12.ドラゴンは西洋と東洋で違うけど、イメージ的には「竜」が西洋で「龍」が東洋
改革を初めて一週間がたったが、今日もいい感じにデュラハン達が来ているな。初日とは違い、11時になった瞬間、この食事処に集まって来るようになったしな、いい傾向だ。
それにしてもセリスのやつ遅いな……アニーさんがめちゃくちゃ大変そうじゃねぇか。
お弁当を取りに行くと言ってここから離れてから、結構な時間が経つがセリスはまだ戻らない。結局、アニーさんと俺の二人で11時休憩組の相手をしなくちゃならなくなった。
あいつ……俺に何だかんだ言っておきながらアルカと楽しくやってんじゃねぇだろうな?それは万死に値する裏切り行為ぞ?
俺がフラストレーションを溜めながら配膳していると、突然場の雰囲気が変わった。明らかにデュラハン達がピリピリと緊張している。
「ん?なんだ?」
俺はデュラハン達の視線の先を見て、こんな雰囲気にした元凶を見つけた。
そこに立っていたのは黒いマントをたなびかせた、魔王ルシフェル。転移魔法にって現れた魔王はその名にふさわしい威厳を醸し出し、堂々とした態度で俺達の前に……。
いや大仰な登場してんじゃねぇよ!いい感じに場が和んでるってのに余計なことしやがって!こんなん騎士達が談笑しながら飯食ってるとこに一国の王が顔出すようなもんだぞ?料理の味がわからなくなるわ!
フェルはデュラハン達に見向きもせず、真っ直ぐに俺のところに寄ってきた。その顔はいつもの人をおちょくるようなものではない。……なんかあったのか?
俺は目の前に立つフェルに対して膝をつきこうべを垂れる。デュラハン達の手前、一応忠誠を示すふりはしておかないとな。
「これはこれは魔王様、このようなところにいらして一体どうされ───」
「アルカが居なくなった」
「…………はっ?」
えっ、今こいつなんて言った?なんかいつになく真面目な顔してバカな事を口にしたような……。
「城の中を隈なく探したけど見つからない。おそらく森に入ったんだと思う」
気がつけば俺は立ち上がり、フェルの胸倉を掴んでいた。周りにいるデュラハン達が狼狽えているが、そんなのは関係ない。
怒りで我を忘れている俺の目をフェルはしっかりと見据える。
「完全に僕の落ち度だ。ごめん」
冗談など一切ない表情で、俺から視線をそらさずにフェルが謝罪した。そんなフェルの顔を見て俺は冷静さを取り戻す。ゆっくりとフェルから手を放すと、視線を下に向け頭をかいた。
「いや……お前のせいじゃねぇよ。アルカを一人っきりにしたのは俺だ。だからこれは俺の責任」
くそっ!こんなことならアルカも一緒に連れてくればよかった!初めての場所ならいざ知らず、ここならアルカを連れてきても何の問題もなかっただろうに。ボーウィッドも絶対に認めてくれる。
「責任の所在は後でいいね。今はとにかく時間がない。アルカが森に入ったのは君達の所に行くためだ」
「なんでだ……って聞きたいところだが、それを知ったところでアルカが森にいることには変わりない」
「そうだね。今の状況を説明するとセリスが先行して森に探索に出ている。本当は城の者達も向かわせたいんだけど、あの森は普通の魔族じゃ生きては出られない」
セリスがなかなか戻らなかったのはアルカを探しに行っていたからか。っていうか魔族が生きては出られない森ってお前……。
「……なにがいるんだ?」
「ドラゴンだよ。人間達の侵入を阻むためにあそこはドラゴンの巣窟となっている」
最悪だ。よりによってドラゴンかよ。しかも巣窟って。
ドラゴンは魔物の中でも上位に君臨する強さを誇っている。その危険性ゆえ、ドラゴン討伐の依頼が冒険者ギルドにやって来ると、Bランク以上の冒険者に受注が限られるほどであった。
「……状況はわかったね。クロは森に行ったことがないから、僕が適当に転移魔法で森まで飛ばす」
「あぁ……わかった」
緊急事態なんだ。俺の家族が危機に瀕している。俺はこちらの様子を窺っているデュラハン達に頭を下げた。
「みんなすまねぇ。……言い出しっぺの俺がこの場を離れるなんておかしいと思うけど……俺の娘が危ないんだ」
アルカを危険にさらし、デュラハン達の改革も中途半端。なにやっているんだ俺は。こんなにも自分に怒りを覚えたのは初めてだ。自分で自分をぶん殴ってやりてぇ。
そんな俺を見かねたのか、黒い鎧のギッシュがおもむろに立ち上がった。
「……指揮官殿……早く行け…………元々ここは……俺達デュラハンが当番制でやるはずだった…………だからここは俺達とアニー殿に任せろ……」
「……すまねぇ!!」
俺はギッシュの心意気に感謝する。そんなギッシュに賛同するように他のデュラハン達も立ち上がり、アニーさんの手伝いにまわり始めた。まったく……本当お前らデュラハンはいい奴らばっかだよ。
「話はついたみたいだね。飛ばすよ」
「頼む」
俺は短く返事すると、フェルの転移魔法により、一瞬で森へと移動した。
俺はゆっくりと深呼吸しながら森を一瞥する。これは……今まで気がつかなかったけど、やべぇな。王都の付近にあった森なんて目じゃないくらいの殺気が満ち溢れてやがる。おそらく王都の森とは生き物の格が違うんだろうな。
っと、こんな悠長に森について考察している場合じゃなかった。早急にアルカを探さなければ。でもどこに行ったらいいんだ?
森は育ちすぎた木によって光が遮られており、昼間だというのにかなり薄暗かった。こんな森に一人でなんて……。
俺は逸る気持ちを押さえつけ、とにかく森の中を探しまくるしかない、と意気込み、駆け出そうとした瞬間、手に何かが握られる。
「えっ?アロンダイト?」
それはフェルからもらった漆黒の剣だった。俺の身体の中にあるはずだろ?なんで出てきた?俺は呼び出していないぞ?
俺がアロンダイトが戻るように頭に念じても、変わらずアロンダイトは俺の手に握られている。くそっ!剣にかまってる暇なんかねぇのに!もうこのままアロンダイトを持ったまま探しに行くしか……!!
不意に手に違和感を感じ、アロンダイトを握る手に目を向ける。なんだ?なんか誰かに引っ張られているような感覚があるぞ?
「まさか……お前……」
俺の周りには誰もいない。であれば俺の手を引っ張っているのはただ一人、いや一本。こうなりゃオカルトでも何でも縋ってやるぜ!
「アロンダイト!俺をアルカのところまで案内しろ!!」
俺の言葉に呼応するように俺の手を引っ張る力が強くなるのを感じた。もうアロンダイトを信じる以外に道はない。待ってろアルカ!!今すぐに迎えに行くからな!!!





