4.リーサルウェポン、上目遣い
それにしても、うちの娘はやっぱりコミュニケーション能力が高い。エンシェントドラゴンの頭に跨ってはしゃげる子供など、この世界にどれくらいいるのだろうか。ジルニトラも満更でもない顔してるし。
「ジルさんの頭の上って高ーい!この辺りの景色がすごいよく見えるの!」
『そうか?ならもっと高いところからの景色を見せてやろう!』
意気揚々と翼を動かし始めたジルニトラを見て、俺は慌ててシートから立ち上がった。空の散歩なんかに行かれたら、本題に入るのがいつになるのかわからねぇ。
「おーい、ジルニトラ。ちょっと降りてこーい!」
『む……なんだ、クロ。今からアルカに超高速の天空旅行に連れて行こうとしていたとこなんだが』
翼をはためかせていたジルニトラが不満げな顔で降りてくる。大丈夫だ。うちの娘はお前に乗らなくても、超高速の天空旅行に行けるから。一人で。
「今日は頼みがあってきたんだよ」
『頼み……』
ジルニトラがその巨体をビクッと震わせた。それを見てセリスが俺にジト目を向ける。
「……伝説の竜のトラウマになるような事をしたんですね、あなたは」
「いや、別にしてねぇよ」
俺はただお前の生き血をよこせ、ってお願いしただけだ。これ以上健全な頼み事が他にあるか?
『た、頼みとな……あまり聞きたくない気もするが……』
「今回は本当に大丈夫だって。お前には実害ないから」
『本当かのぉ……』
ジルニトラが疑わしげな視線を俺へと向けてくる。対する俺はニコニコと笑うばかり。
『……はぁ。仕方ない。とりあえず聞くだけ聞いてやろう』
ため息をつきつつ、渋々といった様子でこちらに首を伸ばしてきた。よしよし、まず確認しなきゃいけないことがある。
「お前さ、竜の中の竜だとか竜の王様だとか言ってたけど、他の竜に命令とか下せんの?」
『命令にもよるがの。単純なものなら可能だ。我々竜というのは見えないところで繋がっておるからな、余が強く念じれば他の竜にもその意思が届くのだ』
なるほど、テレパシーみたいなもんか。まぁ、普通のドラゴンはこいつみたいに話せるわけじゃないし、ドラゴン同士の会話はそれを使ってやってるってわけか。そんでもって、竜の中でも一際力を持ったこいつの命令であればある程度の事は聞く、って感じね。
「それは魔の森にいるドラゴン全員に?」
『魔の森というのはこの森のことか?ならば可能だ。と、いうよりもこの森ぐらいが限界だな』
「十分だ」
ニヤリと笑う俺を見て、ジルニトラが怪訝な表情を浮かべた。
『なんだ?それがクロの願いか?』
「あぁ、二週間でいいから自分の巣穴から出ないように命令してくれないか?」
『巣穴から?』
俺の言葉を聞いたジルニトラは、うーんと低いうなり声を上げる。
『できなくはないんだがのう……そうすることで森の生態系に異常をきたす可能性もあるからなぁ……』
「そうか、なら仕方ない」
難色を示すジルニトラに、俺はしつこく頼み込むことはせず、あっさり引き下がった。
「と、なるとこの森にいるドラゴンを一匹残らず根絶やしにしないといけねぇな」
『なっ……!?』
「もちろん、そいつらの王だとか宣ってるどこぞのヘタレドラゴンもな」
「っ!?!?!?!?!?」
ジルニトラの目がカッと大きく見開かられる。その瞳にはわかりやすく恐怖の文字が浮かび上がっていた。
『ク、クロっ!!やっぱりお主、余を殺す気なのだな!?』
「あー?だってしょうがないだろ。願いを叶えてくれない竜王様なんていらないから粗大ゴミの日に出さねぇと」
『り、竜でなしぃぃぃぃぃ!!』
なんだよ、それ。勝手に新しい言葉を作り出すな。
『ア、アルカ!聞いてくれ!お前の父は無害な余を殺そうとするのだぞ!?』
「そうなの、パパ?」
こいつ……。
アルカはジルニトラから飛び降りると、ほっぺをぷくっと膨らませながら両手を広げ、俺とジルニトラの間に立ちはだかった。可愛い。
「パパ!ジルさんをいじめるなんてダメなの!」
可愛さ余って憎さ百倍って言葉があるだろ?アルカの場合は可愛いさ余らないけど愛おしさ百倍なんだよ。いや、千倍なんだよ。アルカの可愛らしさは天井知らずなんだよ。この胸がキューッと締め付けられるのは誰にも止められないのだよ。
っと、それはいいとしてこのヘタレドラゴン、アルカを利用しやがったな。なら、こっちも同じ手でいかせてもらう。目には目を、天使には天使を、だ。
俺はゆっくりとアルカに近づくと、膝を曲げ、アルカの頭に手を乗せた。
「アルカ、違うんだ。お父さんはジルニトラを虐めているわけじゃない。ジルニトラの凄いところを見たかっただけなんだ」
「ジルさんの凄いところ?」
アルカが不思議そうに首をかしげる。思った通り景色に夢中だったアルカは俺達の話を聞いていなかったんだな。
「そうだ、ジルさんはな?この森にいるドラゴンの王様なんだ。だから、ここから一歩も動かず、仲間の竜に色んなことを命じることが出来るんだよ」
「そうなの!?ジルさん、凄い!!」
アルカがキラキラした瞳を向けると、ジルニトラは照れ臭そうに翼で頬をかいた。手応えあり。
「そんなジルさんの凄いところ、アルカは見たくないか?」
「うん!見てみたいの!」
アルカから期待に満ちた眼差しを向けられたジルニトラだったが、物凄い葛藤に襲われている顔で首をブンブンと左右に振った。
『い、いや!こればっかりはアルカの頼みでも聞けぬ!!一日ぐらいなら吝かではないが、二週間もドラゴンが捕食活動をやめてみろ!どうなるか想像もつかん!』
くっ……流石はエンシェントドラゴンということか。アルカのおねだりに耐えきるとは中々やる。うちの幹部どもがされてみろ、一瞬で懐柔されるぞ。
さて、どうしたもんか……。
俺が次の手を考えていると、アルカが一瞬、残念そうにまつ毛を落とし、ジルニトラを上目遣いで見上げた。
「……どうしてもダメなの?」
『ダメなわけがないだろう。今すぐこの森に住む駄ドラゴンどもに一ヶ月は巣から出るな、と命令を下してやる』
エンシェントチョロゴン、ここに爆誕。





