカ、ですか?」


「あぁ。とにかく考えなしに行動する。無茶ばっかりで付き合されるこっちの身がまじでもたん。そのくせ大抵のことは一人で解決できちまうヒーローみたいなやつだ。おまけにイケメン、腹が立つほどのイケメン。死ねばいい。後は…………俺の親友だ」


 俺が早口でまくし立てるように言うと、セリスがくすりと笑う。


「なんだか、クロ様と似ていますね」


「はぁ!?俺があのバカと似てる!?」


「えぇ。最後の方以外は」


 イケメンじゃなくて悪かったな。くそが。不貞腐れる俺を見て、セリスが楽し気に笑った。


「他には何かエピソードはないのですか?」


「そうだなぁ……そういえば」


 俺はある事を思い出し、窯に近づく。確かこの辺に……おぉ、あったあった。


 窯のレンガの中に隠していたモノを取り出し、セリスに見せる。


「それは……木のナイフですか?」


「そうだ」


 俺の手に握られているのはペーパーナイフ程の木剣。その出来はお世辞にもいいとは言えない。


「子供の頃にさぁ、俺達はいっつも狩りに連れていけって騒いでたんだ。でも、ゲインおっちゃんもティラノさんも絶対に首を縦に振らなくてな。武器すら持たせてくれなかったんだ。だから、俺とレックスは自分達で武器を作ってこっそり狩りに出かけてたんだよ。んで、これが一番最初に作ったナイフ」


「……そういえばスライムの実験とかしてたって言ってましたね。なるほど、クロ様もレックスさんも問題児だったわけですね」


「一緒にするな」


 俺はいたって真面目な子供だったっつーの。あんな歩くトラブルメーカーと同列に扱わないでほしい。

 いやーそれにしても懐かしいわ。二人で苦心して作ったはいいが、一本しかできなかったから取り合って喧嘩したっけ?結局、決着がつかなかったからここに封印したんだったよな。俺達が隠した証拠に彫った『C・R』って文字もあるから間違いないだろ。…………どうせあいつは憶えてないだろうし、記念にもらっておくか。


 俺が木のナイフを空間魔法に収納すると、セリスが微笑みながら囁く。


「会ってみたいですね。その親友さんに」


 会う……セリスがレックスに?いやーちょっと待て。それはあかんだろ。正直、魅力っていう点に関して俺はレックスにボロ負けだ。それこそ月とスッポン、いやスッポンの鼻くそレベルの差。ルックスなんて比べる価値もないし、性格に関しては太刀打ちする方法が全く分からない。そんなレックスと会って万が一セリスが心を奪われようもんなら……俺は立ち直れる気がしない。


 だが、そんな恥ずかしいことは口が裂けても言えるはずねぇ。なんか適当な理由をつけてセリスとレックスの邂逅を阻止しなければ俺に未来はない。


 必死に頭を巡らせると、隣からくすくすと笑う声が聞こえた。


「大丈夫ですよ……私が好きなのはあなただけですから」


 ……頭の中筒抜けですかそうですか。羞恥と照れくささがブレンドされて脳みそ破裂しそうなんですが。


 俺は顔を真っ赤にしながら、何とか話題をそらそうとする。


「村の人達はどうだった?」


「みなさん本当に良い方達です。魔族の私にも優しく接していただきました」


「そっか」


「クロ様の子供の頃の話も聞きましたよ?三歳の頃、おねしょを隠そうとして」


「その話は今すべきことではない。そして、セリスの頭の中にあるべき事柄でもない。すみやかに記憶から抹消するのだ」


「ふふっ、はい。指揮官様のご命令であれば」


 こういう余計な事を言うのは絶対にアンヌさんだ。声を大にして文句を言いたいが、怖すぎて無理。


「あんまり遅くなっても悪いから戻るか」


「そうですね。もてなしのご馳走を用意してくれたんですよ?アンヌさんもエマさんも驚くほど料理がお上手なんです」


「知ってるよ。俺はその味で育ったんだから」


 でも、俺はセリスの作った飯の方が好きだぞ。


 そう言おうとして、気恥ずかしいからやっぱりやめた俺を見て、頬を赤らめながら嬉しそうに笑うセリス。


 ……隠し事ができない間柄っていうのも辛いものがあるっての。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍化に伴い、特設ページを作っていただきました!下記のリンクから足を運んでみてください!
03818ab313254921afcd423c39a5ac92.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ